Verraが新たに発表したABACUSラベルー高品質カーボンクレジットの新基準と市場への影響

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2024年7月29日、「Verra(ベラ)」より「ABACUS(アバカス)」と呼ばれる認証ラベルが発表され、話題となりました。

Verraは、世界で最も市場に流通している民間認証クレジットと言われる「VCS(Verified Carbon Standard)」を運営・管理するアメリカの非営利法人で、気候行動を促進し、エコシステムを保全することを目的として、カーボンクレジット市場の発展を支援しています。

Verraが新たに発表したABACUSは、高品質の生態系回復・再植林カーボンクレジットに付与されるラベルだということで、脱炭素経営を進める事業者や投資家からも大きな関心を集めています。

今回は、注目のABACUSについて、その概要や特徴などを詳しく解説していきます。

目次

  1. 「Verra(ベラ)」とは
    1-1. 「Verra(ベラ)」の概要
    1-2. 「Verra(ベラ)」の活動内容
  2. 「ABACUS(アバカス)」とは
    2-1. 「ABACUS(アバカス)」の概要
    2-2. 「ABACUS(アバカス)」誕生の背景
  3. 「ABACUS(アバカス)」の特徴と重要性
    3-1. 生態系回復・再植林カーボンクレジットが対象
    3-2. ABACUSラベルの主な特徴
    3-3. 著名な企業・大学の参加と市場への影響
  4. まとめ

①「Verra(ベラ)」とは

1-1.「Verra(ベラ)」の概要

引用:Verra


Verra(ベラ)は、2007年にアメリカのワシントンDCに設立された非営利法人で、カーボンクレジット認証の主要プロバイダーとして世界的に知られています。同団体の主な目的は、温室効果ガスの排出削減や除去、生態系の保全、社会的利益の向上です。

Verraが管理するプログラムの中でも、特に「Verified Carbon Standard(VCS)」は、ボランタリーカーボンクレジット市場において中核を成すプログラムの1つとして広く認識されています。また、Verraは国際的な取り組みにも積極的に関与しており、「CORSIA(Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation)」など、航空業界のカーボンオフセットニーズにも対応しています。

Verraは環境保護と経済的利益の両立を目指し、サステナブルな開発と気候変動対策におけるリーダーシップを発揮しながら、グローバルな環境保護の推進に貢献しています。

1-2.「Verra(ベラ)」の活動内容

Verraの活動内容は多岐にわたり、環境保護とサステナブルな開発の促進を目指して幅広い取り組みを行っています。

カーボンクレジットの認証は、Verraの中心的な活動の一つです。VCSプログラムを通じて、カーボンオフセットプロジェクトの真実性と実効性を保証しています。この認証を受けたプロジェクトは、環境への貢献が客観的に証明され、企業や投資家がクレジットを購入する際の信頼性の担保となっています。具体的には、プロジェクトの二酸化炭素削減目標の達成状況を確認し、適切な方法論と基準に基づいて評価を行っています。これまでに、Verraの認証を受けたプロジェクトにより、大気中からおよそ10億トン以上の二酸化炭素およびその他の温室効果ガス排出量が削減・除去されました。

また、Verraは農業、森林管理、土地利用などの分野での二酸化炭素削減活動にも注力しています。「AFOLU(Agriculture, Forestry and Other Land Use)」プログラムを通じて、土地利用に関連する温室効果ガスの排出削減をサポートしています。さらに、「SD VISta(Sustainable Development Verified Impact Standard)」と呼ばれる独自の基準を提供し、プロジェクトが「持続可能な開発目標(SDGs)」にどの程度貢献しているかを評価しています。

Verraは国際的な協力にも力を入れており、「自主的炭素市場グローバルダイアログ(VCMGD)」のサポートも行っています。このイニシアチブは、「UNFCCC(国連気候変動枠組条約)」の「CDM(クリーン開発メカニズム)」の恩恵をほとんど受けることができなかった開発途上国の声を、ボランタリーカーボンクレジット市場に反映させることを目指しています。VCMGDでは、「安定した気候、自然への敬意、すべての人々が安全で健康で豊かな生活を送るために保証された権利によって定義される持続可能な未来への移行をボランタリーカーボンクレジット市場によって加速させる」というビジョンを掲げ、ネットゼロ排出量を達成するための6つの推奨事項をアクション・アジェンダとして示しています。

このように、Verraは国際的な環境保護の枠組みにおいて独自の基準および認証プロセスを確立し、さまざまな活動を通して気候変動対策やサステナブルな開発の推進に大きく寄与しています。

②「ABACUS(アバカス)」とは

2-1.「ABACUS(アバカス)」の概要

ABACUS(アバカス)は、2024年7月29日にVerraが発表した新しい認証ラベルです。このラベルは、高品質の生態系回復・再植林カーボンクレジットに付与され、自然ベースの二酸化炭素除去クレジットに特化しています。
ABACUSの主な特徴は以下の通りです:

  1. VerraのVM0047「造林、再植林、および植生回復」方法論を使用するプロジェクトが対象。
  2. 二酸化炭素の除去量の正確な測定、長期的なカーボンシンクの維持、地域社会や生物多様性への影響を考慮した総合的アプローチを採用。

ABACUSラベルは、サステナビリティに配慮したプロジェクトをサポートし、カーボンクレジット市場の品質基準を引き上げる役割を担っています。このラベルの導入は、気候変動に対する国際的な取り組みにおいて重要な意味を持つと考えられています。

