ESG(環境・社会・企業統治)情報の開示や取り組みに積極的な企業へ優先的に投資を振り向けるESG投資、さらに投資先銘柄を選択する際にESG情報を組み入れる「ESGインテグレーション」。米国では既に主流となっている手法で、日本でも関心が高まっているが、その意義や実務の内容は、正しく認識されているだろうか。資産運用大手のシュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社が2月24日付のレポートで説明している。
同社は今年1月、運用するすべての資産で、非財務情報を取り入れるESGインテグレーションを完了させており、同手法を自社の目標としてだけでなく、投資業界全体の課題として改めて説明している。同社の定義は「まず、特定の投資案件に関する最も重要なESG要因を把握し、期待リターンに反映させて優位なポジションを築いたり、関連するリスクに反映させて十分なヘッジを行うこと」であり、同手法による投資戦略とは「長期的な価値を生み出すためにリスク管理と値上がりしそうな銘柄の特定に重点を置く」のが基本となる。
サステナブル投資やインパクト投資の戦略とは異なる点は、ベストインクラスのサステナブル戦略では、優れたサステナビリティ(持続可能性)を有する企業を特に重視する場合があり、議論の的になる可能性のある活動や業界は避ける傾向にある。インパクト投資は、金銭的なリターンを追求しつつ、社会に対し目に見える形で具体的な好影響を与えることを目的とする。これに対してESGインテグレーションは気候変動について調べたり、プロセスの序盤で特定の企業を除外したりするだけではなく、運用プロセスの各段階にESG要因への考慮を適切に統合、組み込む必要があるとしている。
ESGインテグレーションの根底にあるのはリスク管理だ。ESGリスクは急速に拡大しており、国際機関の世界経済フォーラムは、発生する可能性と影響度の両方の観点から上位5つのグローバルリスクを挙げている。それによると、10年前のリスクはすべて経済問題だった。しかしここ5年間で環境問題と社会問題の重要度が急速に増し、2020年には発生する可能性が最も高いグローバルリスクの上位5つはすべて環境問題が占めるようになっている。
「5年後にはESGインテグレーションは存在しない。当たり前のこととして、期待されるようになる」というのが、現在の同社の見解だ。かつては「望ましいもの」と考えられていたものが、今では投資で成功を収めるうえで「インテグレーションを怠る者は後れを取るリスクを負う」(同社)段階となっている。「業界の各方面で100社の資産運用会社にこの質問を投げかけてみても、同じ回答はほとんど得られないだろう。シュローダーが実施した機関投資家調査2020では、サステナブル投資を妨げる最大の要因として「グリーンウォッシング」が挙げられている。うわべだけの環境保全活動のことだ。「実務レベルでのESGインテグレーションの本当の意味を理解することがこれまで以上に重要になっている」と同社は説く。
同社では投資プロセスの各段階にESGを適切に組み込むことをインテグレーションと言っており、アセットクラスによって意味が異なる。例えばファンダメンタル株式チームでは、ESGは主にボトムアップの企業調査に関わり、社債チームは、トップダウンのテーマ調査とボトムアップの発行体調査に関わるという具合だ。アセットクラスによって実際どのようにESGを統合しているのかは2019年版の「サステナブル・インベストメント・レポート」で公開しており、21年第1四半期末に公表予定の20年版レポートでは、ESGインテグレーションを完了したシュローダーの今後の展望を明らかにするという。
【関連サイト】シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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