NFTマーケットプレイスプロトコルZoraが抱く「ハイパーストラクチャー」という設計思想

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今回は、Web3.0とDAOをテーマに事業を行うFracton Ventures株式会社の守慎哉 氏から寄稿いただいたコラムをご紹介します。

目次

  1. NFTマーケットプレイスプロトコルZora
  2. ハイパーストラクチャー
  3. 美しいプロトコルを求めて
  4. まとめ

昨今のNFTが盛り上がりと共に、様々なNFTマーケットプレイスが乱立しています。マーケットプレイスが乱立する中、2022年1月にZora V3(以下、Zoraとします)というNFTマーケットプレイスプロトコルが立ち上がりました。また、Zoraのファウンダーのjacob氏が「ハイパーストラクチャー」と言う記事を公開し、Zoraは「ハイパーストラクチャー」であると謳っています。今回はNFTマーケットプレイスプロトコルZoraとそのZoraが実現している「ハイパーストラクチャー」という設計思想について扱います。

NFTマーケットプレイスプロトコルZora

ZoraはNFTマーケットプレイスプロトコルであり、ダウンすることなく、コンポーザブルかつイミュータブルで、誰でもアクセスができ、検閲耐性のあるプロトコルです。Zoraが生まれた背景として、これまでのNFTマーケットプレイスの多くは中央集権的なデータベースを使用してNFTの管理がされているということがあり、Zoraはこれを解決しようとして生まれました。Zoraは自らのことをマーケットプレイスやプラットフォームではなく、プロトコルであることを強調しており、NFTのためのインフラと機能することを目指します。


Zoraは様々な機能を提供しています。アーティストやクリエイター向けの機能としては「Auction House」や「Edition」などがあります。Auction Houseは、クリエイター・コミュニティ・プラットフォーム・DAOが独自のキュレーションされたNFTオークションハウスを誰でも作成・実行できるプロトコルであり、アーティストやコレクターは自分達のNFT作品やNFTコレクションに対してオークションを実施することができます。Editionはコーディングを必要とせずにNFTコレクションを簡単に作成できるインターフェイスです。Editionのユーザーは、作品をアップロードし、供給・定価・ロイヤルティなどのミントの際の詳細を設定し、トランザクションを完了すると、自分だけのNFTコレクションが出来上がります。

開発者向けの機能としては、「Zora API」や「Zora Development Kit(ZDK)」などがあります。Zora APIはEthereum上の全てのERC721 NFTのデータを含んでいるGraphQL APIです。このリソースによって、NFTプロジェクトはミント・トランスファー・セール情報などのERC721 NFTデータを容易に検索することが可能となります。GraphQLを知らない場合でも容易にZora APIにアクセスするためにZDKがあります。開発者がZoraを中心に構築するのを容易にするためのツールのハブとなるため、新しいNFTプロジェクトを立ち上げ、優れたインフラと接続する際にはZDKは大いに役立つことが期待できます。

このような機能を備えているZoraはしばしばShopifyやWordpress(オンラインストアやWebサイトを構築するための使いやすいツール)に例えられ、様々なNFT関連のサービスがZoraをベースに構築されてます。実際に、音楽NFTサービスのCatalogはZoraを使用して作られています。また、Doge NFTの販売やWarhol Foundation向けの販売などといったNFTドロップにも用いられています。

ハイパーストラクチャー

この記事の冒頭で「Zoraはハイパーストラクチャーである」という旨の記述をしましたが、「ハイパーストラクチャー」とは「メンテナンス、中断、仲介なしで、無料で永久に動き続けるクリプトプロトコル」のことを指します。ハイパーストラクチャーはインフラストラクチャーの新しい概念であり、ハイパーストラクチャーはブロックチェーンをベースのプロトコルであるため、ブロックチェーンはハイパーストラクチャーの実現に大きく貢献しています。

ハイパーストラクチャーは以下の7つの要素から構成されています。

  • Unstoppable(止まらない):プロトコルは誰にも止めることはできません。基礎となるブロックチェーンが存在する限り、動きます。
  • Free(無料):プロトコル全体の手数料は0%で、ガス代のみで動きます。
  • Valuable(価値がある):所有者がアクセス可能で売却可能な価値が発生します。
  • Expansive(拡張的):プロトコルの参加者へのインセンティブが組み込まれています。
  • Permissionless(許可不要):普遍的にアクセス可能で検閲耐性があります。開発者とユーザーは、プラットフォームから排除されることはありません。
  • Positive Sum(ポジティブ・サム):参加者が同じインフラを利用することで、Win-Winの環境を作り出します。
  • Credibly neutral(信憑性のある中立性):プロトコルはユーザを選びません。

