NFTプロジェクトの買収がもたらす、NFTシーンの新たな可能性

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今回は、Web3.0とDAOをテーマに事業を行うFracton Ventures株式会社の寺本健人 氏から寄稿いただいたコラムをご紹介します。

目次

  1. プロジェクト運営・知的財産権の買収
    1-1. 事例1:Yuga LabsがLarva Labsの資産を買収
    1-2. 事例2:Pudgy Penguinsの保有者グループが運営権を買収
    1-3. これらの事例から分かること
  2. メタバース・NFT分野参入の橋頭堡としての買収
  3. まとめ

NFTに対するWeb3コミュニティ・一般社会双方からの注目が高まるにつれて、NFTプロジェクトや制作スタジオが他の企業・個人などに買収されるケースが増えています。

しかしNFTそのものはブロックチェーン上に存在する単なるトークンにすぎず、既にコミュニティに分散しているNFTのプロジェクトを「買収」するとはどういうことなのか、疑問に思われる方もいるかもしれません。そこでこの記事ではこれまでに行われた実際の買収ケースを例に、NFTプロジェクトを買収することは何を意味するのかを見ていきたいと思います。

プロジェクト運営・知的財産権の買収

事例1:Yuga LabsがLarva Labsの資産を買収

Bored Ape Yacht Club(BAYC)など、NFTの中でも特に有名なコレクションを制作し高く評価されているYuga Labsは今年3月、同じく評価の高いNFT制作スタジオであるLarva Labsから、最古のNFTコレクションとされるCryptoPunksとMeebitsという2つのNFTコレクションを買収すると発表しました。ここで言う「NFTコレクションを買収」は、Larva Labsが制作したNFTコレクションの知的財産権を購入したということです。なぜ知的財産権を買い取ることに意味があるのでしょうか。

これには、NFTに関する見落としやすい事実が関連しています。一般に、誰かがNFTを購入したとき購入者に譲渡されているのはNFTを販売・展示するなどの「利用権」だけであって、著作権やパブリシティ権といった知的財産権は譲渡されていないのです。つまり、NFTを購入したとしても必ずしも購入者がNFTとそのNFTに紐づいたデータを自由に利用できるわけではありません。保有者ができることの範囲はNFTの制作者が決定することになります。

この点については、Yuga LabsとLarva Labsでそれぞれ対応が分かれていました。Yuga Labsは自社が制作したBAYCなどのコレクションの保有者に商用利用権を与えると明示していました。これによって例えば、BAYCの保有者がそのNFTのデザインを利用したTシャツを制作して販売したり、マスメディアに対してNFTのデザインの利用を許可して報酬を受け取ったりといったことが可能になります。また、BAYCにはコミュニティ主導のMAYC(Mutant Ape Yacht Club)など複数の派生プロジェクトがありますが、こうしたプロジェクトも商用利用権がNFT所有者に与えられているからこそ可能になっています。

対してLarva Labsは自社のコレクション(CryptoPunks、Meebits)について、コミュニティに商用利用を許可していませんでした。しかし今回の買収に伴い、新たにコレクションの知的財産権そのものの所有者となったYuga LabsはCryptoPunksやMeebitsの保有者にBAYCなど元々Yuga Labsが制作したNFTコレクションと同様の商用利用権を与えると発表しています。Yuga Labsが所有者に与えるのは完全な知的財産権ではありませんが、それでも所有者がNFTを使ってできることの幅はぐっと広がります。コミュニティの活動も活発化するでしょう。

事例2:Pudgy Penguinsの保有者グループが運営権を買収

21年7月にローンチされたNFTコレクションPudgy Penguinsも4月に行われた買収によって運営チームが交代したプロジェクトの1つです。ここでの「買収」とは、コミュニティの運営、各種イベントの開催、コレクションの価値を高めるための施策など、NFTコレクションの維持・運営全体を行う権利を買い取ったことを意味しています。こちらの買収にはYuga Labsとはまた異なった事情が関係しています。

Pudgy Penguinsはリリース以降55,000ETH以上の取引量を誇る人気NFTコレクションですが、21年末ごろにかけて取引価格が落ち込んでいました。その原因はリリース当初の創業者たちで構成された当時の運営チームがプロジェクトの魅力を高めるための有効な施策を打てていなかったことにあります。運営チームはNFTのモチーフになっているペンギンを登場させた子供向け絵本の販売や独自トークンの発行、メタバース関連の施策などを行うとしていましたが、実際にはいずれも実行されていませんでした。また時を同じくしてNFTの大口保有者から「運営チームはプロジェクトの予算を使い込んでいる」との告発があり、最終的に運営チームは、NFT保有者の投票によってプロジェクトから追放されました。

