米国エネルギー省のクリス・ライト長官とカタールのサード・アル・カービ・エネルギー担当国務大臣は10月22日、欧州連合(EU)加盟国の首脳に宛てて共同書簡を送り、EUが提案する「企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)」に対する深刻な懸念を表明した。両国は世界有数の液化天然ガス(LNG)生産国として、この指令がEUのエネルギー安全保障と経済競争力に意図せざる悪影響を及ぼす可能性があると警告している。
CSSDDは、企業に対してサプライチェーン全体における人権侵害や環境破壊のリスク評価と対策を義務付ける規制で、2月にEU委員会が簡素化案(オムニバス・パッケージ)を提案したものの、米国とカタールは「本来の目的を大きく下回る内容」と批判している。書簡では、現行案が「EUの家庭や企業にとって重要なエネルギー供給の手頃さと信頼性に重大なリスクをもたらし、EU産業経済の将来の成長、競争力、強靭性に対する実存的脅威となる」と指摘。特に域外適用を規定する第2条、気候変動緩和のための移行計画に関する第22条、罰則規定の第27条、企業の民事責任を定める第29条の4条項について、再考を強く求めている。
両国は過去1年にわたりEU各国政府と建設的な対話を重ねてきたものの、「広範な実質的な関与の欠如」に懸念を表明。書簡では、CSSDDがエネルギーコストの上昇や投資・貿易の冷え込みを招くだけでなく、米国、カタール、および国際的なエネルギー業界がEU域内でのパートナーシップと事業を維持・拡大する能力を「著しく損なう」と警告している。この懸念はエネルギー分野に限らず、欧州企業46社のCEOが最近、CSSDDの廃止を求める共同声明を発表するなど、欧州内でも広く共有されている。LNGは今後数十年間、EUのエネルギーミックスにおいて重要な役割を果たすと見られており、主要供給国からの懸念表明は、EUのエネルギー政策に大きな影響を与える可能性がある。
EUは現在、ロシア産エネルギーへの依存を減らし、エネルギー供給源の多様化を進めているが、CSSDDをめぐる対立は、気候変動対策と経済的現実のバランスという難題を浮き彫りにしている。両国は、規制の完全廃止または問題条項の削除を求めるとともに、「EUの長期的な競争力と市民の繁栄を守るため、バランスの取れた実用的なアプローチ」に向けた対話の再開を要請しており、今後のEU側の対応が注目される。
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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