リチウム世界大手アルベマール(ティッカーシンボル:ALB)が、豪資源会社ライオンタウン(LTR)の買収に迫っている。米中対立が激化する中、電気自動車(EV)の電池向けに需要拡大が見込まれる「白いダイヤ」リチウムを巡り、世界で争奪戦が繰り広げられている状況だ。
アルベマールはライオンタウンに対し、1株当たり3豪ドルでの買収を提案した(*1)。ライオンタウンは、法的拘束力のある契約を締結し、これを上回る提案がなされなければ、株主に提案を支持することを推奨する意向を示しており、アルベマールによる買収が近づいていることが分かる。
アルベマールは2023年3月下旬にも提案を行っており、その際に提示した2.50豪ドルの案がライオンタウンに拒否されたことを受け、価格を20%引き上げた。買収規模は66億豪ドル(約6,200億円)になる。
アルベマールにとっては4度目の買収提案となり、22年10月の1株当たり2.20豪ドル、23年3月の2.35豪ドル、同月下旬の2.50豪ドル、そして今回の3豪ドルである。今回の提案は、ライオンタウンの9月1日終値に14.5%のプレミアムを乗せた水準となる。
世界最大級のリチウム生産業者であるアルベマールが4度にわたり買収価格を引き上げながら提案を続けていることから、同社がリチウム価格に強気の見通しを持ち、比較的カントリーリスク(#1)の低いオーストラリアで、より多くの供給確保を目指していると推察できる。
ライオンタウンがアルベマールの買収提案を支持したことを受け、ライオンタウンの株価は4日に一時11%超急伸した。
ライオンタウンは、西オーストラリア州にある2ヵ所の大型リチウム鉱山の権益を所有しており、米フォード・モーター(F)、米テスラ(TSLA) 、韓国LGエネルギーソリューション(051910)と供給契約を結んでいる。
米中対立が激化する中、各国が経済安全保障上の重要鉱物を確保すべく、規制強化や権益確保に向けた動きを強めている状況だ。中でも、リチウムはEVバッテリー向けの需要が高まっている。
国際エネルギー機関(IEA)によると、22年のリチウムの需要は5年前の17年比で3倍となったという(*2)。さらに、重要鉱物の中でも最も急拡大し、持続可能な開発シナリオ(SDS、#2)で40年までに40倍以上に増加する見込みだ(*3)。
リチウムの生産はオーストリアとチリに大きく偏っているが、精錬で大半のシェアを握る中国の存在感が大きい。中国は、リチウムイオン電池を貿易戦争の武器の一つにすると共に、世界各国のリチウム生産プロジェクトに出資もしており、リチウム市場全体での影響力を強めている。米中対立の先鋭化を見据え、各社がリチウムイオンの安定調達を迫られている状況だ。
また、米国ではインフレ抑制法(IRA)でバッテリー式EV(BEV)などのクリーンビークル向けの税額控除を受ける条件として、バッテリーに使う重要鉱物の一定割合を米国や米国が自由貿易協定(FTA)を結ぶ国から調達しなければならない。このことも、各社が税額控除を受けることでEVの価格優位性を得るために、リチウムの確保を急いでいる。
テスラは自前のリチウム精錬工場の着工を開始した。イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は「EV推進の根本的なチョークポイント(要所)は車載電池用リチウムだ」と述べている(*4)
さらに、チリやメキシコはリチウムを国有化する。複数の国で保護主義が台頭していることは、投資側にとってカントリーリスクを伴うことになる。サウジアラビアやイラン、インドなども権益確保に急ぐ。欧州連合(EU)はリチウムなどEV向け電池材料のリサイクルを域内で義務づける規制を導入し、リチウム資源国の保護主義台頭に備える。
一方、オーストリアはEV国家戦略を公表し、生産のみならず、自国内でリチウムの精製・加工能力を高める方針を示している。中国への依存低下を図りつつ、リチウムを安定確保する上で有望な投資対象国の一つになっている。
アルベマールはライオンタウンの買収に加え、23年5月にオーストラリアの加工工場の拡張を発表し、水酸化リチウムの生産を倍増する方針を掲げている。
(#1)カントリーリスク…海外で投資や取引を行う際に、その国の政治的・経済的な環境変化や、自然災害の発生等にともない、損失を被るリスクのこと。
(#2)持続可能な開発シナリオ…パリ協定で定められた目標を達成するためのシナリオ。
【参照記事】*1 アルベマール「Albemarle Confirms Non-Binding Agreement To Acquire Liontown」
【参照記事】*2 IEA「Critical minerals market sees unprecedented growth as clean energy demand drives strong increase in investment」
【参照記事】*3 IEA「In the transition to clean energy, critical minerals bring new challenges to energy security」
【参照記事】*4 ロイター「Elon Musk and Tesla break ground on massive Texas lithium refinery」
フォルトゥナ
【業務窓口】
fortuna.rep2@gmail.com
最新記事 by フォルトゥナ (全て見る)
- アホールド、再エネBRUCとVPPA締結。太陽光発電で欧州事業の電力使用量の3割相当賄う - 2024年11月22日
- 英国、GHG排出を35年までに19年比81%減目指す。21年策定の目標よりペース加速 - 2024年11月22日
- テマセク傘下ジェンゼロとトラフィギュラ、コロンビアの炭素除去に150億円投資。CDRプロジェクト規模を倍増 - 2024年11月22日
- ネイチャーファイナンス、金融機関向けネイチャーポジティブ投資支援ツール「NatureAlign」を発表 - 2024年11月19日
- 2050年ネットゼロ達成見込みはG2000企業の16%、脱炭素化にAI活用中の企業もわずか14%。アクセンチュア最新調査 - 2024年11月19日