一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12))に解説していただきました。
目次
- 森林由来クレジットとは
1-1.森林由来クレジットの概要
1-2.森林由来クレジット開発の背景
1-3.森林由来クレジットの現状 - 森林由来クレジットの方法論
2-1.森林経営活動方法論
2-2.植林活動方法論
2-3.再造林活動方法論 - 森林由来クレジットの特徴
3-1.森林の持続的な管理が必要
3-2.林業の持続性につながる
3-3.プラットフォームの立ち上げ - まとめ
日本は豊かな森林に恵まれ、国土の約3分の2が森で覆われています。これらの壮大な緑の海は、合計で52億㎥の木々が生息しており、日々多量の二酸化炭素を吸収しています。この力をさらに活かすための仕組み、「森林由来クレジット」が注目を浴びています。
特に、気候変動の対策として国が推進する中、その役割や方法論について知ることが重要となっています。本記事では、この注目の「森林由来クレジット」について、詳しく掘り下げていきます。
①森林由来クレジットとは
1-1.森林由来クレジットの概要
森林由来クレジットは、森林の保全や再生に貢献する取り組みを行う者に対して、その環境価値を評価し付与される取引可能なクレジットです。具体的には、森林の適切な管理(例:間伐)による温室効果ガスの吸収量が国によってクレジットとして認証され、森林保全の推進として注目されています。このクレジットは、カーボンオフセットしながら森林の管理をサポートする仕組みを持っています。
日本では、「J-クレジット制度」として森林由来クレジットが取り扱われています。2023年7月8日時点でこの制度は、省エネルギー設備の導入や森林の適切な経営による温室効果ガスの削減や吸収をクレジットとして国が認証する仕組みとなっています。この制度は、環境省・経済産業省・農林水産省によって2013年4月から運営されており、発行されたクレジットは他の企業に販売することも可能です。これにより、日本は気候変動問題への対策として森林由来クレジットの普及を推進しています。
1-2.森林由来クレジット開発の背景
森林は、地球の生態系で非常に重要な役割を果たしています。それは、二酸化炭素の吸収、生物多様性の維持、そして水源の保護においての大きな貢献に現れています。日本は、約3分の2の国土が森林に覆われている森林大国として、これらの恩恵を存分に享受しています。
2030年の二酸化炭素吸収目標として、おおよそ3,800万t-CO2が政府によって設定されています。その達成には官民が一体となった取り組みが不可欠です。しかし、違法伐採や大規模開発の影響で森林の存続が脅かされている現状も無視できません。そのため、森林の持続的な保全は今後の大きな課題として浮かび上がっています。
この背景を受け、J-クレジット制度では、森林保全の促進や地球温暖化対策を目的として、森林由来クレジットの発行・普及を進めています。さらに、企業のCSR活動やオフセットニーズにも応えつつ、クレジットを通じた森林・林業の持続的経営や森林資源の循環利用の推進も視野に入れています。
1-3.森林由来クレジットの現状
J-クレジット制度は、再生可能エネルギーや省エネルギーをはじめとした多岐にわたる方法論を持っており、2022年3月時点でのクレジット認証量は合計804万トン-CO2に達しています。しかし、森林経営から生じるクレジットの認証量は、全体のわずか1.6%、すなわち12.8万トンに止まっています。
また、クレジットの実際の活用には、使用者が無効化(償却)を実施する必要があります。しかし、「吸収系」の代表である森林由来クレジットは、「削減系」である再生可能エネルギーや省エネルギーに比べ、まだ十分に無効化の取り組みが進められていないのが現状です。
実際に、削減系のクレジットにおける無効化率は約57%であるのに対し、森林系の無効化率は約38%程度であると報告されています。
では、森林由来クレジットの活用が遅れている理由は何でしょうか。
主な要因として、市場価格の高さが指摘されています。具体的には、削減系のクレジットが約2,000円で取引される中、森林由来クレジットは7,000円から15,000円程度と高価であり、そのため導入が難しいと感じる企業も多いと考えられます。
森林由来クレジットは、対象となる森林の管理が適切に行われていることが前提です。さらに、地権者の権利関係の整理、二酸化炭素の吸収量の正確な計算、書類作成など、多くの手間と時間がかかる作業が必要です。これらの要因がクレジットの価格に反映され、利用が進まない背景となっています。
この問題を解決するため、現在は国での制度改善やルール作りが進行中であり、これにより森林由来クレジットの利用が広がることが期待されています。
②森林由来クレジットの方法論
J-クレジット制度の森林分野には、「森林経営活動」、「植林活動」、「再造林活動」という3つの方法論が定められています。
以下では、これら3つの方法論について詳しく見ていきます。
2-1.森林経営活動方法論
この方法論は、森林法に基づき市町村などで認定された「森林経営計画」に準拠した森林に適用されます。
詳細は以下の通りです。
・吸収方法
森林経営活動、例えば間伐を通じて、地上部や地下部のカーボン蓄積量を増やし、また伐採された木材の利用によるカーボン固定の吸収量を確保します。
・主要な適用条件
- 市町村長などが認定した森林経営計画に基づく経営を行い、今後も10年間継続する意思があること。
- 主伐実施の林分を含む場合、認証期間内の累計吸収量が正であること。
主伐によるカーボン減少は排出と見なされますが、再造林を予定する場合、標準伐期齢に到達する前の吸収量は主伐による排出量から控除可能です。
・ベースライン吸収量
