不動産の脱炭素化に貢献するテック系スタートアップBedrock Energyは10月11日、シード期(資金調達ラウンド)に850万ドル(約12億7,000万円)の資金を調達したと発表した(*1)。調達した資金を元手に、地中熱で商業用不動産の脱炭素化を図る取り組みを加速させる。
今回の資金調達ラウンドは、シードもしくはプレシードラウンド(エンジェルラウンド)に特化したベンチャーキャピタルWireframe Venturesが主導した。この資金調達により、Bedrockは全電気式熱源機器を採用した地中熱空調システムの経済性を向上させる技術の開発と展開を加速し、不動産のネット・ゼロ達成を後押しする方針だ。
Bedrockは地中熱利用冷暖房システムの設計・施工・納入を行うスタートアップだ。
共同創業者兼最高技術責任者(CTO)を務めるシルヴィウ・リブスク氏は、米石油サービス会社ベーカー・ヒューズのチーフサイエンティストやテキサス大学オースティン校の教授を歴任している。石油・ガス業界におけるテクノロジー、油田の操業、ソフトウェアの活用など、数十年の経験・ノウハウを兼ね備えた人材も有している。
地中熱利用は地中を熱源として空調や給湯などに利用することである(*2)。地中の温度は外気温に比べると年間を通して変化が小さいため、夏は冷熱源、冬は温熱源として利用できる。同社はその特性を生かした地中熱利用ヒートポンプを活用し、再生可能でエミッションフリーな冷暖房を実現する。
2022年の創業以来、同社は掘削機の設計・製造、地質モデリングを作成するためのソフトウェアの開発、多分野にまたがるチームの育成に力を注いできた。
Bedrockの自律掘削や高度な地質モデリングを活用することにより、最大5倍の速さで、熱交換器を埋没させるための掘削(ボーリング)孔の建設や省スペース化を実現する(*3)。長期的な熱エネルギー性能も保証するほか、リアルタイムに施工精度を独自に検証するセンサーも備えている。
これらBedrockが提供するソリューションにより、同社の地中熱利用空調は密集した都市部の立地にも適合する。投資回収期間が5年以下であるため、不動産オーナーや投資家は2桁の内部収益率(IRR、#1)を確保しながら大規模物件の脱炭素化を実現できる。
Bedrockによると、地中熱ヒートポンプは、空気熱利用ヒートポンプや可変冷媒流量(VRF)型圧縮式ヒートポンプなどのあらゆるHVAC(暖房、換気、空調)ソリューションの中で最も効率が高くなるという(*3)。通常、従来のシステムと比較して年間エネルギーコストとメンテナンスコストを50%以上節約することができる。
また、地中熱ヒートポンプを導入することで、放熱用の室外機や冷媒管などを設置する必要がなく、室内空気汚染の心配もないため、最も安全で、最も健康的で、最も静かで、最も節水効果が高く、最も贅沢なビル空調の選択肢となるという。
世界の地熱ヒートポンプ市場は、2021年から2027年の間の年平均成長率(CAGR)が約5.6%と、着実な成長が見込まれている(*3)。エネルギーの安全保障と環境の持続可能性への関心の高まりを背景に、二酸化炭素(CO2)排出量の削減を目指す政府の政策が市場拡大を後押しする。
Bedrockによると、米国では連邦政府の優遇措置により、地熱システムの初期費用を30%から60%相殺できるという(*1)また、州政府の気候政策も大規模な不動産の脱炭素化を促す中、同社の技術ソリューションを活用した地中熱利用冷暖房システムは、全米の都市ビルの排出量とエネルギーコストを削減する有力な方法として位置づけられている。
Bedrockのソリューションは汎用性が高く、建物の改修から新築まで幅広く応用できる。当初は、小売、軽工業、オフィス、学校、商業施設に導入し、24年には全米でサービス展開を図る方針だ。
(#1)内部収益率…投資に必要な支出額の現在価値と、投資により得られるキャッシュフローの現在価値の総和が等しくなるような割引率。
【参照記事】*1 PR Newswire「Bedrock Energy Raises $8.5M to Decarbonize Commercial Real Estate with Geothermal Energy」
【参照記事】*2 環境省 水・大気環境局 水環境課 地下水・地盤環境室「地中熱利用にあたってのガイドライン(第4版)」
【参照記事】*3 Bedrock Energy「Unlocking geothermal for any real estate in any location」
【参照記事】*4 グローバルインフォメーション「地熱ヒートポンプの世界市場:現状分析と予測(2021年~2027年)」
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