【イベントレポート】エストニアで開催!「ブロックチェーン&ビットコインカンファレンス タリン」

HEDGE GUIDE編集部では、3月22日にエストニアの首都タリンで開催された「Blockchain & Bitcoin Conference Tallinn」に参加してきました。

エストニアと言えば、電子政府と呼ばれるように国家のシステム自体がブロックチェーンが活用されており、国家としてのICO構想もあるなど仮想通貨・ブロックチェーンへの先進的な取り組みで注目されている国です。

そのエストニアでどのような議論が行われたのか、今回はその様子をお伝えしたいと思います。

イベントレポート

当日の会場は、タリンの旧市街から15分ほど歩いたところにあるヒルトンホテル。会場につくと、既に多くの参加者でごった返しており、ICOを予定しているプロジェクトらの出店ブースも賑わっていました。

なお、当日はセッションもICOプロジェクトによるピッチも朝から夕方までびっしりと組まれており、いずれのセッションも興味深かったものの全ての内容を紹介することは難しいので、その中から下記の4つにテーマを絞り、内容をサマリーしたいと思います。

  1. 面白いなと思ったICOプロジェクト
  2. 仮想通貨をとりまくグローバルな法規制の動向
  3. ブロックチェーンが実現する、5年後の未来とは?
  4. 体系化されつつあるICOノウハウ

1. 面白いなと思ったICOプロジェクト

まずは、当日のカンファレンスに参加していたICOプロジェクトの中で、個人的に特に面白いなと感じたプロジェクトを3つだけご紹介します。(ICOへの参加を呼びかけるものではありません、念のため。)

ブロックチェーンでグローバルの株式市場を一から作り直す「Chainium」

Chainiumは、独自のブロックチェーンを使ってグローバルの株式市場を一から作り直し、「世界中の誰もが世界中のどの企業の株式も買えるようにする」という壮大なビジョンを掲げているプロジェクトです。

ICOという新たな資金調達手段の登場により、従来の株式によるエクイティ・ファイナンスはどうなるのか?といった議論が多いなか、逆にブロックチェーンを使って株式市場をもっと良いものに作り変えようとICOをするというのが面白いなと思いました。

Chainiumの問題意識は、株式という仕組みは本来とてもシンプルな仕組みであるにも関わらず、長い歴史を経て作られた今の世界の株式市場は非効率に陥っているという点にあります。

「今、世界には大小含めてたくさんの証券取引所があるが、そもそもそんなに必要なのか?」「グローバル企業はグローバルに運営しているのに、各国の取引所にそれぞれ上場する必要があるのか?」「海外企業の株式に投資しようと思っても、誰もが参加できるわけではないのは公平なのか?」

これらの既存のグローバルな株式市場が抱える問題を克服し、ブローカーも取引所も銀行も、いかなる仲介者もいらない、真の非中央集権によるグローバルな分散型株式市場を創るというChainiumのビジョン。実現可能性は分かりませんが、たしかに世界中の企業と投資家がPeer to Peerで結ばれる環境というのは見てみたいと思いました。

ブロックチェーンによるM&Aマーケットプレイス「LEXIT」

また株式関連ですが、LEXITはブロックチェーンを活用して既存のM&Aにおける複雑なプロセスを簡素化し、売却までのプロセスを全てオンラインで完結できるようにしてしまおうというプロジェクトです。

2017年に世界全体では1億2500万社が登録されており、そのうち56,000社がM&Aされたとのこと。既存のM&Aプロセスは平均して2年かかり、デューデリジェンスや買い手探し、契約も含めて全てが複雑だが、LEXITはこのプロセスを半年まで短くし、M&Aにかかるコストを下げるとのことです。

実際にハーチでも会社の売却を経験したメンバーがいるのですが、当時の煩雑なやり取りを見ていると、これはM&Aの当事者としてはニーズがあるだろうなと感じました。エストニアではすでにオンラインで会社が設立できるわけなので、売却までオンラインでできるというのはすでに想像できる未来だと思います。

ブロックチェーンで再生可能エネルギー取引市場をつくる「WePower」

WePowerは比較的有名なICOプロジェクトなのでご存知の方も多いかもしれませんが、ブロックチェーンを活用して再生可能エネルギーの取引プラットフォーム構築を目指すプロジェクトです。

ブロックチェーンを活用したソーシャルグッドなアイデアとして弊社のメディア「IDEAS FOR GOOD」でも一度取り上げました(「欧州初。エストニアが実践するブロックチェーンを活用した再生可能エネルギー取引」を参照)。

今年の1月にはWePowerのCEOが日本に来日したタイミングでミートアップが開催されていたので私も参加してみましたが、ブロックチェーンを使って再生可能エネルギーをトークン化し、より持続可能な未来をつくる、という同社のビジョンはとても素敵でした。

