今回は、Web3.0とDAOをテーマに事業を行うFracton Ventures株式会社の太田航志 氏から寄稿いただいたコラムをご紹介します。
目次
本記事では、NFT/ブロックチェーンゲームの新しいトレンドとして、Free to Own(F2O)と呼ばれるフリーミント型のモデルついて解説し、その概要や課題を実際のユースケースと共に理解を深めます。
さて、Axie InfinityやStepnの登場、盛り上がりにより、Play to EarnやMove to EarnはWeb3や暗号資産の文脈に留まらず、多くの人が知る言葉となりました。その一方で上記のゲームモデルやエコシステムは、まだまだ課題があります。最近ではX to Earnをキーワードとして、上記に留まらない新たな概念が次々と誕生しています。
本記事で解説をするFree to Ownは、その名の通り無料で所有できるというものです。これまでNFTプロジェクトやブロックチェーンゲームにおいては比較的高額なNFTを初期に購入する必要がありましたが、Limit Break社が昨年リリースしたNFTプロジェクトDigiDaigaku Genesisと共にFree to Ownの概念を提唱して話題になりました。肝心のNFTのフロア価格は本記事の執筆時点で9.5ETH、およそ210万円になっており、無料で配布されたNFTとしては大成功といえるでしょう。
今回は、Free to Ownの概念や課題、その嚆矢と言えるDigiDaigakuについて深掘りします。
Free to Ownの概要
先述した通り、Free to Ownとは、NFT/ブロックチェーンゲームにおいて初期に必要となるNFTなどを無料で手に入れることができる手法のことを指します。
ブロックチェーンゲームの著名タイトルには、Axie InfinityやStepnなどが挙げられますが、新しくこれらゲームをプレイする場合にはユーザーがNFTを買う必要があります。ブロックチェーンゲームの初期投資価格は、最盛期で10万円に登り、NFTをレンタルするギルドが誕生したものの、いかんせん高額なモデルであったことは間違いありません。
一方ブロックチェーンに限定しない現在のゲーム業界の状況を踏まえると、フリーミアムと課金モデルもしくは家庭用のゲーム機とそのソフトの購入というモデルが一般的となっています。もちろん一概に断じることはできませんが、ブロックチェーンゲームの課題として、高額NFTの初期購入という一般ユーザーの参入障壁が高さが挙げられます。
上記含め、本記事で取り上げるFree to Ownの手法が解決したのは、主に以下の3点と言えるでしょう。
- ブロックチェーンゲーム特有の参入障壁の高さ
- ユーザーが高額なNFTを購入したのにも関わらず、結局ゲームの開発やリリースがなされないといういわゆる詐欺行為
- エコシステムが早々に崩壊してしまう投機性の高さ(※)
※NFT保有者が無料でNFTを入手しているため、短期的なゲームリターンを求めづらくなるという一種のアンカリング効果
DigiDaigakuの概要
ここからは、そのFree to Ownを提唱、採用したNFTゲームプロジェクトであるDigiDaigakuについてその成功裏に迫ります。
DigiDaigakuを提供するのはアメリカを拠点とするブロックチェーンゲーム開発会社のLimit Break社で、2021年にGabriel LeydonとHalbert Nakagawa氏によって設立されました。共同創業者の2名はゲーム・オブ・ウォー、モバイルストライク、ファイナルファンタジーXVなどの人気ゲームを開発したアメリカのMachine Zone社の共同創業者でもあり、いわば鳴り物入りでWeb3業界に参入しました。
実際にその期待値は非常に高く、昨年2022年8月にはStandard Crypto、Paradigm、Coinbase VenturesなどのトップティアVCから2億ドルに及ぶ大型の資金調達を実施したほか、大手ゲームギルドのYield Guild GamesがDigiDaigakuを購入するなど、NFT業界を席巻しました。同じく昨年の8月末には、OpenSeaの過去24時間取引高で1位に、週間取引高では2位を記録しています。記事執筆時点での過去総取引高は2万ETHを超え、フリーミント型NFTとしては、異例の成功を収めています。
これまで配信されたプレスリリースなどから、DigiDaigakuのゲームコンセプトは以下になります。まずDigiDaigaku GenesisのNFTコレクションの保有者には、Spiritと呼ばれるNFTが新たにエアドロップされます。そのDigiDaigaku GenesisのNFTコレクションとSpirit NFTを組み合わせることで、DegiというヒーローNFTを手に入れることができます。また組み合わせによっては、より強いNFTを生むことができるとも発表されています。加えて強いNFTを作るためには長くNFTを保有するようにという主旨のツイートもなされており、売り圧を下げる仕組みとして機能します。
Free to Ownモデルが抱える課題
ここまでは、Free to Ownの特徴やその成功例などを概観してきました。現在のゲーム業界のマネタイズモデルを踏まえると、ブロックチェーンゲームにもFree to Ownの流れは浸透することが考えられますが、そこへの課題が挙げられないわけでもありません。
第一にFree to Ownのモデルを採用することは、これまで従来のNFTプロジェクトが得てきたプレセールでの収益が得られず、自己資金でプロジェクトをスタートさせる必要があります。もちろんDigiDaigakuのようにVCなどから資金調達を行う方法もありますが、多くの草の根的なプロジェクトとってそれは容易なことではありません。したがって、Free to Ownのモデルが一種のディファクトスタンダードとなると、すでに力のあるNFTプロジェクトや成功を納めているゲーム開発会社に圧倒的に有利に働くでしょう。また一次流通で収益を挙げられないために、二次流通におけるロイヤリティの上昇も懸念されます。このことは投資家に大きな負担をかけるほか、昨今のNFTロイヤリティ闘争によってクリエイター側にも大きな影響を及ぼすでしょう。
まとめ
今回はFree to Ownという新しいNFT、ブロックチェーンゲームの提供手法について解説しました。
現在のゲーム業界の状況を踏まえると、ブロックチェーンゲームなどにもこのFree to Ownの仕組みが、一定程度浸透していくのではないかと考えられます。実際にDigiDaigaku以外にも今月に入り、Mino Gamesというブロックチェーンゲーム開発会社がStandard Cryptoをリード投資家として、資金調達を実施しています。これはFree to Ownモデルを標榜するDimensinalsというNFTゲームの立ち上げのためとも報道されています。
このように徐々に浸透を見せるFree to Ownですが、最後に述べたように課題や懸念があることを忘れてはいけません。もちろんこのような抜本的な提供手法の変化はユーザー体験を大きく変容させるものであり、これからも注視が必要な領域の一つといって良いでしょう。
ディスクレーマー:なお、NFTと呼ばれる属性の内、発行種類や発行形式によって法令上の扱いが異なる場合がございます。詳しくはブロックチェーン・暗号資産分野にお詳しい弁護士などにご確認ください。
Fracton Ventures株式会社
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