2019年1月30日、31日、パシフィコ横浜で「Japan Blockchain Conference」が開催されました。Japan Blockchain Conferenceは、ブロックチェーン業界のキーパーソンによるセミナーや講演会、国内外の有力企業・団体による展示ゾーンで構成される国内最大級のブロックチェーンカンファレンスです。
今回も仮想通貨取引所はもちろん、国内外のブロックチェーンプロジェクトが勢揃いしたセミナーは、これからブロックチェーン業界を盛り上げていく熱気に包まれたものでした。HEDGE GUIDE編集部では、1月30日、31日の両日に参加し、セミナーに参加してきました。その中でも特に印象に残ったセミナーについてご紹介していきます。
日本IBM:ブロックチェーンの本格活用事例
IBMはブロックチェーンに注力する大企業の一社です。IBMは2018年8月、ブロックチェーン出願数が89件でランキング2位となっていることがIPA DAILYによって報じられました。そんなIBMが今回のセミナーで紹介したのは、ブロックチェーンが2018年の中盤から本格的に商用化され始めているという事例でした。
今回、ブロックチェーン商用化が始まっているユースケースとして紹介されたものは、①国際貿易、②食の安全、③貿易金融、の3つです。
国際貿易の領域では、アボガド1個を輸送するのに30の企業、100人以上のスタッフ、200件以上の紙ベースでの書類のやりとりが必要で、非効率なコミュニケーションが常態化しているとのことでした。ブロックチェーンを導入した貿易のデジタルプラットフォームを創ることで、今や1日100万件、累計3億件の処理を行えるようになっているそうです。
食の安全という観点では、IBMはウォルマートと清華大学と協同して、食品の信頼性と透明性を担保する「IBM Food Trust」を紹介していました。ブロックチェーンが世界の食品サプライチェーンをより安全で効率的かつ持続可能なものにすることで、従来6日以上かかっていた情報の追跡が2.2秒で済むようになったとのことです。
貿易金融においては、中小企業向けにクロスボーダー取引を簡素化するビジネスプラットフォーム「we.trade」の紹介もしており、ブロックチェーン企業として名を馳せるIBMの本気度がうかがえる講演内容でした。
LINE:トークンエコノミーがもたらす新たなユーザー体験
LINEは皆さんがご存知のメッセージングアプリです。そのLINEも、スマホを通じてより多くのユーザーにさまざまなサービスを身近なものにするという考えのもと、最近ではLINE Payなどの金融領域へのサービス展開を始めています。
今回の講演では、LINEの既に金融領域で取り組みに触れる中で、伝統的な金融にとどまらない「新しい金融」としてLINE Token Economyについて説明をしていました。
LINE Token Economyは、ブロックチェーンを利用してLINEが今まで作ったプロダクトをトークンエコノミー内に取り込むという、壮大なプロジェクトです。インターネット時代にはフリーミアムによってユーザーがコンテンツを消費するだけでしたが、ブロックチェーン誕生後の時代ではユーザーがコンテンツプロバイダーと協働してコンテンツを創り上げていく、という考えの下、プラットフォームが構築され、さまざまなアプリケーションがローンチ済みとのことです。
日本国内ではトークンに関する規制が厳しいため、LINEの描くトークンエコノミーが完全に反映はされていないものの、海外では着実にプロジェクトが進行し始めているということで、トークンエコノミーの事例として行く末が気になるところです。2019年にもさらに複数のアプリケーションがLINE Token Economy上に構築予定とのことです。
ジェトロ:世界のブロックチェーン動向とジェトロのサービス
ジェトロ(日本貿易振興機構)は貿易・投資促進と開発途上国研究を通じ、日本の経済・社会の発展に貢献することを目指しています。海外54か国の拠点からなるネットワークを活用し、対日投資の促進や企業の海外展開支援に取り組み、国や企業に対して通商政策の提案を行っています。
ジェトロでは、年率で8%成長しさまざまな業界から期待されているブロックチェーンを組み込むことで、さらなる企業支援に取り組みたいと考えているとのことでした。講演では、この取り組みとして、世界で戦い勝てるスタートアップ企業の育成プログラム「J-Startup」やイノベーティブな製品などを有するスタートアップの海外展開を支援する「ジェトロ・イノベーション・プログラム」、世界各地のスタートアップ先進地域への現地進出支援やマッチング「ジェトロ・グローバル・アクセラレーション・ハブ」といった事例を紹介していました。
楽天:研究から見出すブロックチェーンのユースケース
楽天からは、執行役員の開発統括管理部部長である久田直次郎氏が登壇し、同社が買収したビットコインのデジタル決済プラットフォームBitnet買収後の同社の取り組みについて講演をしました。
久田氏は、ブロックチェーンを利用したサービス開発の説明の中で、現状ではブロックチェーンである必要性の理解をなかなか得ることができない現状を紹介していました。楽天のブロックチェーン開発においては、オンチェーンとオフチェーンのどちらを採用するかが議論となっており、どちらのケースであっても既存のデータベースやオープンソースであるHyperledger Fablicなどを用途によって使い分けて開発を進めていくとのことでした。
楽天が2016年、英国で開設した楽天ブロックチェーン・ラボでは、楽天が開発するブロックチェーンプラットフォームを楽天の既存サービスに利用できる方法を模索しているとのことでした。その中で、既にプロジェクトが展開中の4つのユースケース(二酸化炭素排出を可視化し取引する「Rakuten Energy Trading System(REts)」、日頃の感謝の気持ちとしてコインを送付する「R-Star」、AIとブロックチェーンを利用したドキュメント管理、楽天が買収した仮想通貨取引所「みんなのビットコイン」)を挙げていました。また、楽天ポイントとブロックチェーンを組み合わせた独自の仮想通貨「楽天コイン」の発行の構想についても触れられていました。
DMM Bitcoin:DMM Bitcoin代表の田口氏が考える仮想通貨
DMM Bitcoinからは代表の田口仁氏が登壇し、仮想通貨がもたらしたものとジレンマについて講演を行いました。
同氏によると、仮想通貨は通貨発行権をもつ国や中央銀行に挑戦するとともに、膨大な個人情報をもつアリババやGoogleなどのテック企業への挑戦も行っていると説明しました。その一方で、仮想通貨がもつジレンマについても、仮想通貨の資産価値の裏付けとなるアンカーの危うさ、オープンソースであることの弊害、完全な民主的思想の達成の困難さ、という観点で手放しに評価できるものではないというスタンスのようでした。
法定通貨は納税ができること(徴税力)が価値の裏付けとなっているケースが多く、近年納税をビットコインでできるという法律が報じられることもありますが、まだまだ仮想通貨は法定通貨のような存在になるには前途多難であることがうかがえる講演内容でした。
編集後記
第2回目となるJapan Blockchain Conferenceですが、仮想通貨市場の低迷もあってか、第1回目と比べると仮想通貨・ブロックチェーンの未来や可能性にフォーカスが当たる内容・雰囲気を感じるカンファレンスでした。2019年に求められるのは規制や規制に準拠したユースケース。仮想通貨の投資家にとっては明るいトピックが少ない2019年ですが、ブロックチェーンの未来を信じて開発に取り組むプロジェクトを肌で感じてみると、あらためて仮想通貨やブロックチェーンが面白い領域であるということを確信できました。ぜひ読者の皆さんにもその雰囲気が伝われば幸いです。
HEDGE GUIDE 編集部 Web3・ブロックチェーンチーム
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