半導体業界の主なESG課題とサステナビリティの取組は?日米主要企業の動向も

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半導体市場は、ESG(環境・社会・企業統合)やDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進、AIの台頭などを背景に拡大しています。半導体市場規模は、今後10年で倍増し1兆ドルに達するとも予想されています。

半導体需要が高まるにつれ、半導体製造工程における環境負荷への対応が半導体業界の課題となっています。

そこで今回は、半導体業界の主なESG課題とサステナビリティの取り組みと日米主要企業の動向を解説します。
※本記事は2023年7月11日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。

目次

  1. 半導体業界と製造工
  2. 半導体業界の主なESG課題
  3. 日米主要企業のサステナビリティへの取り組み
    3-1.信越化学工業(4063)
    3-2.SCREENホールディングス(7735)
    3-3.インテル
    3-4.AMAT
  4. まとめ

1.半導体業界と製造工程

半導体業界は、大きく分けてウエハーメーカー、半導体デバイスメーカー、半導体製造装置メーカー、半導体商社の4つに分類されます。

半導体の製造工程は、設計、前工程、後工程の3工程です。まず、半導体の配線回路の設計をし、前工程で設計通りに電子回路をウエハー表面に形成、後工程ではチップを切り取り所定の位置に組み込んで完成します。

2.半導体業界の主なESG課題

半導体業界のESGの課題としては、製造過程における環境負荷が挙げられます。環境負荷とは、半導体製造過程におけるエネルギー消費、化学物質・希少材料、温室効果ガスの放出などです。なお、温室効果ガスの算定は、スコープ1*、2*、3*に分類されます。

半導体業界においては以下の通りです。

  • スコープ1:事業者自ら排出する直接排出量
  • スコープ2:電気など他社から供給された間接排出量
  • スコープ3:スコープ1、2以外の事業活動に関連する他社の温室効果ガス排出量
  • スコープ1の排出:ウエハーのエッチング、チャンバー洗浄などの作業中に使用されるプロセスガスから発生。
  • スコープ2の排出:生産設備の稼働時に必要なエネルギーで、半導体企業からの温室効果ガスの割合が最も高いスコープです。
  • スコープ3の排出:サプライチェーンに関連する間接的な排出量です。スコープ3を減少させるには、取引先との連携が必要です。

参照:aws「半導体業界の持続可能性報告に関する考慮事項

3.日米主要企業のサステナビリティへの取り組み

日米主要企業のサステナビリティへの取り組みを、気候変動を中心にみていきましょう。

3-1.信越化学工業(4063)

信越化学工業は、世界的な総合化学素材メーカーで、半導体用のシリコンウエハー市場では30%超のシェアを有しています。

サステナビリティの基本方針は、以下の通りです。

  • 持続可能な成長により企業価値を高め、多面的な社会貢献を行う
  • 安全を常に最優先とする企業活動を行う
  • 温室効果ガス排出量削減に貢献する事業を拡充する
  • 製品の開発・製造時の効率を極め、その製品供給により社会の効率化に貢献する
  • 生物多様性に配慮し、地球環境との調和を図りながら、事業活動に取り組む
  • 人種の尊重と雇用における機会の均等を図り、働く人の自己現実を支援する
  • 適時そして的確な情報開示を行う
  • 倫理に基づいた健全で信頼される、透明性のある企業活動を行う

サステナビリティ活動推進のために、社長が委員長を務めるサステナビリティ委員会を組織し、活動しています。

また2050年カーボンニュートラルに向け、事業活動の中で温室効果ガスの排出量削減に取り組んでいます。中間目標として、2025年度に1990年比で、温室効果ガス排出の生産量原単位を45%にすると、定めています。

中間目標

  • 徹底した生産の効率化による、温室効果ガス排出量の削減
  • 環境貢献製品の開発、製造、供給
  • 再生可能エネルギーの活用
  • 物流における温室効果ガス排出の削減

2021年度の実績は、同社グループ全体では1990年度比52.9%でしたが、信越化学工業単独では同46.3%と、目標の45%が目前です。

3-2.SCREENホールディングス(7735)

SCREENホールディングスは、半導体・液晶製造装置メーカーで、ウエハー洗浄装置で世界首位の企業です。SCREENグループでは、2050年カーボンニュートラルに向けて取り組んでいます。

事業活動を通じたCO₂排出量(スコープ1.2)と、販売した製品によるCO₂排出量(スコープ3)について、2030年の削減目標を設定しました。2030年までに、事業活動によるCO₂排出量を2019年3月期比30%削減が目標です。販売した製品の使用によるCO₂排出量の目標は、2030年までに2019年3月比20%削減です。

同社は、海外売上が80%近くを占めるため、輸送時のCO₂排出量を削減するために、物流手段をトラックから船舶に切り替えるモーダルシフトを積極的に進めています。

3-3.インテル

インテルは、気候変動に対処するために、2040年までにグローバル事業における温室効果ガス排出量ネットゼロの達成を掲げています。また、バリューチェーンのフットプリント*を削減し、気候変動に対処するために業界全体の行動を促進することを目的とした目標を設定しています。

*フットプリント制度:商品のライフサイクル全体で排出された温室効果ガスを可視化する仕組み

同社は2040年の最終目標に向けて、以下のマイルストーンを2030年目標として設定しました。

  • 世界的な事業全体で100%再生可能電力を使用
  • 施設の省エネに約3億ドルを投資し、累計40億キロワットの省エネを達成
  • LEED*基準を満たす新工業と施設を建設
  • 地球温暖化係数が低く、環境に優しい物質を特定し、新しい削除装置を開発するために業界を超えて取り組む

      
*LEED:米国グリーンビルティング協会が開発した環境評価システム

また、製品やバリューチェーンが気候に与える影響に対処するために、製品の排出量については、同社次世代CPU-GPUのワットあたり性能を5倍にする目標を設定しました。2030年までにクライアントおよびサーバーのマイクロプロセッサーの製品エネルギー効率を10倍向上させるとしています。

3-4.AMAT

アプライドマテリアルズは、サステナブルな業界を現実するため、カーボンフットプリント削減の推進、環境報告の透明性を高める取り組みを進めています。再生可能エネルギー由来の電力利用率を引き上げており、米国内での利用率は2021年の80%から2022年には100%に達しました。なお、全世界の利用率は69%(2021年:57%)から12%上昇しました。

また、新たな目標として、ウエハー1枚当たりの排出量を2030年までに2019年比で55%削減するとしています。

同社は、再生可能電力のグローバルな需要を業界全体で促進し、低炭素社会の実現に向けて取り組んでいます。

4.まとめ

半導体市場規模は、ESG(環境・社会・企業統合)、DX(デジタルトランスフォーメーション)、AIの台頭を背景に、市場規模は今後10年で1兆ドルに達すると予想されています。一方、市場規模拡大に伴い、業界全体での二酸化炭素排出量が増加することが予想されるため、業界全体で排出抑制に向けた取り組みが求められていることから、各メーカーが協調し、目標を設定して取り組んでいます。

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藤井 理

大学3年から株式投資を始め、投資歴は35年以上。スタンスは割安銘柄の長期投資。目先の利益は追わず企業成長ともに株価の上昇を楽しむ投資スタイル。保有株には30倍に成長した銘柄も。
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。