ちなみに同社のICOは2月初旬にすでに終了しており、2万人以上の投資家から総額4,000万米ドル以上を資金調達し、エネルギー分野のICOとして過去最大規模の成功を収めています。

WePowerは欧州初のパイロットプロジェクトの場所としてエストニアを選び、同国の電力会社Elering社と協力し、エストニアのエネルギーデータを大規模にトークン化する実験を進めています。

実験場所としてエストニアが選ばれた理由は、同国の電力はすでに100%スマートメーターで管理されており、すぐにデータ活用できるスマートグリッドインフラが整っているから。まさにブロックチェーン先進国ならではの革新的な取り組みです。

カンファレンスではこのWePowerのプロジェクトを裏で支えるCatapult Labsの二人が、国家のエネルギーシステムを丸ごとブロックチェーンで運用するというアイデアをどのように実現するのかを詳しく説明しました。

2. 仮想通貨をとりまくグローバルな法規制の動向

今回のカンファレンスで注目していたのは、仮想通貨を取り巻くグローバルな法規制の動向についてです。午後には「Blockchain and ICO regulation in Estonia and the European Union(エストニアとEUにおけるブロックチェーンとICO規制)」と題するパネルディスカッションが行われました。

登壇者は、エストニアの会計院担当者に加え、フランスでローファームを経営し、エストニアにも支社を持つThierry Vallat氏、ヨルダン出身の女性起業家、Iman Mutlaq氏、米国ニューヨークから来た女性弁護士のAlexandra Levin Kramer氏ら、合計6名によるグローバルな顔ぶれでした。

国によって異なる仮想通貨・ICOに対するスタンス

まずエストニアの規制については、クリプトバレーと呼ばれICOのメッカとなっているスイスよりもICOが簡単で、プロセスが早くてコストが安いという意見が出ていました。これは実際に会場を訪れていた参加者の方も同じ話をされていたので、エストニアはスイスと比較してICOがしやすいようです。

また、フランスはICO自体を禁止することはせず、政府が合意したものとそうでないものの2カテゴリに分けるほか、仮想通貨をクリプト「通貨」ではなくクリプト「資産」と定義する、といった話が出ていました。ロシアもICOに対して現状はフレンドリーなようです。

そして、参加者の多くが気にしている米国のICO規制については、NY出身の弁護士、Alexandra 氏が詳しく解説し、SEC(米国証券取引員会)の狙いは2009年のような金融危機の再発を防ぐことにあるとしたうえで、「SECは全てのトークンが(規制の対象となる)セキュリティトークンだとは明言していない。そのため、米国の投資家にトークンを販売する場合は法律家を雇え」とアドバイスしていました。

さらに、中国は既にICOを全面禁止したことで知られていますが、それゆえに中国のプロジェクトは香港やシンガポール、日本へと流れているという話も出ました。

規制をするべきか、すべきでないか?

仮想通貨やICOについて、欧州はEUとして一つの統一したルールを持つべきか、という問いについては、「現状の仮想通貨の市場規模はまだとても小さく、規制するようなものではない。EUが米国に勝つためには、もっと自由にさせる必要がある」「たとえEU各国が独自に法律を定めたとしても、いずれ同じものになるのでは。現状はドイツとフランスが他国にリードして法を定めようとしており、他国もそれに従うだろう」「規制はよくないが、規制によって市場が成熟するのも事実。テクノロジーと通貨は切り分けて考えるべき」「そもそもジェントルにやっていれば規制を恐れる必要などない」といった意見が出ました。

規制のせいでイノベーションがニューヨークを去った?

なかでも印象的だったのは、NYの弁護士Alexandra氏の「Innovation is leaving New York(イノベーションがニューヨークを去っている)」という一言。NYでは2年前に仮想通貨ビジネスのライセンス制度を始めたが、その手続きが複雑すぎて多くのスタートアップがNYを離れてしまったとのこと。NYでは規制によるイノベーションの衰退を見てきたので、やりすぎはよくないと言っていました。このあたりの話は日本も学ぶべきことがありそうだと感じました。

3. ブロックチェーンが実現する、5年後の未来とは?

