米国最大級の公的年金であるニューヨーク州退職年金基金は2月9日、低炭素社会移行への取り組みが十分でないと判断したシェールオイル・ガス企業21社からダイベスト(投資撤退)することを発表した(*1)。21社のなかには米シェール大手のパイオニア・ナチュラル・リソーシズ(ティッカーシンボル:PXD)や米シェール老舗のチェサピーク・エナジー(CHK)などが含まれている。
同基金は42社のエネルギー・トランジション(#1)への取り組み動向を精査したうえで、21社からダイベストする決断を下した。これにより、2億3,800万ドル(約270億円)の資金を引きあげる見込みだ。
今回の動きは気候変動にともなう投資リスクに対応し、2040年までに運用資産全体からの温暖化ガス排出量を実質ゼロにするという目標達成に向けた取り組みの一環である。同基金はこれまでにオイルサンドと石炭企業34社からもダイベストしている。
同州のトーマス・ディナポリ会計監査官は、マーケットフォース(市場要因)や新たな政策によりエネルギー・トランジションが推進されるなか、財務リスクにさらされるシェールオイル・ガス企業への投資を制限しなければならないと述べた(*1)。なお、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD、#2)は、石油ガス業界が気候変動およびエネルギー・トランジションの影響を最も受ける可能性があると指摘している(*2)。
他方で、世界中の投資マネーがESG市場に押し寄せている状況だ。日米欧などの普及団体でつくる「世界持続可能投資連合(GSIA)」が2年に1度発表する世界のESG投資総額は、前回18年比15%増の35兆3,000億ドル(約4,000兆円)となった(*3)。なかでも、世界のサステナブル投資資産の半分ほどを占める米国は、同42%増と高い伸びを示した。ニューヨーク州退職年金基金も19年に「クライメート・アクション・プラン」を公表し、サステナブル投資に200億ドル投じることにコミットしている。
多額の資金を運用する各国の年金基金や資産運用会社が化石燃料からのダイベストメントを進めており、その動向は個人投資家にとっても投資企業を選別する際のひとつの参考になりそうだ。また、投資撤退となった企業がどのように投資家と関わり、エンゲージメント(対話)をしていくかといった点に注目しながら、投資対象を選ぶ必要があるだろう。
(#1)エネルギー・トランジション…従来の石炭や石油などの化石燃料を中心とするエネルギー構成から、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを中心としたものに大きく転換していくこと。
(#2)気候関連財務情報開示タスクフォース…企業・団体などに対して気候変動がもたらすリスクおよび機会の財務的影響を把握し、開示することを提言する組織。
【参照記事】*1 ニューヨーク州退職年金基金「DiNapoli Restricts Investments in 21 Shale Oil & Gas Companies」
【参照記事】*2 TCFD「Recommendations of the Task Force on Climate-related Financial Disclosures」
【参照記事】*3 世界持続可能投資連合「GLOBAL SUSTAINABLE INVESTMENT REVIEW 2020」
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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