花王は、生活に必要な洗剤、トイレタリー、化粧品などの大手メーカーで2021年度の売上高は1.4兆円です。生活に密着した製品を多く販売しており、Life Value Solution marketingを実践し、ESGの視点で商品・サービスを具現化しています。
今回は、花王のESG・サステナビリティの取り組み、ESG格付けなどを解説します。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※2022年12月25日時点の情報をもとに執筆しています。最新の情報は、ご自身でもご確認をお願い致します。
目次
- 花王のサステナビリティ
- 花王のESGへの取り組み
2-1.環境(E:Environment)
2-2.社会(S:Social)
2-3.ガバナンス(G:Governance) - 花王の ESG格付け
- まとめ
1 花王のサステナビリティ
同社のサステナビリティは「Kirei Lifestyle Plan」の実現です。Kirei Lifestyle は「快適な暮らしを自分らしく送るために」、「思いやりのある選択を社会のために」「よりすこやかな地球のために」の3つの柱で構成されています。これらを実現するためにESGに積極的に取り組んでいます。
2 花王のESGへの取り組み
同社は2040年カーボンゼロ、2050年カーボンネガティブ実現を掲げています。また、「2030年までに達成したい姿」=「グローバルで存在価値のある企業」を長期経営ビジョン「K30」として掲げ、ESGを経営の根幹に据えています。
K30の具体的目標は、持続的社会に欠かせない企業、高社会貢献&高収益グローバル企業、ステークホルダーの成長レベル還元の3つです。K30を見据えた中期計画「K25」では、ESGのEとして「ゼロ浪費・カーボンゼロ」、Sとして「唯一無二のパーソナライズ」、Gとして「協業者と正道を歩む」を掲げています。
さらに、19の重点的に取り組むテーマを挙げ、それぞれについて中長期目標を設定しています。19の中長期目標と2021年の実績を見てきましょう。
2-1 環境(E:Environment)
同社は、「すこやかな地球のために」をテーマに取り組んでいます。中長期目標(2025年、2030年)と2021年度の実績を見ていきましょう。
脱炭素
・ライフサイクルCO2排出量を2030年までに2017年比22%削減、スコープ1+2*の排出量を2017年比55%削減
2021年度実績:ライフサイクルCO2を4%、スコープ1+2を20%削減
*スコープ1:企業・組織が自ら排出する温室効果ガス排出量
*スコープ2:購入した電力・熱等の間接的な温室効果ガス排出量
・使用電力における再生可能電力比率を2030年度までに100%
2021年度実績:38%(2020年度は28%)
ごみゼロ
・PET容器への再生プラスチック使用率を2025年度までに日本で100%
2021年度実績:19%
・製品廃棄物・販促物廃棄物の削減率を2030年度までに2020年度対比95%削減
2021年度実績:14%削減(進捗率14.7%)
水保全
・ライフサイクル水使用量削減率を2030年度までに2017年度対比10%削減
2021年度実績:5%増
大気及び水質汚染防止
・VOC(揮発性有機化合物)、COD(化学的酸素要求量)排出量を開示する工場比率を2025年度までに100%を目指す
2021年度実績:VOC65%、COD100%
2-2 社会(S:Social)
「快適な暮らしを自分らしく送るために」と「思いやりのある選択を社会のために」をテーマに取り組んでいます。中長期目標(2025年、2030年)と2021年度の実績を見ていきましょう。
「快適な暮らしを自分らしく送るために」
①QOL(Quality of Life=生活の質)の向上
・快適で、すこやかな暮らしに貢献し、こころに響くQOLに貢献する製品数を2030年度までに70億個生産する
2021年度実績:45億個(進捗率64.2%)
②清潔で美しくすこやかな習慣
・花王の製品やサービスを使い、清潔で美しくすこやかな習慣を身に着けるために実施した啓蒙活動で到達した累積人数を2030年度までに2016年からの累計で1億人を目指す