続いてのディスカッションのテーマは、「5年以内にブロックチェーン技術はどうなるか?」というもの。非常に興味深いトピックですが、こちらについては登壇者らからも「すでに土地の権利へのブロックチェーン活用などははじまっており、より自然なユースケースが増えてくるだろう」「5年以内にヘルスケア、交通、金融、法律などどの分野でもより多く使われるようになっているだろう」「ブロックチェーンはスタンダードになる。透明性を高め、様々な事業を民主化する」といった肯定的な意見が目立ちました。

5年以内に、ブロックチェーンのカンファレンスはなくなるだろう

最もユニークだったのは、「5年以内に、ブロックチェーンのカンファレンスはなくなるだろう」という発言。これは一見ネガティブなようにも聴こえますが、その意図は真逆です。

インターネットが普及し始めたころはインターネットに関するカンファレンスが世界各地で毎日のようにたくさん開かれたが、インターネットが当たり前になった今では、もはや「インターネット」を主題とするカンファレンスを見かけることはない。ブロックチェーンもいずれそうなるだろう、ということです。

ブロックチェーンに関するカンファレンスで、ブロックチェーンのカンファレンスはなくなると予言するという、何ともシニカルながら的を得た発言だと感じました。

4. 体系化されつつあるICOノウハウ

今回のカンファレンスでは、これからICOをしたい人向けのセッションも充実していました。日本ではあまりない切り口なので、とても興味深く聞きました。いくつか印象に残った内容をご紹介します。

ICOはコミュニティビルディング

ブルガリアのシリアル・アントレプレナー、Aleks Bozhinov氏は、「Community Management during ICO(ICO中のコミュニティマネジメント)」というテーマでICOはコミュニティビルディングだという話をしていました。既にこのテーマでセッションが成り立つというのも驚きです。

同氏はICOのコミュニティビルディングを成功させる5つの「C」として「Content(コンテンツ)」「Context(コンテクスト)」「Connectivity(つながり)」「Continuity(継続)」「Collaboration(協働)」というフレームワークを紹介していました。

ICOは、自主規制しよう

また、リトアニアの起業家、Martins Liberts氏の講演テーマは、「Self-regulated ICO – a way to build trust in the crypto world and secure contributions. Practical experience and lessons learned(自主規制によるICO -仮想通貨の世界で信頼とセキュアな貢献を構築する方法。実際の経験と私が学んだ教訓)」。シンプルに言うと、ICOをする人は各国の政府が規制をかけるのを受け身で待っているのではなく、自分たちで自主的に規制してしっかりやっていこうよ、という呼びかけでした。

具体的には、「明確なビジネスプランを持つこと」「スマートコントラクトを使用すること」「 透明な会社体制にすること」「セキュリティ対策をしっかりすること」などを挙げていました。ICOの規制が強まるのは詐欺のようなICOが多発しているからであり、そもそもプロジェクトの主体者がしっかりとやっていれば、規制が弱まる可能性もゼロではありません。自ら規制する、という考え方は今のフェーズにおいてもとても大事だと感じました。

広告規制の影響と今後

グーグルやフェイスブックらが進めている仮想通貨に関する広告規制についても触れておきます。エストニアの起業家、Valentin Savchenko氏のテーマは「How to market your ICO when the main traffic sources are dead?(主要な流入減を失ったとき、どのようにICOマーケティングをすればよいのか?)」というもの。

同氏は、大手プラットフォームらが続々と仮想通貨関連の広告出稿を禁止に踏み切るなか、ICOプロジェクトはこれからどのようにトラフィックを集めていけばよいのか、というかなり実務的な話。同氏は代替案としてCPAネットワークの活用や仮想通貨インフルエンサーの活用、仮想通貨メディアへの直接広告出稿など様々な方法を紹介していました。

ちなみに、このIT大手各社による広告の自主規制については先ほどのパネルディスカッションでも少し話題に上がっていましたが、「大きなプラットフォームが広告出稿をやめれば、小さなプラットフォームが成長するだけ」「グーグルやフェイスブックが規制できない形で広告する方法は他にいくらでもある」「優れたICOが規制される理由はどこにもない」など様々な意見が飛び交っていました。

おまけ

他にもたくさんの興味深いセッションがありましたが、最後にカンファレンスのセッションを通じて最も印象に残った言葉を一つ。

アジアは「お金」、欧州は「フィロソフィー」、米国は「法律」

シンガポールに拠点を置くイタリア人起業家のStefano Virgilli氏は、世界各国の仮想通貨に関するカンファレンスで講演をする中で、地域によってオーディエンスが興味を持つトピックが異なることに気付いたと話していました。

アジアで盛り上がる話題はとにかく「マネー、マネー、マネー」(笑)。欧州では「フィロソフィー」についての議論が盛り上がり、米国に行くと「法律」の話ばかりだと。同じ仮想通貨というトピックでも、地域によって語られ方は違うのだなと思いました。

まとめ

長くなってしまいましたが、当日の雰囲気が少しでも伝われば幸いです。長い目で見ると、仮想通貨やブロックチェーンの歴史はまだ始まったばかり。克服するべき様々な課題はありつつも、適切な規制により市場が成熟し、技術が世の中に浸透するようになれば、今とは全く景色が違う世界になっているのではないかと思います。

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HEDGE GUIDE 編集部 仮想通貨チーム

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