背景資産運用大手のシュローダーはレポート「シュローダー・イン・フォーカス」(8月17日発表)で、「ESGに注力する企業がアンダーパフォームすると想定される理由と実際にはアウトパフォームしている背景」のタイトルで、「ESG(環境・社会・企業統治)投資はパフォーマンスの改善をもたらすのか?」を考察している。アウトパフォームは、日経平均株価やTOPIXなどのベンチマークに対して、ある指数もしくは銘柄の一定期間の収益率が上回る、または上回りそうなことを指す。同社は「アクティブな投資家だけがその投資機会を捉えることができる」と説く。
レポートは「そもそもESG投資とは何を意味するか?」という問いを起点とする。判断の指標となるのは第三者の評価機関の存在だが、実は、主要なESG評価機関を見てみても、ESG格付に共通性はほとんどなく、同じ企業に対して高評価を付与する機関と低評価を付与する機関が分かれるケースは多く存在する。実は「ESGの観点における明確なコンセンサスはない」のが現状だ。
ESGリスクを投資の意思決定プロセスに組み込んでいる場合、例えば、ESGリスクを含むあらゆるリスクを踏まえた上で、魅力的な投資先かどうかを判断する方法もある。ただし、ESG評価機関によるESG格付に共通性がほとんどないことに加え、同じ格付機関が提供するESG戦略でも、パフォーマンスに大きなばらつきがあり、同社は「それぞれの指数のパフォーマンスにおける関連性は相対的に弱い」と指摘。例えば、同じ5年間で「MSCI米国ESGリーダーズ指数」は「MSCI米国指数」のパフォーマンスを下回ったのに対し、「MSCI米国気候変動指数」は18%もアウトパフォームした。各指数はそれぞれ異なる成果を目指しており、構成銘柄のウェイト付けを行う基準も異なるため、このような違いは当然生じるが、ESG戦略全体のパフォーマンスを評価するのは難しくなる。
ESG戦略がアウトパフォームするかどうかについての評価は、ESGリスクの測定方法と、投資家がESGの重点をどこに置くかによるところが大きいが、分析の効果を明確に示すことは容易ではないのが現状だ。同社は、リスクの視点からアプローチすることを提唱する。ESGリスクについて信用リスクと同様に考え、さらにESGリスクが適正に価格に織り込まれるとすれば、①ESGリスクの低い企業は高リスク企業よりも期待リターンが低い②ESGリスクの低い企業は、高リスク企業よりも低い資本コストの恩恵を受けることができる、と想定する。
この想定は市場価格がすべてのESGリスクを含むあらゆる入手可能な情報を反映したものである場合に成立するが、大半のESGリスクは、数年先まで顕在化しないリスクを価格へ織り込むことは困難だ。市場が長期的リスクを適切に織り込むことができないことにより、適正価格から大幅に乖離する可能性がある。判断に悩むところだが、同社は「ESGを重視する投資家にとってはそこにチャンスがある」とする。ESGリスクの影響を最も受けやすい、またはESG関連の進展の恩恵を最も得やすい企業や業種を市場に先駆けて特定することで、機会を捉えることができるという理由だ。
主要なESG評価機関によるESG格付は長期的視野での評価に対応できておらず、信用格付と同様にESG格付は過去の事象に対する評価を示しており、事象の格付けへの反映は遅れる傾向にある。見出しの数値だけを見ていても企業が改善傾向にあるのか判断できない場合もある。しかし、同社は「企業文化の変化の兆しは数値よりも、また、格付に改善が見られるよりも前に、経営陣との会話を通して明らかになることがある」と、アクティブオーナーシップの重要性を説く。「ESG投資家はこの点において優位性を発揮することができる。投資家が意見を述べ、影響力を行使することによって本質を見抜き、変化を促すアクティブオーナーシップは、ESG投資の重要な要素」としている。
【関連サイト】シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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