今回は、リップル社によるNFTを利用したカーボンクレジットの取り組みについて、大手仮想通貨取引所トレーダーとしての勤務経験を持ち現在では仮想通貨コンテンツの提供事業を執り行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12)に解説していただきました。
目次
- リップル社とは
1-1.リップル社の概要
1-2.リップル社の事業内容 - カーボンクレジットとは
2-1.カーボンクレジットの概要
2-2.カーボンクレジット市場における課題
2-3.カーボンクレジット市場とブロックチェーン - リップル社のカーボンニュートラルへの取り組み
3-1.「XRPレジャー(XRPL)」の特徴
3-2.「XRPレジャー(XRPL)」の脱炭素化
3-3.炭素市場に対する1億米ドル(約129億円)の投資
3-4.カーボンクレジットのNFT化 - まとめ
近年、「ESG(環境・社会・ガバナンス)」や「SDGs(持続可能な開発目標)」といった概念が急速に浸透している中、政府や企業などの環境問題に対する取り組みもますます活発化しています。
そんな中、クロスボーダー決済や送金ネットワークのプロトコル開発で知られるアメリカの大手フィンテック企業リップル(Ripple)社は、カーボンクレジット(Carbon Credit)に焦点を当て、現在の市場が抱える課題点の解決に注力しています。
そこで今回は、リップル社が考えるブロックチェーンを利用したカーボンクレジットとNFTについて、その概要や実際の取り組みなどを詳しく解説していきます。
①リップル社とは
1-1.リップル社の概要と沿革
「リップル(Ripple)社」とは、アメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコを拠点とした事業展開を行っている大手フィンテック企業のことを指します。
リップル社の歴史は2000年代にまで遡り、当時カナダ・バンクーバーにおいてローカルな為替取引システムの開発を行っていたソフトウェア技術者ライアン・フッガー(Ryan Fugger)氏が、2004年に考案した「リップル・ペイメント・プロトコル(Ripple Payment Protocol)」がその始まりだとされています。
リップル・ペイメント・プロトコルは、個人またはコミュニティが信用のもとに、あらゆる通貨による価値交換をより効率的な方法で行うことができる非中央集権的な仕組みの構築を目指して開発された新しい貨幣システムでした。
その後、このプロトコルをベースとして、「マウントゴックス(Mt.Gox)」の創業者であるジェド・マケーレブ(Jed McCaleb)氏がビットコイン技術を応用した「コンセンサスレジャー」の開発を行い、2012年には事業家のクリス・ラーセン(Chris Larsen)氏に対して、プロジェクトの指揮権を託しました。その後、両者は2012年9月に「オープンコイン(OpenCoin)」という会社を共同設立し、本格的に事業をスタートします。オープンコインでは、インターネット・プロトコルである「リップル・トランザクション・プロトコル(RTXP)」および支払い交換のためのリップルネットワークの開発が行われました。
そして、2013年に社名を「リップル・ラボ(Ripple Labs)」に、2015年には現在の「リップル(Ripple)」へと変更し、事業内容を国際送金ソリューションの開発へとシフトしていきました。現在リップル社では「価値のインターネットの構築」というテーマを掲げており、情報やデータを瞬時に移動させることができるのと同じように、「価値資産」の交換が瞬時に実行できる、経済的国境のない世界に向けた画期的なクリプト・ソリューションの構築に尽力しています。
具体的には、ブロックチェーン・テクノロジーを駆使することで、グローバルな金融機関や企業、政府やデベロッパーによるさまざまな「価値資産」の移動や管理、およびトークン化を可能にし、時間や場所を問わず、世界中のすべての人により大きな経済的機会をもたらすことのできる世界の実現を目指しています。
1-2.リップル社の事業内容
リップル社が手がける主な事業内容は、下記の通りです。
・パブリックブロックチェーンの開発・運営
リップル社では、「XRPレジャー(XRP Ledger)」と呼ばれるパブリックブロックチェーンの開発・運営が行われています。
XRPレジャーは、異なる台帳同士での取引を実現する「ILP」と呼ばれる国際標準規格をベースとしたテクノロジーのことを指します。ILPとは、「Interledger Protocol(インターレジャープロトコル)」の頭文字を取ったもので、トランザクションをはじめとする情報を管理しつつ、ネットワークに参加するユーザーがよりスピーディー且つ安価なコストで送金を実行できるシステムとなっています。
・各種サービスで仮想通貨XRP を使用
「XRP」とは、XRPレジャーを基盤として発行されているネイティブトークンで、金融機関などによって国際送金に広く利用されています。XRPは23年2月4日時点で時価総額約207億ドル(約2.7兆円)、時価総額ランキングは第6位にランクインするなど、多くの投資家から注目される仮想通貨の一つとなっています。
・リップルネット(RippleNet)の開発・運営
