食品業界には、食品ロス抑制や食品廃棄物リサイクルなど、さまざまなESG課題があります。企業は代替タンパク質や食品廃棄物の削減といった、サステナビリティ(持続可能性)を追求する新興企業へ積極的な投資を通じて、問題解決に働きかけています。
この記事では、食品業界のESG課題とサステナビリティへの取り組み、関連企業について解説します。
※2023年7月12日時点の情報をもとに執筆しています。最新の情報は、ご自身でもご確認をお願い致します。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定のサービス・金融商品への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- 食品業界のESG課題
- 食品業界ではサステナビリティを追求する企業への投資が活発に
- 代替肉の企業に注目が集まる
- 代替肉が注目されている理由
- ビヨンド・ミート社が2019年にIPO(新規株式公開)
- まとめ
1.食品業界のESG課題
2011年に「国連ビジネスと人権に関する指導原則」が制定されてから10年以上が経過し、日本を含む世界20カ国以上が指導原則に基づく国内行動計画(NAP)を策定しています。また、欧米を中心に、人権尊重を理由とした企業に対する法規制が強化されつつあります。
そこで、日本政府は2021年秋に実施した調査において、ガイドラインの策定を求める強い要望を受け、2022年9月13日に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を公表しました。このガイドラインは、業界を超えて活用されることを目的としています。
食品業界に関わる主な環境分野のESG課題は、以下の通りです。
- 気候変動
- 水資源の確保
- 森林減少の抑制
- 持続可能な農業・水産業
- 食品ロス抑制・食品廃棄物リサイクル
- 脱プラスチック、容器包装リサイクル
2.食品業界ではサステナビリティを追求する企業への投資が活発に
食品業界は、サステナビリティ(持続可能性)を追求する新興企業への投資を増やしています。とくに、動物性食肉よりも温室効果ガスの排出量が少なく、食品廃棄物を削減できる代替食肉を開発する企業が注目を集めています。
2020年の食品・飲料業界の資金調達件数は前年比8%増にとどまったものの、1件あたりの平均調達額は増加しました。2020年の食品・飲料業界によるエクイティファイナンス(新規株式発行を伴う資金調達)は約59億ドルで、過去最高を更新しています。人工的に設計されたタンパク質を開発するジェルター社(米)、植物性食品を扱うインポッシブル・フーズ社(米)、植物性ミルクを製造するカリフィア・ファームズ社(米)などに多額の資金が投じられました。
参照:日経新聞「食品分野への投資マネー、「持続可能性」に照準」
食品・飲料業界の資金調達は、代替タンパク質の開発や食品廃棄物の削減といった「持続可能な食品」ビジネスに集中しており、持続可能で環境に優しい製品に対する消費者の需要の高まりを反映しているといえるでしょう。
3.代替肉の企業に注目が集まる
「代替肉」とは、植物性原料から作られた肉に似た食品のことです。近年、食品加工技術の発達に伴い、豆類や小麦タンパク質を主原料とした代用肉が次々と開発されています。アレンジがしやすいひき肉タイプや、大人でも満足できるハンバーグなど、種類も豊富です。
肉の代用品としてだけでなく、ヘルシーで環境にやさしい食品としても注目されています。食肉生産には大量の水とエネルギーが必要で、環境負荷が問題になっているからです。代替肉はこうした問題を解決する可能性を秘めています。
世界中で代替肉の開発に着手している企業もあり、現在最も注目されている分野のひとつとなっています。
画像引用:シード・プランニング「植物由来の代替肉と細胞培養肉の現状と将来展望」
シード・プランニングの上記レポートによると、世界の植物由来の代替肉の市場規模は2030年には2020年の8倍にあたる886億米ドルに達し、日本でも同時期に2倍以上の780億円になると予想されています。
4.代替肉が注目されている理由
家畜の肉を育てるためには、その餌となる豆や穀物も育てなければいけません。しかし、食用の畑を際限なく広げ、家畜のために個体数を増やすことは、地球に大きな負担をかけます。また、家畜の排泄物などからはメタンガスなどの温室効果ガスが発生し、メタンガスの温室効果は二酸化炭素の25倍といわれています。
代替肉は家畜を飼育する必要がないため、環境への影響を大幅に削減できます。また、代替肉は家畜の肉よりも脂肪やコレステロールの含有量が少ないため、より健康的です。
現在、代替肉は世界中で注目されていますが、日本でも代替肉を使ったハンバーグやソーセージなどの商品が販売されています。代替肉の需要は今後さらに伸びていくことが予想されています。
また、昨今のパンデミックを受け、日常生活や食生活を見直す人が増えています。在宅勤務で運動不足にもかかわらず、普段と同じ食生活を続けた結果、体調や体型に変化が現れた人も多いのではないでしょうか。
その中で注目されているのが代替肉です。大豆から作られたものであれば、コレステロールはゼロ、カロリーは豚肉の約半分程度になります。
大手カフェチェーンやファーストフード店では、すでに植物性メニューを導入しているところが多くなっています。手早く手軽に食べられるうえ、健康管理にも役立つことから、植物性メニューの人気は高まっています。
5.ビヨンド・ミート社が2019年にIPO(新規株式公開)
2019年5月2日、植物由来の代替肉を扱う米ビヨンド・ミート社がニューヨークで新規株式公開(IPO)を果たしました。その4日後には、米国最大の食肉加工業者であるタイソン・フーズが代替肉製品を市場に投入する準備を進めていると発表し、翌月には「Raised & Rooted」ブランドで初の代替肉製品を発売しました。
その後わずか3ヶ月の間に、ケンタッキーフライドチキン、バーガーキング、ダンキンドーナツ、マクドナルド、ケロッグが相次いで代替肉製品の取り扱いを開始すると発表。植物由来の代替肉は海外で急速に成長しています。
また、日本でも丸大食品やキユーピー、大塚食品などの大手食品会社や、モスバーガー、ココ壱番屋、ロッテリアなどのレストランチェーン、ファミリーマート、イトーヨーカドーなどの大手小売点も代替肉食品(主に大豆ミート)の新商品の発売を進めています。
代用肉にはメリットもあるものの、デメリットもあります。特に、個人は必要な栄養素をきちんと摂取できない可能性があることに注意しなければいけません。
今後はそうした個人のデメリットを解決する代替肉の開発が求められるでしょう。まだまだ成長分野であるため、参入障壁は高くありません。市場がレッドオーシャンになる前の今が、飛び込むチャンスであると考えています。
6.まとめ
食品業界には、さまざまなESG課題があります。食品業界ではサステナビリティを追求するスタートアップへの投資が活発になっています。今後も、食品業界のESG課題への取り組みに注目です。
山下耕太郎
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