猛暑に干ばつ、豪雨、連続する台風。気候変動が世界各地で深刻な影響を与えている。英国の資産運用大手シュローダーは2019年から地球規模の環境地理空間データを利用し分析することで、投資先の主要な環境リスクを探り出してきた。気候変動の影響が明らかになるにつれ、インフラストラクチャー、オフィス、ソーシャルスペースは適応を迫られるようになってきているため「特に都市不動産投資家は環境リスクの把握が不可欠」と同社は主張する。8月30日に発表したレポート「都市部のヒートアイランド現象:投資家が気温の上昇を気にかけるべき理由」は、気候変動のひとつである熱波の影響を考察している。
同社は、NASAなどの宇宙関連機関が発表したデータを含め、学術研究において使用されるデータセットを継続的に調査・解析し、投資先の主要な環境リスクを探り出してきた。分析のベースとするデータは幅広いリスク指標をカバーしており、山火事に関する気象指数、過去の熱帯低気圧の発生率、落雷密度、地滑りリスク、洪水などを網羅している。地球上の30キロメートル間隔の気象データにアクセスし、気温や降水量などの変数を1時間ごとに収集。このため、最近の欧州で観測されている熱波に関しても、主要都市で発生した熱波を視覚化することが可能だ。
過去10年間に欧州の主要グローバル都市で記録した7月の最高気温の日数を1つのヒストグラムにプロットし、その分布から22年に観測したロンドンの熱波がどの部分に位置するのかを抽出した。7月18日にロンドンで記録された約36.5℃は、過去10年間に欧州の主要都市で同月に記録したすべての最高気温の日数の98%よりも暑く、19日に記録した約39℃は過去に記録した全日数の99%より暑かった。ロンドンで地表温度が40℃前後になることは非常にまれだが、欧州のいくつかの都市では、このようなピークが定期的に観測されている。
気候変動の影響がより懸念されるのは南アジアの気温だ。メディアで最もよく報道されるのは地表面の大気中の温度だが「人が感じる体感温度の方が快適性の観点から重要」と同社は言う。体感温度は、気温、相対湿度、風速の複合的な影響により、人間が感じる温度の感覚を定量的に表したもので、この指標を欧州の都市と南アジアの都市で比較すると、欧州は南アジアの不快さには及ばない。
南アジアから中央・北欧州の都市環境で気候変動の影響が明らかになるにつれ、同社のインフラストラクチャー、オフィス、ソーシャルスペースは適応を迫られるようになってきている。「エアコンはクライアントを満足させるための短期的な対応策で、エアコンがないオフィスはすぐに二流の物件になってしまう。しかし、空調の普及は、これらのオフィススペースの運営上の二酸化炭素排出量をさらに増加させることになる」と、同社は視点で思考することを説く。
中期的には、光の反射の利用、最小限の熱の取り込み、空気の循環や換気の改善など、革新的な新しい建築手法を用いた建築物が期待される。また、都市のヒートアイランド現象を減らすことを意識した都市計画が標準となり、都市部の開発に緑地を保全し、推進することが奨励されていく必要がある、とレポートは結ばれている。
気候変動は単年、あるいは限られた地域の現象ではない。気候変動に対応する施策や新技術に関する知識、より中長期的な視点が、投資の世界でも一層求められていくだろう。
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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