京都議定書とカーボンオフセット、国際的取り組みの基盤とその影響

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一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12))に解説していただきました。

目次

  1. 「カーボンオフセット」とは
    1-1.「カーボンオフセット」の概要
    1-2.「カーボンオフセット」の主な取り組み
  2. 「京都議定書」とは
    2-1.「京都議定書」の概要
    2-2.カーボンオフセットについて記した議定書第6条
    2-3.「京都議定書」の課題
  3. 「京都議定書」と「パリ協定」
    3-1.ポスト京都議定書と呼ばれる「パリ協定」とは
  4. 日本における取り組み
    4-1.カーボンクレジット市場の開設
    4-2.パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略
  5. 世界における取り組み
    5-1.EUの温室効果ガス削減政策パッケージ「Fit for 55」
    5-2.中国のカーボンピークアウト行動計画
  6. まとめ

近年、カーボンオフセットへの関心が高まってきましたが、その背後には「京都議定書」という基盤があります。

京都議定書は、温室効果ガスを削減するための法的拘束力を持つ初めての国際的取り組みであり、カーボンオフセットの方針や実践に影響を与えています。

この記事では、京都議定書の概要や主要な内容、そしてその後の動きについて詳しく解説していきます。

1.「カーボンオフセット」とは

1-1.「カーボンオフセット」の概要

カーボンオフセットとは何かを理解するため、まずは基本的な概念から始めましょう。

カーボンオフセットは、市民、企業、NPO・NGO、自治体、政府など、さまざまな団体や個人が自らの温室効果ガス排出を計算し、可能な限り削減を試みる取り組みの中で、完全に排出をゼロにするのが難しい部分に関して、他の場所での排出削減や吸収に関する「クレジット」を購入すること、または別の場所での排出削減や吸収プロジェクトを支援することを指します。

環境問題、特に地球温暖化への対応が急募される中、カーボンオフセットは脱炭素社会を目指す上で非常に有効な手段として注目されています。

1-2.「カーボンオフセット」の主な取り組み

カーボンオフセットには様々な形が存在します。以下に、主な取り組みを紹介します。

① オフセット製品およびサービス
製品やサービスの提供者が、それらのライフサイクル中の温室効果ガス排出をオフセットする活動。

② イベントのオフセット
コンサートやスポーツイベント、国際会議などのイベント主催者が、そのイベントの開催による温室効果ガスの排出をオフセットする取り組み。

③ 自己活動オフセット
組織の日常的な業務や活動に関連する温室効果ガス排出をオフセットする取り組み。

④ クレジット付き製品やサービス
製品やサービス、イベントのチケットにクレジットを付加し、消費者や来場者の温室効果ガス排出をオフセットするサポートを行う取り組み。

⑤ 寄付型オフセット
消費者やイベント参加者へのクレジットの活用を促進することで、地球温暖化の緩和や資金提供の取り組みへの参加を呼びかける活動。

2.「京都議定書」とは

2-1.「京都議定書」の概要

京都議定書とは、1997年に日本の京都市で開催された国際連合気候変動枠組条約(UNFCCC)の第3回締約国会議(COP3)で採択され、2005年に発効した国際的な気候変動に関する合意です。

この議定書は、温室効果ガス削減の国際的数値目標を初めて設定したものとして、多くの注目を集めました。議定書の採択を議論するCOP3には、世界中から多くの関係者が参加しました。この結果、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素(亜酸化窒素)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、パーフルオロカーボン(PFC)、および六フッ化硫黄(SF6)といった6種類の温室効果ガスの排出削減に法的拘束力のある目標が定められました。

具体的には、2008年から2012年の第一約束期間中、先進国の平均年間排出量を1990年の総排出量の95%以下に抑える目標が設定されました。この目標達成の手段として、国内での排出削減だけでなく、他国への技術支援、クリーンエネルギー技術への投資、さらに排出権取引も認められることとなりました。

この京都議定書の取り組みが、各国にカーボンオフセットの重要性を再認識させる大きなきっかけとなりました。

2-2.カーボンオフセットについて記した議定書第6条

さらに、議定書は国内だけの取り組みだけではなく、他国との協力による温暖化対策や排出削減量の購入を促進する「京都メカニズム」を導入しました。このメカニズムは、「共同実施(JI)」、「クリーン開発メカニズム(CDM)」、「排出量取引(ET)」の3つから成り立っています。

この制度の導入により、各国は、自国内の取り組みだけでなく、コストを抑えて海外での排出削減プロジェクトを推進したり、排出削減クレジットを購入することで、経済的に効果的に目標を達成できるようになりました。

特に、議定書の第6条では、「共同実施(JI)」を通じてのカーボンオフセットに関する詳細が記載されています。これにより、先進国間での共同プロジェクトを進め、その結果として得られた排出削減分を分け合うことが可能とされました。