その後4月には、起業家のLuca Netz氏を中心とするNFT保有者のグループが共同創業者たちから正式にプロジェクトの運営権を買い取ったとの発表がなされました。Netz氏はCoindeskの取材に「Pudgy PenguinsをNFT領域の内外で知られるブランドにしていく」と述べており、ペンギンをモチーフにした実物のおもちゃの製造や、将来的なトークン発行を検討しているようです。Netz氏を含む新たな運営チームはPudgy Penguinsを実際に保有し、愛している人々で構成されているため、旧運営チームよりも活発な活動が期待できるでしょう。

ちなみに、創業者チームが追放された21年12月頃には落ち込んでいたPudgy Penguinsの最低取引価格(Floor Price)は、新たな運営体制が発表された後大幅に値を上げています。

これらの事例から分かること

さて、Yuga LabsとPudgy Penguinsのそれぞれの事例から何が読み取れるでしょうか。2つのケースに共通するのは、NFTプロジェクトを買収したと言ってもNFT自体を買収したわけではなく、それに付随する権利を買い取ったにすぎないということです。しかし、これには大きな可能性があります。今回の買収では、NFTそのものやNFTの保有者は交代することなく運営体が変化しました。これによりコミュニティに新たな刺激がもたらされ、プロジェクト周辺がより活気づく、またはプロジェクト自体のあり方それ自体が大きく変化することが予想されます。

また、多くのNFTプロジェクトは小規模なチームで制作・初期販売・コミュニティ運営を行っています。そうしたプロジェクトの中にはコミュニティが盛り上がらずNFTの取引量も落ち込んでいたり、逆にPudgy Penguinsのように人気になりすぎたために初期の運営チームの手に負えなくなったりするケースも散見されます。こうしたプロジェクトに対して、ビジネスとして知的財産権・運営権買収を仕掛ける企業も出てくるのではないでしょうか。彼らは知的財産権の買収と同時に同プロジェクトのNFTを多数購入し、経験を積んだ専門のコミュニティマネージャーがコミュニティを活性化する施策を積極的に実行します。これを通じてコミュニティの自立分散的な活動を促してNFTコレクションの価値を引き上げた後、知的財産権・運営権をコミュニティの有力者に譲り渡すとともに、最初に購入していたNFTを売却することで利益を上げることができます。いわばNFT版バイアウト・ファンドとでもいうような企業です。

メタバース・NFT分野参入の橋頭堡としての買収

次に、大手企業がNFTに関連する買収を行った例をご紹介します。21年12月、世界的シューズブランドのNIKEはNFTコレクション「CloneX」などを制作したスタジオ「RTFKT(アーティファクトと発音)」を買収しました。NIKEはこの買収を「RTFKTというブランドへの投資」だとしており、RTFKTブランドは存続させたまま活動していくようです。

このケースからはNIKEのようにフィジカルな領域で成長してきた大企業が「メタバース」という言葉で表現されるデジタル領域を次なるフロンティアとみなし、その中で重要な役割を果たすであろうNFTを戦略の一環として注視していることがわかります。

この他に、22年3月にはイギリスに拠点を置くメタバース領域のアクセラレーター「Outlier Ventures」のCEOが「ウォルト・ディズニー社がNFTに関連する大型買収を計画しているという噂がある」と述べて大きな話題になりました。既にNFT領域で何らかの活動を行っている企業にはルイ・ヴィトンやグッチなどがあり、こうした企業も将来的にNFTプロジェクトの買収を通じて、自社ブランドのメタバースでの拡大やNFTプロジェクトとのクロスオーバーを企画するようになるかもしれません。このような動きが一般の人々がNFTに触れる機会を増やすことに繋がり、NFTの普及が進むことも期待できます。

まとめ

ここまで実際に行われた「NFT」の買収ケースをいくつか見てきました。一口にNFTを買収したと言っても、それぞれのケースで実際に買収した対象は異なります。またその目的についても、既存のNFTプロジェクトをより改善・活性化するためであったり、今後のNFT・メタバース領域の拡大を見据えた技術やIPを獲得するためであったりと様々です。今後行われるであろう買収も、何をどういった目的で取引するのかを見ていく必要があると考えられます。自分が保有しているNFTコレクションに関わるような案件であればなおさらです。

そして、企業の買収にシナジーの創出というメリットがあるのと同じように、NFTの買収にも新たな運営、新たなコミュニティ、クリエイティビティの進化といったメリットがあることは間違いないと思われます。こうした動きがNFT市場の拡大にも寄与すると期待できるでしょう。

ディスクレーマー:なお、NFTと呼ばれる属性の内、発行種類や発行形式によって法令上の扱いが異なる場合がございます。詳しくはブロックチェーン・暗号資産分野にお詳しい弁護士などにご確認ください。

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Fracton Ventures株式会社

当社では世の中をWeb3.0の世界に誘うことを目的に、Web3.0とDAOをテーマに事業を行っています。NFT×音楽の分野では、音楽分野のアーティスト、マネジメント、レーベルなどとNFTを活用した新しい体験を図るプロジェクトを行っています。