これは、スマートコントラクトで実装されたアプリケーションだからと言って、必ずしもハイパーストラクチャーにならないことを意味します。

更に、ハイパーストラクチャーを構築する上で言及する価値があるポイントがあります。ハイパーストラクチャーはたった1つのためではなく、何百万ものインターフェイスに力を与えるために作られるべきです。また、プロトコルを作る際には、できる限り汎用的に作るべきあり、そうすることによって、より多くのプロジェクトがハイパーストラクチャーを利用することができ、更に料金を使用する際はエコシステムから搾取するのではなく、エコシステムを拡大させるために料金を使用することです。加えて、より多くの統合をするために、プロトコルファーストな設計が欠かせません。そして、ハイパーストラクチャーを構築することはソフトウェアというよりもハードウェアを作成することに似ているため設計に時間が長くなってしまうということが考えられます。

美しいプロトコルを求めて

なぜハイパーストラクチャーという考えの重要性について個人的な見解を述べたいと思います。Web3のプロトコルは「社会インフラ」「公共財(Public Goods)」としての側面があると言われています。ハイパーストラクチャーには社会インフラや公共財としてプロトコルを設計する上でのヒントが詰まっています。

公共財の定義としては非競合性かつ非排除性という性質を持った財を示しています。つまり、誰でも利用することができ、同時に複数人が利用可能である財のことであると言い換えることができます。公共財の例として、空気や無料道路などがあります。空気と無料道路のどちらの場合でも(メンテナンスが必要な場合はありますが)、理想的には人間の手が加わることなく存在し続けます。つまり、人間が人工的に作ったものが自然と馴染む形で存在し続けることによって、社会インフラが公共財となるのではないかと考えます(図書館や介護施設などは社会インフラとして重要な役割を果たしていますが、これらは排除性があるため公共財としては見なしません)。

先述の通り、Web3ではスマートコントラクトでプロトコルを実装するだけでは、そのプロトコルが公共財となるには不十分な状態であり、ハイパーストラクチャーはその不足している要素を補完している役割を果たします。

最後に、少し違った見方で公共財としてのプロトコルを捉えていきたいと思います、かなり主観的な見方になりますが、自然と調和する形で存在する公共財としてのプロトコルは何よりも「美しい」存在です。人間の手によって生み出された人工物が、人間の手を離れて世界と調和しながら、あらかじめ定めたルールとインセンティブに基づき、様々な人々やプロトコルに利用され続け、自然物のように振る舞うことに対して「美」や「ロマン」を見出してしまいます。この感覚は、人工物であるロボットが人間と共存する世界を夢見ることに似ていると感じます。この記事を読まれている読者の多くはビジネスや投資という観点でWeb3領域に注目をしており、NFTもその1つとして捉えているかと思います。もちろん、私もそのような観点から見ることがありますが、「美しさ」という観点でプロトコルを見ることもあり、このハイパーストラクチャーという概念はプロトコルを人工物としてではなく、自然物として実現するための要素であり、美しいプロトコルを再現性を持たせた形で開発することができる可能性を秘めています。ハイパーストラクチャーというコンセプトは我々がWeb3領域でプロトコルを構築する上での指針となりうるものとなるでしょう。そして、ZoraがNFTという領域においてそのコンセプトを実現させようとするユースケースの一例となることに期待しています。

まとめ

今回はNFTマーケットプレイスプロトコルZoraの概要とZoraが提唱する「ハイパーストラクチャー」という概念について扱いました。ハイパーストラクチャーという設計思想は、プロトコルが社会インフラ・公共財として機能するための糸口となるコンセプトとなります。このコンセプトを提唱しているZoraを注視することで、社会インフラ・公共財としてのプロトコルの解像度が上がるかもしれません。そして、最後に公共財として機能しているプロトコルは「美しい」ということを述べました。この美しさという言葉は抽象的であり、各人によって感じ方は異なりますが、Web3を新たな市場の一つや一過性のムーブメントと捉えている方々や何となくこの領域に足を踏み入れた方々は、プロトコルというものを芸術作品のように捉えるような視点を持つことで、クリプトという現象そのものに対して熱狂できる契機になるかもしれません。

【参照URL】Zora
【参照URL】Zora 🛠 Intro to the Zora Protocol
【参照URL】NFT Platform Zora Raises $50M in First Big Bet for Haun Ventures
【参照URL】Hyperstructures

ディスクレーマー:なお、NFTと呼ばれる属性の内、発行種類や発行形式によって法令上の扱いが異なる場合がございます。詳しくはブロックチェーン・暗号資産分野にお詳しい弁護士などにご確認ください。

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Fracton Ventures株式会社

当社では世の中をWeb3.0の世界に誘うことを目的に、Web3.0とDAOをテーマに事業を行っています。NFT×音楽の分野では、音楽分野のアーティスト、マネジメント、レーベルなどとNFTを活用した新しい体験を図るプロジェクトを行っています。