今回は、Web3.0とDAOをテーマに事業を行うFracton Ventures株式会社の太田航志 氏から寄稿いただいたコラムをご紹介します。
目次
本記事ではNFTのオラクルについて理解を深めます。
NFT市場においては、マーケットプレイスを介してNFTを売買することが、もちろんユーザーにとって最も馴染み深いと思います。一方、NFT市場が徐々に成熟化していく中で、NFTを金融商品として活用するようなケースも、急速に増えています。実際に、NFTレンディングやレンタル、先物、オプションに至るまで、幅広い種類のプロダクトがNFT市場においても整備されつつあります。
一方、上記のような潮流がある中で、解決が難しくも、急がれる問題があります。それは、結局そのNFTがいくらなのか、それに伴うNFTのオラクルの問題です。NFTは、その性質上トークン(Fungible Token)と比較して流動性が非常に低く、価格算定に主観的な評価が含まれがちです。そのため、担保の評価、清算の執行が十分に機能しないといったケースが想定されるのです。
本記事では、NFTのファイナンシャリゼーションに向けて、NFTのオラクルがいかなる問題を抱えているのか、現状のNFTオラクルの仕組みは、どういったものか、そしてこの問題に対してどのような新しい仕組みが提案されているのかについてその理解を深めます。
NFTオラクルが不確実性が引き起こす問題
ここからは、NFTの価格算定が困難となる場合に、その具体的な問題点について解説します。今回は、NFTレンディングとNFTオプションを例にその深堀をします。
まずNFTレンディングに関して、これはPeer to Peer型、Peer to Pool型に限らず、貸し手は資金を貸出し辛くなります。その理由について、例を交えながら話を進めます。例えばNFT aの価格が一昨日に4ETHであったとします。そして昨日には8ETHに上昇、本日、2ETHに暴落してしまったとします。もちろんこれは極端な例ですが、価格を小さくすればありえない変動でもないかと思います。そしてその一昨日にNFT aを担保として、3ETHをユーザーAが借り入れたとします。この時点においてはこの取引は妥当なように思われます。もちろん8ETHの時は資金効率が悪くなる程度ですが、2ETHに下落した本日には、このローンはデフォルトする可能性があります。というのも担保が不良債権化した場合に3ETHの借入をわざわざ返還して、NFTの担保を受け取ろうとするユーザーはいないでしょう。もちろん8ETHから2ETHに下落している間、清算が発生すれば問題ないのではと考える方も多いかもしれません。しかし上記でも申し上げた通り、NFTは流動性が低く、価格算定が困難なのです。
ではNFTレンディングにおける清算人の立ち回り方を考えてみましょう。まず清算人は、あるNFTローンが担保比率を割ったことを確認します。清算人は清算オークションに参加し、NFTをディスカウント価格で購入して、借り手の代わりに担保を清算します。本来であれば、清算というのは担保を割り引いて購入することができ、アービトラージが可能であるため、清算額が大きければ大きいほど、争奪戦となります。これを踏まえるとNFTの清算は非常に魅力的な取引に思えますが、清算人が全くリスクを追っていない訳ではありません。清算人は担保アセットに一時的であってもエクスポージャーを持たななけばならないため、担保アセットいかんによっては、そのボラティリティを懸念して清算人が現れない可能性があるのです。その場合このローンは不良債権化してしまいます。
NFTオプションに関しても、オプションを組成することができるNFTはほんの一部であると考えられます。仮にあるNFTオプションの権利行使価格が設定されていたとしても、NFT自体の流動性が低いために、価格操作が容易であって、エクスプロイトが発生するであろうことは想像に難くないでしょう。
上記の被害は一定の市場価値を誇るようなトークン(Fungible Token)でも発生しており、昨年度のMango MarketsやAaveへの攻撃は、読者の方も記憶に新しいことでしょう。これらのリスクは、NFTのファイナンシャリゼーションにおいてほんの一例に過ぎません。しかしながらNFTはもちろんのことトークンであっても流動性が低いアセットで、より高度な金融取引のプラットフォームを整備することは非常に難しいということです。
NFTオラクルの仕組み
これまでは、金融商品的な側面からNFTのオラクルの問題点について理解を深めてきました。上記の問題は、確かに重要な課題ではあるのですが、その解決は容易なものではありません。そもそも、従来の金融市場を考えても、不動産市場や複雑なデリバティブを扱う市場の流動性は高くありません。
以下では、具体的なNFTオラクルの仕組みを概観します。先の問題を踏まえると、課題も散見されるとは思いますが、現状ではベターな仕組みであると思いますし、新しい仕組みも提案されています。
Chainlink oracleの概要
ここからはオラクル領域の最大手であるChainlinkのNFTオラクルに解説を加えます。Chainlinkは、複数のNFTマーケットプレイスから、フロアプライスといったNFTの市場データを収集し、Coinbase Cloudのデータ分析機能を通じて、必要となるデータを算出します。その後分散型オラクルネットワークを通じて価格データなどをスマートコントラクトとアプリケーションに配信するという仕組みです。価格データは、時間加重平均によって計算されるため、AzukiやBAYCなどごく限られたブルーチップNFTであれば、一定程度利用可能なデータを提供することができます。
オラクルに依存しない仕組み
続いてはAMM型NFTマーケットプレイスによる価格データの提供です。Uniswapオラクルを考えていただけば、理解が早いかと思います。NFT AMMではボンディングカーブに沿って、取引が執行されます。また売り手と買い手の両方の注文が存在しているため、円滑に取引が進みます。ただ多くのNFT AMMではユーザーが独自のボンディングカーブを設定できるため、複数のプールに分散し、流動性を低下するという問題が存在しています。また全てのNFTを同一のものとして扱う側面が強いため、レアリティなどを反映することが難しいという課題も存在しています。
続いてはNFTをトークン化することで流動性を高めようと試みたプロジェクトなども存在します。NFTXではVaultにNFTをロックすることで、当該のNFTと対応したvTokenを1:1で発行することができます。vTokenは1トークンでNFT1つと交換できる代替性トークンです。したがって受け取るNFTはVaultに預けられている中からランダムで選ばれるため、自分が預けたものとは異なるNFTが返ってくる場合もある点に注意が必要です。NFTは1つずつ取引しなければなりませんが、vTokenであれば小分けにして売買することが可能となります。NFT自体と価値は間接的に分散してしまいますが、FTとして取り扱うことが可能となるため、流動性が向上することが見込まれます。
まとめ
今回はNFTのオラクルついて解説してきました。NFTに限らず、一般に流動性の低い資産において、高度な金融サービスを提供することは非常に難しいことです。おそらく今後もブルーチップNFTにような流動性が高く、取引が盛んなNFTを中心にそのファイナンシャリゼーションが進行していくと考えます。ただ、例えばUniswapなどのAMMの実装により、ロングテールなトークンでも交換が可能となった歴史を踏まえれば、今後、クリプトらしい仕組みでNFTの流動性の問題が解決することにも期待できるのではないでしょうか。
ディスクレーマー:なお、NFTと呼ばれる属性の内、発行種類や発行形式によって法令上の扱いが異なる場合がございます。詳しくはブロックチェーン・暗号資産分野にお詳しい弁護士などにご確認ください。
Fracton Ventures株式会社
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