目次
Shamba Networkとは?
「Shamba Network」は、分散型のMRVシステム(dMRV)を構築し、ケニアの農家に提供することで持続可能な農業の実現と気候変動への対策を推進するプロジェクトです。
MRVとはMeasurement、Reporting and Verification の略語であり、「温室効果ガス排出量の測定、報告及び検証」のことを指します。カーボンクレジットの生成においてその削減量を計測するために必須の概念です。現在のMRVは手作業で行われることも多く、非効率的で透明性も低く、コストもかかります。Shamba Networkは衛星データやAIを利用することでMRVを効率よく分散型で実現します。
そして、このdMRVを大きく2つの利用用途で提供しています。
①カーボンクレジットの生成
衛星データによって農地や生態系の情報をデジタル上で把握します。農家はそれらのデータを自身の農業に活かすと共に、最終的にはカーボンクレジットの生成までを行うことが可能になります。
既存のカーボンクレジット生成事業者やツールも存在しますが、どれも大型農地を専門としたソリューションとなっていますが、アフリカには小口農家が多いため、Shamba Networkは小口農家も利用することができます。
②農家保険等、オラクルとしてのデータ提供
Shambaの収集しているデータはChainlinkを通してオラクルとしてデータが解放されています。地理空間データをブロックチェーン上に書き込むことで、その土地に対しての事業提案を自由に行えるようにします。最も想定されるユースケースは保険です。
例えば、こちらは農林水産省が提供している農家向けの収入保険の紹介ページです。自然災害や病気等での収穫量減少や価格低下による収入減少を補償する制度です。
このように農業は人類の生活において必須でありながら、外的環境の影響を非常に受けやすい活動です。特にShamba Networkの活動拠点であるケニアは気候変動による影響を世界で最も受けている地域の1つであり、外的環境から受ける影響が年々増加しています。そこで、農家保険ですが、アフリカの農家は農家保険を嫌がる傾向があるそうです。保険自体が高価であることに加え、販売事業者も信頼できない場合が多いからです。
Shamba Networkはこれらの課題を解決します。衛星データからオラクルでブロックチェーン上に刻まれてデータには透明性があり、そのデータに対してスマートコントラクトを用いて保険を提供します。よって、安価な手数料で透明性の高い保険の提供を実現します。また、地理データもオラクルで常に収集しているため、保険の実行トリガー(例えば干ばつ)も事前にスマートコントラクトに刻み、自動化することができます。実際にShamba Networkはマイクロファイナンス会社フォーチュン・クレジットおよびDIVA Protocolと協力して、ケニア北部の牛飼い150人に保険を掛けています。その地域の植生レベルが家畜が飢餓に直面する可能性がある一定のしきい値を下回った場合、遊牧民に支払いが行われます。
このように、Shamba NetworkはdMRVとオラクルシステムを通して、農家の具体的なサポートと構造的な問題解決へのアプローチを同時に実現しようとしています。
設立背景と解決する課題
続いて、より深く「Shamba Network」が解決する課題について見ていきます。
Shamba NetworkはKennedy Ng’ang’a氏によって、ケニアのナイロビで2021年に設立されました。Kennedy Ng’ang’a氏はweb3と出会い、再生金融(ReFi)に特に興味を持ちました。さらに調査を進めると、データの欠如がイノベーションの障害となっていることに気づきました。「人々は自分がやりたいことについてたくさんのアイデアを持っていましたが、それを裏付けるデータを必ずしも持っていたわけではありませんでした」とコメントしています。そこで、2021年にShamba Networkとして、ReFiで活用できるような現実世界の地理データを分散型で提供できるdMRV及びオラクルプラットフォームを立ち上げました。
また、彼がShamba Networkを立ち上げたケニアを含むサハラ以南のアフリカでは、金融包摂と世界金融へのアクセスがまだ不十分な領域です。増加は見られるものの、2021年の時点で銀行口座を持っている人は人口の55%だけと言われています。さらに、サハラ以南のアフリカの地域は気候変動による影響を最も受ける地域の1つでもあります。特に熱波による影響を受け、農業への影響も甚大です。
要するに、最も気候変動による影響を受ける地域の1つですが、金融にもアクセスできないため、カーボンクレジットの生成やマイクロファイナンスの支援等も受けることができません。これらを解決するためにShamba Networkは設立されました。
そして、他の多くのReFiプロジェクトと異なる点は”保険の提供”など、目先の支援にも力を入れている点です。カーボンクレジットの生成は確かに農家の新しい収入になるかもしれませんが、それ以前に気候変動によって農家としての本業収入が成り立たなくなる可能性もあります。そこで、保険の提供で気候変動に対処しつつ、カーボンクレジットの生成などを通して、気候変動を再生させていくところまでを目標にしたプロジェクトとなっています。
展望と考察
では最後に、Shamba Networkの展望を考察します。
Shamba Networkは保険料からの手数料を通じて収益を上げており、最終的には販売されたカーボンクレジットからも利益を得ます。これまではGitcoinの助成金とFilecoinアクセラレーターからの資金提供を通じて得られた20万ドルの資金でプロジェクトを維持してきました。今後はプロジェクトを拡大するために資金調達を行っていく予定とのことです。
しかし、気候変動やカーボンクレジット等のソリューションはESG観点から期待はかけられつつも、web3の不安定さやアフリカ市場のリスクを鑑みて、不安に思う投資家も多いとのことです。「そのため、私たちはこの(株式ベースの資金調達)を試みながらも、生き残るための他の方法を常に見つけようとしています。」とファウンダーのKennedy Ng’ang’a氏は2023年4月のインタビュー記事でコメントしていました。
筆者としても現地に根差したソリューションとしての価値は非常に大きなものがあると考えています。市場としても大きくなっていくことは間違いありません。しかし、ReFiはその事業領域上、政情が不安定な国で展開されることも多くあります。社会問題を解決する側面と、事業として成立させていく側面を考えた際に、特にReFiプロジェクトは収益化のモデルを考えるだけでなく、政治や宗教等の外的な要因を考える必要があると改めて認識しました。
とはいえ、非常に意義のあるプロジェクトだと感じたので、引き続きShamba Networkの情報を追いかけていきたいと思います。
HEDGE GUIDE 編集部 不動産投資チーム
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