2-2.「ABACUS(アバカス)」誕生の背景

ABACUSラベルが誕生した背景には、以下のような要因があります:

  • 自然ベースの二酸化炭素除去クレジットへのニーズ増加。
  • 科学的根拠や信頼性の確保の必要性。
  • カーボンクレジット市場の急速な拡大、特に再植林やアグロフォレストリープロジェクトへの注目。
  • これまでの取り組みでは、生態系回復・再植林プロジェクトからのカーボンクレジット発行が全体の4%未満にとどまるなど、十分に活用されていない状況。

VerraのABACUSワーキンググループは、こうした現状を打破するため、再植林やアグロフォレストリーを中心とした活動に焦点を当て、科学的根拠をさらに強化する新しい基準を設けることを提案しました。ABACUSラベルは、「持続可能な開発目標(SDGs)」、特に「飢餓をゼロに」「気候変動に具体的な対策を」「陸の豊かさも守ろう」といった目標に大きく貢献すると期待されています。

また、このラベルを通じて、プロジェクト提案者には追加性、基準値設定、カーボンリーケージ、炭素会計、持続性といった分野での革新が求められます。これにより、カーボンクレジット市場の信頼性が向上し、投資家や企業がより安心してプロジェクトを支援できる環境が整うことが期待されています。

③「ABACUS(アバカス)」の特徴と重要性

3-1. 生態系回復・再植林カーボンクレジットが対象

ABACUSラベルは、生態系回復・再植林カーボンクレジットを対象としています。これらのプロジェクトは、温室効果ガスの削減と生物多様性の保全を両立させる重要な役割を果たしています。

生態系回復プロジェクトは、劣化した自然環境(森林、湿地、草原など)を再生し、自然の炭素貯蔵機能を回復させることを目的としています。一方、再植林プロジェクトは、過去に失われた森林を再び植林することで、温室効果ガスの吸収と固定を促進します。

これらのプロジェクトは、カーボンクレジットの生成だけでなく、生態系の復元、生物多様性の増加、水源の保護、土壌の安定化、地域気候の調整など、多面的な環境改善効果をもたらします。

3-2. ABACUSラベルの主な特徴

a. 高い透明性

ABACUSラベルは、プロジェクトの詳細なデータを公開し、ステークホルダーの情報に基づいた意思決定をサポートします。投資家や購入者は、プロジェクトの運営状況や温室効果ガス削減の達成度を明確に確認できます。

b. プロジェクトの追加性

ABACUSラベルの取得には、そのプロジェクトが既存の法規制や通常のビジネス慣行では実施されないものであることの証明が必要です。これにより、カーボンクレジットが実際に追加的な環境改善をもたらすことが保証されます。

c. プロジェクトの永続性

ABACUSラベルは、プロジェクトの効果が長期的に持続することを重視しています。このことは、購入者にとってクレジットへの投資が将来的に有効であることを保証する重要な要素となります。

d. カーボンリーケージのリスク評価

ABACUSラベルは、プロジェクトがカーボンリーケージ(ある場所での温室効果ガス削減が他の場所での排出増加を引き起こす現象)を最小限に抑えるための措置を講じているかを厳密に評価します。

e. 測定・報告・検証(MRV)プロセス

ABACUSラベルの取得には、温室効果ガス削減の結果を定期的に測定・報告し、独立した第三者による検証を受けることが必要です。このプロセスにより、プロジェクトの透明性と信頼性がさらに強化されます。

3-3. 著名な企業・大学の参加と市場への影響

ABACUSラベルの開発には、アマゾン・ドット・コムやスタンフォード大学など、著名な企業や大学が参加しています。さらに、グーグル、アルファベット、メタ、マイクロソフトといったアメリカIT大手がABACUS認証を取得したクレジットの購入意向を示しています。

こうした大手企業の参加と購入意向は、クレジット市場全体に大きな影響を与える可能性があり、ABACUSラベルの信頼性と重要性を高めることにつながっています。今後、これらの企業の動向が市場に与える影響に注目が集まっています。

④まとめ

VerraのABACUSラベルは、カーボンオフセットプロジェクトの信頼性と透明性を高めるために設計された新たな評価システムです。このラベルは、カーボンクレジット市場におけるプロジェクトの温室効果ガス削減または吸収の効果を厳密に評価するための基準を設けています。

具体的には、プロジェクトの追加性(既存の取り組み以上の効果があるか)、永続性(長期的に効果が持続するか)、カーボンリーケージ(他の場所での排出増加を引き起こさないか)、そして測定・報告・検証(MRV)のプロセスの正確さなどを評価します。これにより、高品質なクレジットの流通を促進し、投資家やカーボンクレジットの購入者にとって、プロジェクトの品質を判断するための重要な指標となっています。

「アルファベット」、「メタ」、「マイクロソフト」などのアメリカIT大手がすでにABACUS認証を取得したクレジットの購入意向を示しており、世界中から注目を集めています。日本企業にとっても、国際的な環境基準への適合や投資家からの評価向上の観点から、重要な取り組みとなる可能性があります。

Verraは今後もABACUSラベルを継続的に更新し、最新の科学技術を反映させていく方針です。脱炭素経営を目指す企業にとって、この国際基準であるABACUSラベルの取得は、環境への取り組みを示す重要な指標となるでしょう。

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中島 翔

一般社団法人カーボンニュートラル機構理事。学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。また一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う。証券アナリスト資格保有 。Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12