英国、25年よりキャップ&フロア方式採用へ。電力システムの脱炭素化に資する長期エネルギー貯蔵(LDES)投資後押し

英国政府は10月10日、再生可能エネルギー導入に伴う電力需給調整のための長期エネルギー貯蔵(LDES)への投資を促すべく、キャップ&フロア方式を開始すると発表した(*1)。2025年に第1ラウンドを実施する。

今回の発表は、約40年ぶりの大規模なLDES施設の建設を後押しすることで、再エネの貯蔵と英国のエネルギー安全保障の強化に寄与する。

LDES技術は再エネを貯蔵し、必要に応じて送電網や家庭に放出することで、巨大なバッテリーのような働きをする。これには水を貯水池に汲み上げて電気を蓄え、後に放出する揚水発電も含まれる。

クリーンな国産エネルギーを安定供給することで、これらのプロジェクトは英国のエネルギー自立を強化し、世界的に不安定なガス市場から消費者を保護できる。

しかし、運用コストが低いにもかかわらず、初期費用が高いなどの障壁が、LDESへの投資を妨げてきた。今回発表したキャップ&フロア方式を導入することで、投資家の信頼を高め、何千もの雇用創出と、クリーン電力の供給に資するプロジェクトに数十億ポンドの資金を提供できると見られている。

マイケル・シャンクス・エネルギー相は「太陽が照っていない時や風が吹いていない時のために、エネルギーを貯蔵する能力も高める必要がある。40年間、LDESが新設されなかったという過去の遺産を覆し、確立された技術と新しい技術の両方への民間投資を促進する措置を講じる」と述べた(*1)。

キャップ&フロア方式は、収益の上限を設定する代わりに、開発者に対して最低限の収入を保証する。英国のガス・電力市場規制局(Ofgem)は規制当局および実施機関として行動することに同意しており、同スキームの第1ラウンドは来年に実施される予定だ。

Ofgemが投資支援スキームを設計する。テクノロジーは、技術成熟度に応じて成熟した技術と新しいイノベーションに分けられる。

現在、英国ではスコットランドとウェールズの4つの既存の揚水発電所で2.8ギガワット(GW)のLDES施設が稼働しており、すでに国内の電力供給において重要な役割を果たしている。

その他のエネルギー貯蔵技術には、液化空気エネルギー貯蔵(LAES)、圧縮空気エネルギー貯蔵(CAES)、フロー電池などが開発中であり、投資家の支援が期待されている。

20GWのLDESを導入することで、25年から50年の間に電力システムで240億ポンド(約4兆7,000億円)節約できると分析されている。ピーク時の需要を満たすために安価な再エネを利用できるようになるため、家庭のエネルギー料金が削減され、高価な天然ガスへの依存も低減される。

National Electricity System Operatorは、50年までにネットゼロを達成するには、合計11.5~15.3GWのLDESが必要になると推定している。

同様のキャップ&フロア方式は、英国の送電網と他国を結ぶ送電線にも採用されている。14年に導入され、フロア価格での支払いはないが、開発者は消費者とレベニューシェアしている。

【参照記事】*1 GOV.UK「New scheme to attract investment in renewable energy storage

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フォルトゥナ

日系・外資系証券会社に15年ほど勤務。リサーチ部門で国内外の投資家様向けに株式レポートを執筆。株式の専門家としてテレビ出演歴あり。現在はフリーランスとして独立し、金融経済やESG・サステナビリティ分野などの記事執筆、翻訳、および資産運用コンサルに従事。企業型DC導入およびiDeco加入者向けプレゼンテーション経験もあり。
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