「リップルネット(RippleNet)」とは、仮想通貨であるXRPをブリッジとして活用する国際送金の基盤であり、従来の国際送金における課題であった処理時間の短縮やコストの削減を実現する金融機関向けのソリューションとなっています。
具体的には、金融機関は従来の「SWIFT(スウィフト)」やカスタムAPIではなく、リップルネットが手がける標準APIを利用することで、ネットワーク上のあらゆる金融機関とも即時にリアルタイム決済を実行することが可能だということです。
②カーボンクレジットとは
2-1.カーボンクレジットの概要
「カーボンクレジット(Carbon Credit)」とは、企業が森林の保護や植林、省エネ技術や再生可能エネルギーの導入といった事業を行うことで生まれたCO2をはじめとする温室効果ガスの「排出削減効果(削減量や吸収量)」を、他の企業などとの間で取引できるようにする仕組みのことを指します。具体的には、排出削減効果を「クレジット(排出権)」として発行することによって企業間で売買を可能にするもので、別名「炭素クレジット」とも呼ばれています。
このカーボンクレジットの仕組みは欧米企業を中心として積極的に取り入れられており、日本国内においても、2013年にカーボンクレジットを国が認証する「J-クレジット制度」が開始されています。
また、削減努力を行っても削減しきれない温室効果ガスについては、「カーボン・オフセット(Carbon Offset)」という仕組みで対応が行われています。カーボン・オフセットとは、削減しきれない温室効果ガスの排出量に合わせたカーボンクレジットを購入することで排出量の一部を相殺して穴埋めすることを言い、このような取り組みを行うことで、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「2050年カーボンニュートラル」の実現を目指しています。
2-2.カーボンクレジット市場における課題
カーボンクレジット市場はますます規模を拡大しているものの、その制度の複雑さや不透明さが市場の非効率性を招いていることもまた確かです。
特に、カーボンクレジットの価格がその「質」と適切に結びついていないという懸念があり、購入者側がクレジットの質に基づいた購入判断が困難なことに加えて、削減プロジェクトに対するファンディングもつきにくくなっていることなどが、供給不足の原因の一つとして考えられています。
さらには、この非効率性を悪用するかたちで、質の低い削減プロジェクトのクレジットをあたかも質が高いクレジットであるかのように見せかけて販売するなど、負の循環も発生しているということです。
このように、クレジットの発行がどのような基準や計画に則って行われているのかについて、買い手が正確且つ詳細に知ることが困難な状況となっており、この点がカーボンクレジット市場における最大の課題であると言われています。
2-3.カーボンクレジット市場とブロックチェーン
前述したように、カーボンクレジット市場は市場投入の遅れや供給のボトルネック、また高品質且つ検証が可能な商品が不足していることなどにより、急速に増加している需要に対して供給が追い付いていない状況が続いています。
気候変動についての目標を世界規模で達成するためには、カーボンクレジット市場におけるプロジェクトの検証および認証のための強化されたメカニズムのほか、価格と市場データの透明性のさらなる向上、そして買い手および売り手双方のためのインフラの改善が必須となっています。
そんな中、「検証」、「透明性」、「拡張性」という特徴を持ち合わせているブロックチェーンと仮想通貨は、カーボンクレジット市場が現行の課題を解決し、さらなる成長を遂げるための重要なテクノロジーであると考えられています。
では、ブロックチェーンや仮想通貨の技術は、実際カーボンクレジット市場においてどのようなかたちで導入されているのでしょうか。今回はリップル社が行っているさまざまな取り組みについて、次の項で詳しく解説していきます。
③リップル社のカーボンニュートラルへの取り組み
リップル社では、上記に挙げたようなカーボンクレジット市場における課題点を解決することを目的として、ブロックチェーン・テクノロジーを利用したさまざまな取り組みを行っています。
ここでは、リップル社が実際に行っている各取り組みについて、紹介していきます。
3-1.「XRPレジャー(XRPL)」の特徴
ビットコインなど合意形成アルゴリズムに「プルーフオブワーク(PoW)を採用するブロックチェーンは、「マイニング(採掘)」と呼ばれる膨大な計算処理が必要なため、消費電力が過剰にかかる傾向があります。
一方、XRPL はFederated Consensus プロトコルを使用してトランザクションをより効率的に管理し、XRP Ledger でのトランザクションに必要なエネルギー消費を最小限に抑えます。XRPL は、2020年10月にマイルストーンであるカーボンニュートラルを達成。そのネイティブ暗号資産(仮想通貨)XRP はマイニングを必要としないため、Ledger 上に構築されたテクノロジーの全体的な二酸化炭素排出量をさらに削減します。
3-2.「XRPレジャー(XRPL)」の脱炭素化
