「新型コロナウィルス感染拡大の「第一波」のピーク時には、経済成長の迅速な再スタートが絶対的な優先事項となり、気候変動への取り組みが犠牲になってしまうのでは、との懸念が強まった。実際にはまったく逆で、多くの政府が経済成長を促す方策として低炭素モデルへの移行を検討している」。アクサ・インベストメント・マネージャーズ株式会社(アクサIM)は現状、このような見解に立つ。調査部グローバルヘッド兼アクサグループ・チーフエコノミストのジル・モエック氏が10月8日、環境省主催の第3回「ESG金融ハイレベル・パネル」でビデオレターによる基調講演の中で述べた。
同パネルは金融・投資分野の各業界トップと国が連携し、ESG(環境・社会・ガバナンス)金融に関する意識と取組を高めていくための議論を行い、行動する場として環境省によって設置された。モエック氏はまず、アクサグループの20年以上にわたる責任投資の歴史、新型コロナ感染拡大を受けたESG投資の状況、インパクト投資への取り組み、今後のESG投資の課題などを説明。その上で「多くの政府が経済成長を促す方策として低炭素モデルへの移行を検討している」と提起した。
「経済成長と脱炭素化は相反する目標ではなく、再生可能エネルギーへの投資や不動産の熱効率改善は二重のメリットをもたらす。経済活動の中で炭素排出量を低下させ、経済復興支援に貢献するものだ」とモエック氏は強調する。具体例として、EUがヨーロッパ大陸の経済回復のための7500億ユーロの「次世代復興基金」のうち、3分の1をグリーン投資プロジェクトにあてることを決定した点、さらに「ESGの金融イノベーションを活用し、同募金の資金調達ではEU債券の30%がグリーンボンドのかたちで発行される」ことを挙げた。
現在、同社はインパクト投資に注目している。インパクト投資は、投資の実行に際して具体的な成果(意図、プラス効果、社会、環境の側面)を重視しており、とりわけ重要なのがエンゲージメントだ。「当社は2020年上半期だけでも80以上のグローバル企業と気候変動リスクに関する対話を行った」(モエック氏)。企業の多くは「高炭素排出セクター」だった。
モエック氏は、今後数年間のESG投資を形成する第一の課題は「規制圧力」と指摘。「各国政府が気候変動に対する緊急対策を取るようになり、多くの規制を検討し始めている」とした。第二の課題は、新たな金融商品の登場。同社は低炭素経済社会等に移行(トランジション)するためのプロジェクトを資金使途とする債券「トランジションボンド」を支援している。「これはグリーンボンドを発行できる企業と通常の債券発行体の間の大きなギャップを埋めるもので、将来グリーン企業へ移行しようとしている意欲的な『ブラウン企業』を支えたい」姿勢を示した。
第三の課題は「新たな環境テーマの急浮上」。炭素強度は優先事項だが、新しい課題にも目を向ける必要があるとして、直近の注力テーマに生物多様性を挙げた。
講演の中で、モエック氏は「政府や企業の姿勢の変化で、当社は2050年までの地球の気温上昇を、産業革命以前と比較して1.5℃以内に抑えることに確信を強めている」とコメント。同パネルが終了した10月26日、菅義偉内閣総理大臣は初の所信表明演説で成長戦略の柱に「経済と環境の好循環」を掲げ、グリーン社会の実現に最大限注力していく方針を明示。「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言した。
【関連サイト】アクサ・インベストメント・マネージャーズ株式会社
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