サステナビリティに世界的な注目が集まる中、日本はESG(環境・社会・ガバナンス)で海外に遅れをとっていると指摘されることが多い。しかし、資産運用大手のシュローダーは「多くの日本企業がステークホルダー・マネジメントにおいて先進的な取り組みをとってきた」という見解を示している。7月19日に日本語版が公開されたレポート「本当に日本企業はESGにおいて遅れているのか?」から、日本のサステナビリティにおける強みと改善余地がある領域について紹介する。
「日本がサステナビリティ課題において遅れをとっているというのは作り話のようなもの。実際は、多くの日本企業がステークホルダー・マネジメントへの取組みにおいて先進的な取り組みをとってきたと考えている」とシュローダーのグローバルバリュー・ポートフォリオマネジャーであるリアム・ナン氏は言う。
ESGにおける企業の強みと弱みを評価する際に、多くの投資家が様々なステークホルダーへの対応に焦点を当てる。つまり、環境のみならず、従業員やサプライヤー、顧客、コミュニティ、株主への対応を考慮しているということだ。シュローダーの日本株・ファンドマネジャーである竹爪正樹氏は、「ESG投資の社会分野(S)における日本の強みは、サステナブル投資への昨今の潮流よりずっと以前から根付いている」と述べている。
さらに、「コミュニティへの強い取り組みは、サステナビリティにおいて日本企業がもつ優位性と言える。大企業でも“本拠地”を持ち、そのお膝元地域においてサプライヤーやコミュニティと強いつながりを持つ傾向がある。このことは間違いなく素晴らしいことだが、我々は株主として、単に地域のみに焦点を当てるのではなく、より広範でグローバルな視点でサステナビリティを考慮するよう、企業に対して促していく重要な役割がある」と付け加える。
例として、臨床検査サービスを提供するH.U.グループホールディングスによる迅速な新型コロナウイルス検査キットの製造、NTTが、KDDIと社会貢献連携協定を締結し、大規模な自然災害が発生した際、両社の資産を相互活用することができるようになったことなどを挙げる。また、パナソニックホールディングスによる産業エネルギーの効率性を向上させ、炭素排出量を削減するための取り組み、特に電気自動車ソリューション改善への投資を評価する。
ほか、日本企業の特徴として、雇用主と従業員の間に強い関係がある点、近年は株主重視の姿勢について、「米国や欧州の競合他社と比較して日本企業の財務状況は健全であり、株主還元を重視するこの傾向は今後も続くだろう」とポジティブに捉えている。
一方、改善余地として、日本企業の取締役会において多様性が欠けていることに言及する。「あらゆる組織において、様々な見解や意見は、よりよい意思決定を下すために必要不可欠」だが、日本企業の取締役は、年長の日本人男性が大半を占める傾向があり、外国人取締役はほとんど見られない。同社は、女性が取締役レベルになるために必要な経験を得るために、どのようなパイプラインや支援を実施しているのかを企業に要求していく方針だ。
日本は世界の中でも特に歴史が長い国で、創業から1000年以上の歴史を持つ企業も存在する。また、日本は世界に先駆けて超高齢社会・人口減少社会を迎えた課題先進国でもある。ESGやサステナビリティは欧米が進んでいると考えてしまいがちだが、日本には、長い歴史の中で育まれた企業活動の哲学や知恵、世界に類を見ない新しい課題の解決に取り組む企業も少なくない。今改めて、そうした企業からESGやサステナビリティについて学ぶべき点も多いのではないだろうか。

HEDGE GUIDE編集部 ESG投資チーム

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