リップル社は2020年9月30日、エネルギーテックを手がけるスイスの非営利団体「Energy Web Foundation(エナジーウェブ財団)」と提携し、EW Zeroを共同作成しました。ブロックチェーンに用いられるエネルギーの脱炭素化を目指す取り組みを進めることを発表し、主要ブロックチェーンとして初めて、完全な脱炭素化を達成したことで知られています。
この取り組みでは、エナジーウェブのブロックチェーン・テクノロジーを駆使したオープンソースアプリケーション「Energy Web Zero (EW Zero)」が発行する再生可能エネルギーに関する「属性証明書(EAC)」を利用することで、ブロックチェーンで使用する電力の脱炭素化を実現しています。
このように、リップル社では比較的早い段階からブロックチェーン・テクノロジーを活用した脱炭素化の取り組みをスタートさせており、他のブロックチェーンコミュニティに対しても、脱炭素化エネルギーを動力源とする動きへの参画を呼びかけているということです。
3-3.炭素市場に対する1億米ドル(約129億円)の投資
22年5月20日、リップル社はカーボンクレジット市場に対して1億ドル(約129億円)の投資を実施することを明らかにしました。
投資された資金は主に革新的な炭素除去に取り組んでいる企業や、気候変動対策に取り組むフィンテック企業のほか、ブロックチェーンおよび仮想通貨、その他の金融テクノロジーを駆使した革新的な炭素除去テクノロジー企業や、マーケットメーカーなどを対象として投資されるということです。リップル社はこの投資を通して、これまで実施してきた炭素除去活動をさらに加速させるとともに、カーボンクレジット市場の刷新および規模の拡大に貢献していきたいと語っています。なお、リップル社は2020年の時点で、2030年までにカーボンニュートラルを達成するための計画を発表しており、現時点で2028年までにその目標を達成できる見込みであると報告しています。
そして、持続可能性に向けたコミットメントのさらなる強化を図るため、今回の1億米ドルという資金は下記の主要なイニシアチブに提供されるということです。
- 高品質な既存および将来の炭素クレジットのポートフォリオを構築する。
- ブロックチェーンや仮想通貨、その他の金融テクノロジーを駆使した革新的な炭素除去テクノロジー企業やマーケットメーカーへの投資を実施する。
- カーボンクレジット市場ソリューションやXRPレジャー(XRPL)における炭素クレジットNFTに注力するクリエイターやデベロッパーに向けた新機能やデベロッパーツールを提供する。
- 炭素除去の新しいシステムやステークホルダー主導の分散型ガバナンスモデルを開発し、世界有数の環境気候変動および自然保護団体との提携を継続する。
また、投資資金は上記以外にも、XRPレジャー上の主要な「NFT」として炭素クレジットのトークン化を実現する新機能のほか、デベロッパー向けツールのサポートにも利用されるということです。
3-4.カーボンクレジットのNFT化
リップル社はトークン発行や取引履歴を正確に把握することができるブロックチェーンの特徴を生かし、カーボンクレジットにNFTテクノロジーを活用することを発表しています。
実際に、フィンテック企業の「エクスチェンジ(Xange)」は国連と連携し、サハラ砂漠の拡大を防ぐ植林プロジェクトを対象としたカーボンクレジットを発行するとしており、そのNFT化の基盤としてXRPレジャーを採用し、リップル社の開発支援を受けることを発表しています。また、エクスチェンジはカーボンクレジットを対象としたトークン取引所の立ち上げも計画しているということで、業界からは大きな注目が集まっています。
このほかにも、カナダのスタートアップである「カーボンキュア・テクノロジーズ(CarbonCure Technologies)」が手がけるカーボンクレジットのNFT化に関しても、リップル社がサポートを行うということです。、カーボンキュア・テクノロジーズはCO2をコンクリートに貯蔵する技術を開発しており、リップル社はこのプロジェクトに対しても大規模な投資を行っています。
リップル社のビジネスユニット「RippleX」のジェネラル・マネージャーを務めるMonica Long氏は、カーボンクレジットのトークン化について、既存の市場の信頼性や完全性、透明性を確保しつつカーボンクレジット市場を拡大し、増大する需要に対応するために重要な役割を果たすと語っています。また、ブロックチェーン・テクノロジーをグローバルな気候イニシアチブへ導入することによって、業界がよりスピーディーにNFTカーボンクレジットを検証および認証し、不正の可能性を排除することが可能となるほか、炭素削減の取り組みにより、長期的な炭素除去の実現を証明することができるようになると説明しています。
③まとめ
近年、ESGやSDGsが世間に広く浸透したことを受け、カーボンクレジット市場にも大きな注目が集まっています。
そんな中、リップル社は現在のカーボンクレジット市場が抱える課題の解決を目指しており、ブロックチェーン・テクノロジーを駆使したさまざまなソリューションを提供することで市場のさらなる活性化に尽力しています。
なお、カーボンクレジット市場は今後さらにその規模を拡大していくと見られているため、リップル社の取り組みは今後を世界のカーボンオフセットに貢献することが期待されるでしょう。
中島 翔
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