2021年度実績:0.45億人(進捗率45%)
③ユニバーサルプロダクトデザイン
・ユニバーサルデザインガイドラインに適合する新製品、改良品の比率を2030年度までに100%を目指す
2021年度実績:98%
④より安全でより健康な製品
・設定した懸念成分を対象に、花王の考え方を開示した比率を2030年度までに100%を目指す
2021年度実績:56%
「思いやりのある選択を社会のために」
⑤サステナブルなライフスタイルの推進
・環境に配慮した生活スタイルを啓蒙し、2030年度で1億人を目指す
2021年度実績:310万人(進捗率3.1%)
⑥パーパスドリブンなブランド
・社会課題に対応し、生活者の暮らしや社会で共感を得られる存在意識のあるブランド比率を2030年に100%(2023年開示予定)
⑦暮らしを買えるイノベーション
・ライフスタイルにポジティブなインパクトを与える製品の提供と実現10件以上を2030年度までに目指す
2021年度4件(進捗率40%)
⑧責任ある原料調達
・家庭用製品に使用した認証紙製品・パルプの比率を2025年度までに100%を目指す
2021年度96%
2-3 ガバナンス(G:Governance)
同社は「正道を歩む」を掲げ、ガバナンスに取り組んでいます。特に重要なコンプライアンス違反は毎年ゼロを目指しており、過去3年においてはゼロ件を達成しています。
①実効性のあるコーポレートガバナンス
・コンプライアンス違反件数毎年ゼロ
2021年度ゼロ件
②徹底した透明性
成分情報が簡単に入手できる製品比率を2030年度までに100%を目指す
2021年度12%
③人権の尊重
・人権デュー・ディリジェンス対応実績率(社内、サプライヤー、委託先)を2030年度までに100%を目指す
2021年度は社内が100%、サプライヤーが60%、委託先は3%
④受容性と多様性のある職場
・女性管理職比率を2030年度までに全社員女性比率と同じにする
2021年度は30.2%(全社員女性比率50.5%)
⑤社員の健康増進と安全
・2030年度までに休業災害度数率(100万時間あたり)0.1、平均長期休業日数(日÷人)を105日、長期休業者率1.2%を目指す
2021年度は休業災害度数率0.65、平均長期休業日数197日、長期休業者率0.65
⑥人材開発
・社員エンゲージメント調査における挑戦を推奨する組織風土に関する設問の回答率を2030年までに75%を目指す(2022年度より実施予定)
⑦責任ある化学物質管理
・2030年度までに、安心して使い続けられる製品・原料の有用性と安全性情報の公開率100%を目指す。
2021年度公開率が14%
・事業拠点での原材料調達から廃棄までを考慮し、健康・環境・安全への影響を管理できた比率100%を目指す
2021年度は96%
3 花王のESG格付け
ESGの評価会社としては、MSCIやブルームバーグL.P.、日本経済新聞社(日経NEEDS)、東洋経済新報社などが挙げられます。MSCI格付けは、最も評価が高いAAAから最も低いCCCを付与しています。ブルームバーグESGスコアは、環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)などの項目で数値が高いほど良いとされています。
花王のESG格付けはAAで、ブルームバーグでは、環境スコアが2.85、社会スコアが3.15、ガバナンススコアは6.51です。各スコアは全て同業種の平均以上で、ガバナンスに関しては上位という評価を得ています。
まとめ
花王のESG格付けは、AAで、ブルームバーグの各スコアは全て同業種の平均以上で、特にガバナンスに関しては上位という高い評価を得ています。
ESG戦略の中長目標として19の重点目標に取り組んでいます。環境啓蒙活動や、製品・原料の有用性と安全性情報の公開率の進捗率が低い一方で、すでに進捗率90%以上を達成した目標もあります。目標の2030年まであと7年、今後の花王の取り組みが注目されます。
藤井 理
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。
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