今回は、Web3特化型ファンド「Emoote」について、大手仮想通貨取引所トレーダーとしての勤務経験を持ち現在では仮想通貨コンテンツの提供事業を執り行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12)に解説していただきました。
目次
仮想通貨(暗号資産)やブロックチェーン技術が徐々に一般メディア等に登場する中、特に「Web3」という分野に注目が集まっています。Web3は次世代のインターネットとも呼ばれ、従来の中央集権的なインターネットとは異なり、ユーザーの情報などを分散的に管理できることが特徴的なものです。背後でブロックチェーン技術が用いられる点も特徴の一つです。
例えば分散型ゲームでは、ゲーム内で入手したアイテムをNFT(非代替性トークン)として、自分の資産として保有できます。NFTマーケットプレイスで販売することもでき、仮に開発企業が倒産してもゲーム内アイテムのデータを保持できます。NFTゲームにトークノミクスを組み合わせたP2E(Play to Earn)は、「Axie Infinity(アクシー・インフィニティ)」を筆頭に世界的にユーザーを集めています。
これらの例を見てみても、Web3を活用したプロジェクトは世界的にも次第に人気を集めており、今後の将来性が期待できると考えられます。そんな中、国内企業であるアカツキ株式会社が、シンガポールでWeb3に特化したファンド「Emoote(エムート)」を設立したことを、5月12日に発表しました。今回はWeb3特化ファンド「Emoote」について解説していきます。
①Emooteとは
Emooteは、株式会社アカツキによってシンガポールで2021年9月に設立された、25億円(2,000万米ドル)規模のWeb3領域特化ファンドです。これまでEmooteは、アジアを中心にエンターテイメント、メディア、ライフスタイル分野をWeb3テクノロジーで変革する20以上のプロジェクトに投資しています。Emooteの過去の投資実績としては、次のものが挙げられます。
- STEPN(ステップン):走って稼ぐランニングアプリ
- BreederDAO(ブリーダーDAO):GameFi NFTファクトリー
- highStreet(ハイストリート):MMORPGメタバース
- EthSign(イースサイン):Web3電子署名プラグイン
STEPNをはじめとして、これからの成長が期待できるアーリーステージのプロジェクトに幅広く投資を行っています。
特に、STEPNはSolanaプロックチェーン上に作られたアプリで、運動することで仮想通貨を手に入れられる「M2E(Move to Earn)」系のゲームとしてユーザーを集めています。STEPNは2022年の1月から3月の間で33億円以上の収益を挙げており、5月時点にデイリーアクティブユーザー数が50万人を越えています。まだベータ版であり、2022年の大きな成長が見込まれています。
BreederDAOは、新しいGameFiを発見し、組織力を活かしてNFTを育成したうえでそれぞれのゲームギルドにNFTを提供するサービスです。世界を代表するVCである、Andreessen Horowitz、Delphi Digitalが共同リード投資を行うなど、GameFiエコシステムを支える存在として台頭しています。
Emooteの投資ポリシー
Web3の重要なキーワードにである「インセンティブ・エコノミー」にあります。これは、ゲームして稼ぐ「Play-to-Earn」に代表されるように、貢献した人に報酬を支払うエコシステムを指します。
Emooteはインセンティブ・エコノミーに加えて、人々のモチベーションを刺激するプロジェクトにフォーカスしています。つまり、「好き」や「共感」といった「感情価値」を土台にしたNFT消費こそが、Play-to-Earnゲームを健全に成長させていくモチベーションになると考えています。
親会社であるアカツキは、「世界をエンターテインする。クリエイターと共振する。」をミッションに、「ゲームを軸としたIPプロデュースカンパニー」として事業を展開するエンターテインメント企業です。代表作の一つとして、スマ−トフォン向けゲーム「ドラゴンボールZ ドッカンバトル」の開発を手掛けています。
Emooteはアカツキのポリシーに則って、Web3においても「感情価値」を創出できる投資家、クリエイター集団となることを目指しています。そのような想いから、Emotionを大切にするWeb3特化ファンドとして「Emoote」と名付けられました。
②Emooteの注力分野
Emooteが今後注力する分野としては、次のものが挙げられます。
- Web2 × トークノミクス
- Web3 IPクリエイション
- NFT × デジタルファッション
それぞれについて、詳しく解説いたします。
Web2 × トークノミクス
Emooteは、Web2領域でも存在したエンターテイメイトやメディア、ライフスタイル分野のサービスやアプリに、トークンを掛け合わせる事業への投資を積極的に行う姿勢を示しています。
トークノミクスというのは、簡単にいうと「トークンが形成する経済圏」のことを指して言います。トークンと一言で言ってもさまざまな種類がありますが、トークノミクスを支えるのは次の3種類のトークンです。
- ステーブルコイン / ペイメントトークン:通貨的な役割をもつトークン。トークノミクスの中では価値交換の役割を果たします。
- ガバナンストークン:証券的な役割をもつトークン。トークノミクスの中では価値の分配や統治の役割を果たします。
- ノンファンジブルトークン:非代替性トークン。通貨などとは異なり、それぞれに固有の価値を持っていることが特徴。トークノミクスの中では価値使用の役割を果たします。
トークノミクスに関する詳細は、Emooteの共同創業者と代表取締役を務める熊谷裕二氏のnote記事をご覧ください。
Web3 IPクリエイション
IP(Intellectual Property)とは、知的財産の略語です。IPクリエイションは新しい知的財産の創出を指しており、人気を博すようなコンテンツを生み出すことを表しています。
EmooteではWeb3の登場によってIPの創出に変化が生まれ、従来の知的財産とは異なる形でのIP創出が行われていることに焦点を当てています。同ファンドは、プレスリリースでWeb3が主流になっていくとともに、NFTなどといったコンテンツに限らず、DAO(分散型組織)によるコンテンツ創作やメディアの展開が進んでいくと指摘しており、現にそのような流れに乗ったプロジェクトもすでに存在しています。
例えば、世界的に大きな人気を博す「Bored Ape Yacht Club(BAYC)」は2022年3月にアートやゲーム、エンタメ領域の発展をサポートする「Apecoin」をリリースしました。
NFT × デジタルファッション
Web3領域にかかわらず、ゲームが好きなユーザーはゲーム内で使用できるスキン(洋服やコスチュームなど)に魅力を感じることも多いでしょう。Emooteはゲームに限らず、SNSやメタバース内のファッションに着眼点をおき、現実のファッションを超えるような市場に成長することを見込んでいます。
③まとめ
Emooteは先にご紹介した「STEPN」への投資実績もあることから、国内のファンドとして今後注目されます。Web3領域は成長段階にあり、未成熟市場であることは否めません。しかし、同時にMeta社(旧Facebook)などの大企業らもメタバースといった分野に進出していることからも、Web3は今後の成長が期待できる分野であると考えられます。Emooteが今後国内でも投資や成長支援を行う中、Web3領域の成長にも注目してみてはいかがでしょうか。
中島 翔
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