今回は、Web3.0とDAOをテーマに事業を行うFracton Ventures株式会社の伊山京助 氏から寄稿いただいたコラムをご紹介します。
目次
- GenomesDAOとは?
1-1. 個人
1-2. 組織
1-3. 研究者 - これまでの課題
- Geneticats NFTとは?
- まとめ
スマートコントラクトやトークンなどのブロックチェーンツールを活用することにより、これまで仲介業者が握っていた所有権を解放し、資金調達の方法を一新するというDecentralized Science(DeSci)の概念が普及しつつあります。現在はDeSciプロジェクトの多くがバイオテクノロジーに焦点を当てています。これはマネタイズポイントとなる製品化までの道のりの中で、いわゆる「死の谷」の影響が最も大きいからだと言われています。
今回はDeSciプロジェクトの一つであるGenomesDAOで活用されているDNAデータを個人で活用できるNFTプロジェクトについてご紹介します。
GenomesDAOとは?
GenomesDAO(以前はgenomes.io) は、2018年にDr Mark Hahnel氏とAldo de Pape氏が共同設立したロンドンにあるゲノムデータセキュリティ企業です。ゲノム研究の民主化・分散化を進めるため、最先端技術を組み合わせて世界初の分散型データブローカープラットフォームを開発しています。言いかえると、GenomesDAOはこれまでサードパーティが握っていたゲノム情報を個人が所有することができ、そこから得られる利益を個人が受け取ることができる仕組みを作っています。

GenomesDAOの詳細について、ステークホルダーである個人、組織、研究者の三者の視点に分けて説明させていただきます。
個人
ユーザーGenomesのモバイルアプリを使用し、DNA Vaultと呼ばれる暗号化された保存方法で第三者によるアクセスを制御することができ、また研究者にデータを提供することで報酬を得ることができます。これまでDNAデータはAWS、Google Cloud、Microsoft Azureなどに保存されていましたが、DNA VaultのSecure Encryption Virtualization (SEV)という技術を用いることによって、クラウド事業者からのアクセスを防ぐことができます。すべてのプロセスが暗号化されたメモリ上で実行され、ユーザーが提供したゲノムデータを秘密鍵で暗号化して保管することができます。これらは暗号化されたメモリーの外には決して保存されることはなく、ユーザーだけが利用できます。

DNA VaultにDNAデータが保存される過程であるシーケンシングについても細心の注意が払われています。ユーザーはシーケンシングプロバイダを自由に選択でき、シーケンシングプロバイダはどの時点で誰のサンプルをシーケンスしているのか知る事ができません。また、データをアップロード後にゲノムサンプルとデータが破棄されることからDNA VaultにあるDNAデータが唯一となり保護されます。ユーザーはGenomesのモバイルアプリから、常にDNAデータを管理することができ、シーケンシングプロバイダーからアップロードされたDNA データの受け入れや、データの解析の実行、ゲノムレポートの作成、また第三者によるゲノムのアクセス要求の承認などを実行することができます。
ここで、ブロックチェーン上にはDNAデータが管理されていることはなく、あくまでもトラクションの透明性を保つためにブロックチェーン技術が採用されています。通常100GB以上となるゲノムデータを保存するとなると、1GBあたり32,000ETHという高額なコストがかかってしまうため現実的ではないからです。

組織
希少疾患患者組織やヘルスケアプロバイダー等の組織は、DNA VaultのSecure Encryption Virtualization (SEV)技術を用いて個人にゲノムデータを提供することを可能にしています。上記で述べたように、唯一のDNAデータを個人が所有することができるように、透明性を担保することが求められています。
研究者
製薬会社、バイオテクノロジー企業、大学などに所属している研究者は、ゲノムのデータベースを照会できます。研究者はこれを利用して、病気の原因を理解し、新薬を開発することができます。これにより、個人のプライバシーや所有権を損なうことなく、ゲノムデータを研究者が利用でき、医療イノベーションを加速させることができます。

これまでの課題
例えば、FacebookやGoogleはサードパーティCookieを活用することでユーザーの行動を分析し、リターゲティング広告などに利用しています。これによってますます広告精度が高まり、より情報が中央集権化していきます。しかし、この事実はよく認知されているものの、過小評価してしまっている人も多いのではないかと思います。このような事実は、ゲノム情報についても同様のことが言えます。一部の民間企業がDNAデータベースを所有しており、数百万ドルで大手製薬会社にデータベースへのアクセスを販売しています。ユーザーはデータへの所有権とそこから得られる利益は享受していない事になります。
この状況を受け、データの安全性とプライバシーの問題が提起されています。特に、発展途上国ではゲノム配列の解読技術が進んでおらず、そのコストも高額になることから、主に白人や西洋人に搾取されています。ユーザーが自身でゲノムを保護し、金銭的インセンティブを得ることができ、データへのアクセスをコントロールできるようになることで、国籍や身分に関わらず富が分配されることをGenomesDAOは実現しようとしています。

Geneticats NFTとは?
GenomesDAOでは、Geneticats NFTが活用されています。猫になった理由として、Cryptokittiesが256ビットの数値でDNAを表現していたことに影響されたと公式から発表されています。Geneticats NFTをMintすることで、DNA vaultを利用するための12単語のシードフレーズが与えられ、Ether Cardsを通じて一度だけシーケンスキットを指定した住所で受け取ることができるようになります。また、特定のGeneticats NFTには、GENEやGNOMEトークンの償還などの機能もあります。Geneticat NFTを通じてシーケンスキットを受け取ることができるのは一度のみであるため、二次流通でのユーティリティは失われてしまいます。Geneticats NFTは二次流通として販売されることを前提に置いていないようです。
ユーザーは、受け取ったシーケンスキットで試料を採取し、返送した後、12~14週間以内に結果が通知されます。この結果は事前に何を知りたくてどの情報が不必要かを選択することができます。例えば欠陥のある遺伝子を両親のうち一人が持っていたとすると、25%の確率でその欠陥は子供に引き継がれてしまいます。このようなことを認識したくないという方は事前に知りたくないということを意思表明できます、自分のゲノムデータを確認した後、第三者や製薬会社がGENEトークンと引き換えに自分のゲノムの一部を照会することができ、安全かつ非公開のままデータを収益化する事ができるようになります。

まとめ
今回はGenomesDAOで活用されているGeneticats NFTについて解説させていただきました。Geneticats NFTをMintすることで、これまで中央集権的に搾取されていたDNAデータを個人が所有することができ、サードパーティに公開することで報酬を得ることができるようになります。これによって、個人が医学研究に能動的に貢献できるようになり、医学をより進歩させる大きなきっかけになると考えられます。DNAデータを活用したDeSciプロジェクトはいくつか散見されているため、今後も注目すべき領域でしょう。
【参照URL】GenomesDAO 公式サイト
【参照URL】GenomesDAO – Twitter
【参照URL】GENETICATS NFT | OpenSea
ディスクレーマー:なお、NFTと呼ばれる属性の内、発行種類や発行形式によって法令上の扱いが異なる場合がございます。詳しくはブロックチェーン・暗号資産分野にお詳しい弁護士などにご確認ください。

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