世界中の森林プロジェクトが参加できる分散型のMRVを実現する「Open Forest Protocol」とは?

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目次

  1. Open Forest Protocolとは?
    1−1. MRVとは?
    1-2. MRVの課題とは?
  2. Open Forest Protocolの仕組みは?
  3. Open Forest Protocolの展望は?

Open Forest Protocolとは?

「Open Forest Protocol(以下OFP)」は、世界中のあらゆる規模の森林プロジェクトが植林データを測定、報告、検証できるようにするオープンプラットフォームです。

これはいわゆるMRV(Measurement:測定、 Reporting:報告 and Verification:検証)の領域であり、OFPは分散型MRV(dMRV)を実現するソリューションです。NEAR Protocol上に構築されています。

MRVとは?

では、まずはMRVについて解説します。MRVは温室効果ガスの測定プロセスの1つであり、カーボンクレジットの生成に欠かせない領域となっています。

下記の図はカーボンクレジットの生成を示した図ですが、カーボンクレジットは、プロジェクトデザイン、MRV、取引のざっくり3ステップで生成されます。

要するにどのようなプロジェクトを提出するのかを決定・監査機関に提出し、その情報を第三者機関が監査して正常に温室効果ガスの削減が行われているのか、提出されている情報に誤りがないのかをチェックします。チェックが終わればクレジットとして認証され、それを企業に売却したりする取引のフェーズに入ります。最終的にはリタイアメントされ、カーボンオフセットに貢献します。つまり、MRVとはカーボンクレジットの検証プロセスです。

MRVの課題とは?

そんなMRVですが、現状のソリューションは幾つかの課題を抱えています。代表的な2つの課題を紹介します。

  1. MRVを依頼するのにお金と時間がかかりすぎる
  2. MRVの実行に透明性がなく中央集権的すぎる

まずこれまでのMRV機関に依頼するとお金がかかります。平均して5万ドル(約740万円)と言われており、かなり広大な土地をクレジットにしなければ割に合いません。よって大規模事業者しかクレジット発行ができない状況となっています。また、検証期間も平均で2年ほどあり、最初の検証以降の追加検証も3~4年に1度という頻度になっています。

これらに加えて、例えば1つの機関がMRVを実行していると、そのMRV機関が不正をしていない証明ができませんし、監査データをクローズドなデータベースに保管していると尚更安心できません。安心ができないと企業がそのクレジットを購入することを躊躇うのでカーボンクレジット市場の拡大が鈍化します。よって、これから急拡大するカーボンクレジット市場において、このMRVの課題解決は非常に優先順位が高いものとなっています。

OFPはブロックチェーンを活用することによって、分散型MRVの仕組みを実現し、全ての事業者が利用でき、安価で透明性の高いMRVシステムです。

Open Forest Protocolの仕組みは?

OFPは森林(植林)に特化したdMRVプラットフォームです。後述しますが、ゆくゆくはマーケットプレイスの設立やウォレットの提供、資金提供プラットフォームの設立など、エコシステム化を目指していますが、最大の特徴であり現在稼働している部分はdMRVのシステムです。

それでは仕組みを見ていきましょう。

  1. 森林事業者がOpen Forest Protocolに情報を登録(登録された情報はNFTとしてオンチェーンに保存される)
  2. 登録された情報をバリデーターが検証
  3. 検証とチャレンジ期間を経て認証
  4. データが承認されると共にバリデーター報酬が支払われる

ここで出てくる登場人物は「森林事業者」と「バリデーター」の2者です。

森林事業者はわかりやすいですね。森林を保有していたり、植林を行う事業者です。OFPはその名前の通り、森林に特化したプロトコルです。そして、このプロトコルの肝であり大切なのは「バリデーター」の存在です。バリデーターがMRVを実施しますが、これは1人ではなく複数存在します。森林事業者によって登録されたデータはオープンにされており、そのデータを複数のバリデーターが認証します。認証方法はバリデーターによってさまざまですが、衛星利用等のリモートセンシングやAI等を利用するMRVなど最新テクノロジーを使ったバリデーターが多く参画しています。

