一般財団法人社会変革推進財団(SIIF)はインパクト投資の個人市場の活性化に必要な基礎情報を調査するため、全国の個人を対象に「インパクト投資消費者意識調査」を実施、10月12日付で結果を公表した。2019年に続き2度目の調査。
「日本は世界有数の個人金融資産を持っており、また機関投資家からのインパクト投資額が順調に推移している。その資産の一部がインパクト投資に向かうことで社会課題解決が進むと期待されているが、個人が投資できるインパクト投資商品はまだ少なく、個人市場はまだテイクオフ(離陸)していない状態。本調査もインパクト投資の個人市場活性化の一助となることを志し、実施した」とSIIFは調査の背景を説明する。
19年度は初回ということもあり、インパクト投資の認知度や実際にインパクト投資を行うことへの関心度を重点に調査したが、今年度は、認知度や投資実行関心度に加え、インパクト投資の潜在顧客層の属性、価値観や関心投資分野に関する設問を拡充した。調査は株式会社マクロミルに委託、全国の20歳から69歳までの男女3098人(昨年より約1000人増大)を対象とした。
まず、消費者に預貯金以外に投資をしているかどうかを尋ねると、投資経験があると回答した人は45.2%(昨年は44.8%)で、この一年間ほぼ変化がない。「年金2000万円問題」が話題になった後でも、新たに投資を始めた人は少なかったことがわかる。実際に投資を行ったことのある45.2%のうち、9割にあたる39.8%は、「株式か投資信託の少なくとも一つはやったことがある」と回答。調査を担当したナレッジ・デベロップメント・オフィサーの織田聡氏は「今後、金融機関がリテール向けのインパクト投資商品を組成する場合、株式か投資信託として売り出すことが、既に投資を行っている消費者にとって馴染みやすい形態かも知れない」と考察している。
他の機関が実施する消費者調査でも、投資経験率が低いことが指摘されている。織田氏も「つくづく『日本の消費者は“資産運用”に関心はあっても“投資”には抵抗感がある』と感じている。投資(Investment)と投機(Speculation)は非なるものだが、日本人は投資を危ういものとして遠ざけているのでは?」とコメントしている。
「インパクト投資を聞いたことがあり意味もよく知っている」というコア認知層は、わずか1.7%。この層に「意味も少し知っている」(4.4%)層まで含めると、意味を多少なりとも理解している認知者の割合は6.1%。19年の数値である6.8%と比較すると、統計上の誤差を勘案しても横ばいだった。
認知度を性別、世代、年収などの属性でクロス分析すると、いくつかの傾向が浮かぶ。まず、株式や投資信託など既に投資経験がある人は、投資経験がない人に比べ、認知度はそれぞれ11.1% 、1.9%となった。投資経験がある人のなかで、男性の20代、30代、いわゆるミレニアル世代は高い認知度を示しているが、40代からは認知度が急減していた。同じく投資経験のある20代から40代までの女性も、10%前後の認知度を記録しているが、50代以降は急減、世代の隔たりが明らかになった。
投資経験と世帯年収によるクロス分析では、投資経験がある場合、世帯年収があがると認知度が高くなるという相関関係があるが、投資経験がないと世帯年収が上がっても認知度は高くならなかった。「投資経験の有無は、情報感度や知的好奇心と強い関係があるとうかがえる」と織田氏は指摘する。
インパクト投資を実際に自分で行ってみることに「大いに関心がある」「やや関心がある」の合計は19.1%(3,098人中591人)。これについて織田氏は「認知度が6.1%なのに比べ、インパクト投資の潜在顧客層が2割近くあるというのは特筆すべき。インパクト投資という言葉を知らなくても、投資を通じて社会に貢献したいという人が一定程度いることがわかり、SIIFとしても非常に心強く感じる」と述べている。
さらに、インパクト投資に関心がある層に,割ける資金を尋ねたところ、約4割は「20万円以上」と回答。投資関心度の回答と、投入意向金額の回答を組み合わせ、ピラミッド図のように赤いマルで囲ったセグメントを、調査ではインパクト投資の「潜在顧客層」と定義。さらに潜在顧客層を「インパクト投資に割いてもよい」という金額の大小で分析したところ、パーソナリティや価値観に大きな違いが出た。分析は次号で紹介する予定。
【参照リリース】2020年度:インパクト投資消費者調査結果発表 ~インパクト投資の認知度は6.1%。関心度は2割程度~
【関連サイト】一般財団法人社会変革推進財団(SIIF)
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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