欧州連合(EU)は、2040年までに温室効果ガス排出量を90%削減する法的拘束力のある目標について、産業界により柔軟な実施経路を認める妥協案を検討している。ロイターが入手した10月25日付のEU内部文書によると、各国政府は目標達成に向けた条件をめぐり数カ月にわたり交渉を続けているが、合意には至っていない。11月6日から開催される国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)を前に、EUは目標の承認を急いでいる。
この妥協案では、EUが2年ごとに2040年目標を見直すことを認めており、将来的に目標を緩和する余地を残す内容となっている。また、森林によるCO2吸収量が予想を下回った場合や、大気中からCO2を除去する技術の開発が計画より遅れた場合でも、他の産業部門に排出削減を加速させる負担を強いないことを法律に明記する方針だ。文書には「ある部門で生じた不足分を、他の部門の犠牲で補うべきではない」と記されている。
背景には、先週のEU首脳会議で、市民のエネルギー料金上昇を回避し、中国製品の安価な輸入や米国の関税措置に直面する企業を支援しながら、環境目標を達成するための「実現条件」について議論が交わされたことがある。グリーン政策への反発や、国防や産業振興と並行して低炭素転換に必要な資金調達への懸念が、合意の障壁となっている。
一方、90%という排出削減目標そのものや、国内の取り組みではなく海外のカーボンクレジット購入で目標の3%まで達成できるという条項については変更されていない。ただし各国間ではこの点も議論が続いており、フランスのマクロン大統領は先週、クレジットの使用上限を最大5%まで引き上げる可能性に言及した。
懐疑的な政府を説得するため、欧州委員会はポーランドやチェコが求める輸送燃料向けカーボン市場での価格統制など、他の環境政策の変更も約束している。また、ドイツやイタリアからの圧力を受け、2035年の内燃機関車販売禁止措置の緩和も検討中だ。
EU加盟国の大使らは来週この提案について交渉し、11月4日に各国の気候担当相が目標承認を試みる予定となっている。EUの2040年目標が承認されれば、世界の気候変動対策における重要な節目となる一方、産業競争力との両立という課題は引き続き各国の政策判断を左右する要因となりそうだ。
【参照記事】EU considers more flexible climate target in hunt for deal, draft shows
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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