京都メカニズムには、参加条件が設定されており、条件を満たす国は「ERUs(Emissions Reduction Units)」という単位で排出削減を認定できます。そして、条件を満たしていない国でも、一定の手続きを経ることでERUsを取得することができます。

この京都メカニズムが、現在のカーボンオフセットの基盤となっており、各国の温暖化対策の推進に大きく貢献しています。

2-3.「京都議定書」の課題

2005年に発効した京都議定書は、気候変動対策の基盤を形成しました。しかし、課題も多数存在します。1997年に採択された際、主に先進工業国に削減義務が課されましたが、発展途上国の温室効果ガス排出も増加し、より包括的な取り組みが求められるようになりました。また、設定された削減目標は気候変動を十分に抑制するレベルには達していませんでした。

さらに、アメリカが京都議定書からの離脱を2001年に宣言しました。当時、アメリカは世界の主要な温室効果ガス排出国の一つでした。離脱の背後には、経済成長への懸念や途上国の削減目標の不在が挙げられます。この離脱により、京都議定書の国際的な目標の達成は一層困難となりました。

このような背景から、2015年に京都議定書の後継として「パリ協定」が採択されました。この協定は、全国が気候変動対策に取り組むことを前提としています。

3.「京都議定書」と「パリ協定」

3-1.ポスト京都議定書と呼ばれる「パリ協定」とは

2015年にフランス・パリで開催されたCOP21で採択され、2016年に発効したパリ協定は、気候変動への対応策を強化するものとして注目されています。その主要な目的は、地球の平均気温の上昇を2度未満、なるべく1.5度に近づけることです。

京都議定書では先進国を中心にトップダウン方式の削減目標が採用されましたが、パリ協定では各国が自らの状況に応じた削減目標を設定・提出する「国が決定する貢献(NDC)」というアプローチが取られています。この方式により、各国の自主性が重視されるようになりました。

日本は、2030年度までに2013年度比で温室効果ガス排出を26%削減するという中期目標を設定しており、その達成に向けた活動が進められています。

パリ協定は、参加国の透明性を保ちつつ、公平性と実効性を両立させる試みとして注目されています。この流れを受け、次の項では日本および世界の現在の気候変動対策について詳しく見ていきましょう。

4.日本における取り組み

4-1.カーボンクレジット市場の開設

2020年10月、日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする目標、すなわち「カーボンニュートラル」を掲げました。この目標を具体化するため、2021年10月22日に「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」が閣議決定されました。

この戦略では、地球温暖化対策を経済成長の制約と捉えるのではなく、新しい成長の機会として位置付けています。具体的には、エネルギーや運輸など各部門での取り組みを推進し、さらには若者を含む多様なステークホルダーとの連携や対話を通じて、2050年のカーボンニュートラルの実現を目指して進める方針としています。

4-2.パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略

2020年10月、日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする目標、すなわち「カーボンニュートラル」を掲げました。この目標を具体化するため、2021年10月22日に「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」が閣議決定されました。

この戦略では、地球温暖化対策を経済成長の制約と捉えるのではなく、新しい成長の機会として位置付けています。具体的には、エネルギーや運輸など各部門での取り組みを推進し、さらには若者を含む多様なステークホルダーとの連携や対話を通じて、2050年のカーボンニュートラルの実現を目指して進める方針としています。

5.世界における取り組み

5-1.EUの温室効果ガス削減政策パッケージ「Fit for 55」

2021年7月、欧州連合(EU)は2030年までに1990年比での温室効果ガス排出量を55%以上削減するための政策パッケージ「Fit for 55」を発表しました。このパッケージでは、EU排出量取引制度(EU-ETS)の強化や、持続可能な移動のための充電スタンドなどのインフラ整備が取り入れられています。2023年4月25日には、5つの関連法案が採択され、2005年比の排出量目標を43%減から62%減へと引き上げることが決まりました。

5-2.中国のカーボンピークアウト行動計画

中国は、2020年9月22日の第75回国連総会で、2030年の「カーボンピークアウト」と2060年の「カーボンニュートラル」を目指すと宣言しました。続いて2021年10月、その具体的な方針として「2030年までのカーボンピークアウト行動計画」を公開。この中で、非化石燃料の消費比率を2030年までに約25%まで増やすことを明示しました。

6.まとめ

京都議定書は温室効果ガス削減について法的拘束力のある目標を設けた最初の文書であり、その中にはカーボンオフセットの実施において重要な内容が記されています。

そして現在、各国はこの京都議定書およびその意思を受け継ぐパリ協定に基づいて、カーボンニュートラルに向けたさまざまな取り組みを行っています。

地球の限りある資源を守るためにも、日本としてこれらの取り組みを継続していくことは非常に重要なため、これをきっかけに日本や海外における実際の動きについて関心を高め、我々一人一人が当事者意識を持って行動するように心がけましょう。

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中島 翔

一般社団法人カーボンニュートラル機構理事。学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。また一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う。証券アナリスト資格保有 。Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12