「仮想通貨の世界で今注目を集める新たな資金調達手段がある」、そう報じるのは世界有数の経済メディアであるブルームバーグだ。ICO(Initial Coin Offering:イニシャル・コイン・オファリング)の凋落に伴って新たに注目を集めるのがSTO(Security Token Offering:セキュリティ・トークン・オファリング)だ。STOは、資金調達をしたいプロジェクトがセキュリティトークンと呼ばれる独自の通貨を発行し、適格投資家に販売することで資金を集めることを指す。
「セキュリティトークン」とは、株式や債券、デリバティブ、不動産、特許、著作権、サービス利用権など、価値の裏付けがあるさまざまな資産を、ブロックチェーンを用いてデジタル化したものだ。セキュリティトークンの定義はFINMA(スイス金融市場監査局)が発表したICOのガイドラインで定められたもので、その他にもビットコインのような「決済用トークン」、プラットフォームの使用権として利用される「ユーティリティトークン」が存在している。
仮想通貨の世界で一般的であったICOは、株式を活用した従来の資金調達手段であるIPO(Initial Public Offering)よりも資金調達のハードルが低いというメリットがある。これは、IPOは会社の所有権の引き渡しに当たるため、経営への関与や利益の分配が必要となる一方、ICOはあくまで対価としてトークンを付与するためだ。ICOでは規制当局への登録や届出も不要であることから、スタートアップを中心としてICOによる資金調達が注目を集めていた。
スタートアップのための資金調達手段として注目を集めたICOだが、詐欺や不正行為を行う者が出始めたことを受け、規制当局による投資家保護の動きが見られ始める。こうして、次に注目をされ始めたのがSTOだ。STOでは有価証券などをデジタル化するため、配当をもらえるという特徴をもつ他、ICOにはなかったトークンセールの参加者制限があることも特徴だ。また、ICOよりもしっかりとした情報開示が求められるものの、IPOほど負担が大きくないことも、STOがスタートアップ向けの資金調達手段とされる理由にある。
ブルームバーグが2月12日報じたところによると、2017年に2件しかなかったSTOプロジェクト数は、2018年には25件となり、2019年には90件近くになる見込みだという。ICOの資金調達額が減少傾向を続ける中で着実に進捗を見せるSTOだが、一般投資家が購入することは難しい。セキュリティトークンは、米国では証券法や証券取引法の対象として、日本では金融商品取引法などの対象として、法令に遵守しなければならないことがSTOを取り巻く厳しい制約につながっているためだ。
画期的な資金調達方法として注目を集めたICOは、法整備が追いついていなかったこともあり、プロジェクトの正しい価値を判断することは難しかった。その点、STOはさまざまな法律に準拠するからこそ、新たな資金調達手段として注目を集めている。今はまだ一般投資家が手を出すことはできない商品ではあるが、金融商品をトークンに載せるシステムは今後、新たな投資商品の誕生に繋がる可能性はある。しかし、そこに至るにはまだ多くの課題があることも事実だ。今後の動向にも引き続き注目していきたい。
【参照記事】Security Tokens Are the New Crypto – But You Probably Can’t Afford Them
立花 佑
最新記事 by 立花 佑 (全て見る)
- ブランド保護の最前線ーブロックチェーンで実現するトレーサビリティと信頼性向上 - 2024年9月6日
- 静岡市プレミアムデジタル商品券 1次販売の結果と2次発売の背景 - 2024年9月5日
- 新潟県十日町市「棚DAO」の取り組みとNFTデジタル会員権|地域創生におけるDAO活用事例 - 2024年9月3日
- 東北地方の経済的自立を目的とした地方創生DAO「みちのくDAO」とは? - 2024年8月22日
- 岩手県紫波町のWeb3タウン構想とは?DAOとNFTを活用した地域活性化の新戦略 - 2024年8月22日