手入れがされていない森林の吸収量は0とします。これは、国の温室効果ガスの取り組み指標に従ったものです。
・主要なモニタリング項目
- 造林、保育、間伐、主伐などの森林作業や、保護が施された樹種や林齢別の面積。
- 施業が行われた森林の地位(樹高などを計測し、生産力を示す指数としての地位)。
- プロジェクト地で生産された製材用、合板用、原料用の木材の出荷量。
2-2.植林活動方法論
この方法論は、2012年度末までに森林として認識されていなかった地域での植林を対象としています。
– 吸収方法
非森林地域での植林により、地上部及び地下部のバイオマスの増加をもたらし、それによるCO2吸収量を確保します。
– 主要な適用条件
- 造林、保育、間伐、主伐などの森林作業や、保護が施された樹種や林齢別の面積。
- 施業が行われた森林の地位(樹高などを計測し、生産力を示す指数としての地位)。
- プロジェクト地で生産された製材用、合板用、原料用の木材の出荷量。
– ベースラインの吸収量について
植林前の吸収量は0と見なします。これは、植林開始前の草地や農地(田、畑)などのバイオマス吸収量を考慮しない、日本国の温室効果ガスインベントリルールに基づいています。
– 主要なモニタリング項目
- 実施された植林の樹種・林齢ごとの面積。
- 植林が実施された場所の森林の状態。
2-3.再造林活動方法論
この方法論は、伐採後の地域や無木地、1~5年齢の「一齢級」を対象としています。
– 吸収方法
無木地での再造林活動により、地上部及び地下部のバイオマスが増加し、それによるCO2吸収量を確保します。
– 主要な適用条件
- 森林の土地の所有者でない、または再造林のために無木地を取得した人が行うこと。
- 森林法に基づく森林で、土地の所有者とのパートナーシップが結ばれている。そして、方法論「FO-001(森林経営活動)」のエントリーが完了している森林経営計画の区域を除外する。
- 市町村森林整備計画等に記載されている樹種での再造林活動であること。
- 無木地や一齢級の森林のみで、プロジェクトのエントリー申請を行う。
- 再造林後、保育の初期段階での管理作業が適切に実施されること。
– ベースラインの吸収量について
再造林が適切に行われなかった場合の吸収量は0とします。
– 主要なモニタリング項目
- 再造林が行われた樹種・林齢ごとの面積、及び自然障害が発生した場所の樹種・林齢別の面積。
- 再造林が実施された場所の森林の状態。
– 認証対象期間
吸収量の計算対象となる森林が16年齢に達するまでです。
③森林由来クレジットの特徴
3-1.森林の持続的な管理が必要
森林由来クレジットは、森林が吸収する二酸化炭素量に基づき発行されます。しかし、一度吸収量を認証した森林を急激に伐採すると、その認証の価値は失われます。これが他のクレジットと異なる大きな特徴です。
具体的に、「林野庁」という農林水産省の外局は、森林オーナーや経営者向けに「森林経営計画制度」を提供しています。これは、五年毎の経営計画書作成を基本とし、J-クレジット制度ではこの経営計画が継続的に更新されることが求められています。また、カーボンクレジットとは異なり、森林由来クレジットはプロジェクト終了後も10年間の森林管理と報告が必要です。このため、参入を考える方にはしっかりした準備が必要となります。
3-2.林業の持続性につながる
日本国内の林業では、木材生産に関して国産材は外国産材よりも生産コストが多くかかることから、国産材の産出額が低迷する状態が続いており、木材の販売だけでは基本的に赤字になってしまうという現状があります。
そんな中、二酸化炭素の排出権取引を見越して森林由来クレジットの取引を行うようになれば、新たな収入源が生まれ、林業の持続性にもつながると見込まれています。
そもそも、クレジットの発行は、木材のような自身の元々ある財産を売却することとは性質が異なり、あくまでも付加価値的な存在であると言えるため、オーナーや事業者にとってマイナス要素がなく、林業の現状を好転させることに大きく寄与するのではと考えられています。
3-3.プラットフォームの立ち上げ
近年、森林由来クレジットの発行および活用を活発化することを目的として、プラットフォームの立ち上げが進んでいます。
最近では、2023年1月に「JForest 全国森林組合連合会」および「農林中央金庫」が森林および林業のグリーン成長化、カーボンニュートラル社会への貢献を目指して、「株式会社日本オフセットデザイン創研」の協力のもと森林由来クレジットにかかるプラットフォームを運営していくこと発表したほか、2023年3月には「住友林業株式会社」と「NTTコミュニケーションズ株式会社」が森林由来カーボン・クレジットの発行および流通を活性化するプラットフォームサービス提供に向けた協業をスタートしたと発表しています。
このように、森林由来クレジットは現在より一層その注目度を高めており、これからそのプロセスや取引環境がさらに改善されることによってより広く流通し、多岐にわたるユースケースで用いられていくことが見込まれています。
④まとめ
森林由来クレジットとは、森林の保全や再生に貢献する取り組みを行った個人や企業に対して付与される取引可能なクレジットのことを言い、森林大国と呼ばれる日本において特に注目を集めています。
また、その方法論には「森林経営活動」・「植林活動」・「再造林活動」という三種類が存在し、それぞれの状況に沿った認証が進められています。
ここ最近では、大手企業らの協業によって森林由来クレジットに関連するプラットフォームの立ち上げも進められているため、その正式なローンチを楽しみにしながら環境問題への関心をより一層高めていきましょう。
中島 翔
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