全てのMRVプロセスは60日未満で終了し、検証・チャレンジ・エスカレーションの3ステップとなります。

まず森林事業者がデータをアップロードしたら「30日間の検証ステップ」に入ります。この期間で各バリデーターはそのデータの確からしさを検証します。そして、正確か不正確かを$OPNトークンを預け入れることで投票します。この際には他のバリデーターがどちらに投票しているのかは確認できません。検証ステップが終われば次に「7日間のチャレンジステップ」となります。チャレンジは検証ステップで大多数が投票した結果の正確か不正確かに対して異議申し立てができる期間です。異議申し立てのために根拠となるデータのアップロードも可能で、それを見て他のバリデーターも投票を変更することができます。チャレンジを経て、当初の結果と変わらなければそのまま検証期間は終了し、変更された場合はエスカレーションステップに入ります。エスカレーションはチャレンジと同様のフローが再度行われ、前の決定が覆されないようになるまで続きます。

ポイントはバリデーター報酬の設計です。基本的にバリデーターは多数派に投票することで報酬となる$OPNトークンを貰えますが、承認より否認の方が報酬が2倍の報酬を獲得できます。

この仕組みはまず多数派に入らないと報酬が獲得できないので、とりあえず承認したり否認することがなくなります。投票時に他のバリデーターの投票状況は確認できないので、それぞれが判断する必要があります。加えて、否認の方が報酬が高いことで堅実なMRVが実施されることが想定されています。

このプロセスを、プロジェクト開始後2年間は6カ月ごと、その後は年1回毎に実施されることで、常に安全で安心な森林プロジェクトであることを分散型で透明性高く保証します。なお、森林プロジェクトの情報はOFP Ecosystem Explorerと呼ばれるサイトに全てまとまっており、いつでも誰でも閲覧することができます。

Open Forest Protocolの展望は?

では最後に、OFPの展望を解説します。OFPは現在はdMRVを実現するプラットフォームを開発していますが、今後「カーボンクレジットのマーケットプレイス」「ウォレット」「資金提供プラットフォーム」を構築し、森林由来のカーボンクレジットの創出・検証・売買のエコシステム構築を目指しています。

マーケットプレイスは2024年にリリースされることが発表され、現在はアーリーアクセス権を付与するフォームが開設されています。また、OFPトークンや関連NFTの保有や閲覧ができるOFP Walletの開発や資金提供ができるプラットフォーム「OFP Starter」も準備が進んでいるとのことです。

そして最終的には$OPNトークンをガバナンストークンとして機能させて、完全なるDAO化を目指していますが、その構想も少し特殊です。トークンホルダーだけが投票に参加できるのではなく、森林事業者は気候変動の専門家やNGO等も巻き込んだDAOの構築を目指しているようです。

いずれにせよ、10年~15年ほどのスパンで考えているとのことで、森林由来のカーボンクレジットのエコシステムをプロトコルとして築き上げていくことが予想されます。

ここからは筆者の感想となりますが、OFPの取り組み自体もそうですが、そのエコシステムを実現する戦略も非常に興味深く感じました。ブロックチェーンを活用したカーボンクレジットのマーケットプレイスはすでに多く存在しますが、dMRVに注力しているプロジェクトはあまり多くありません。しかし、dMRVはこの先の仕組みにおいて確実に重要になるポジションです。

VerraやGS等のVCM市場の認証機関も存在し、そこからトラストレスにブリッジするソリューションも開発されていますが、それはあくまで認証機関の信用に依拠しており、継続的なトラストレスで分散型の検証は難しいことが現状です。その中でdMRVの仕組みを先んじて実現し、その後にそこからトラストレスにブリッジされるカーボンクレジットのマーケットプレイスを生成し、エコシステム化していくことは、少し時間はかかるかもしれませんが、最終的なエコシステムの堅牢さを考えた際に、非常に納得感のある戦略です。

2024年からマーケットプレイスも始まり、いよいよエコシステムが本格的に始動し始めるので、より注目して追いかけていきたいと思います!