「グッチ」擁するケリングが世界初の環境損益計算書を公表。サステナブルな取り組みやファンド紹介も

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ケリング(ティッカーシンボル・KER)は、「グッチ」、「サンローラン」、「ボッテガヴェネタ」、「バレンシアガ」など多数のブランドを抱える高級ブランド企業です。同社はラグジュアリー業界において、サステナビリティをリードとしてきた企業としても知られています。

今回は、ケリングのサステナブルな取り組みや業績・株価動向、組み入れファンドなどを紹介します。

※本記事は2023年3月28日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。

目次

  1. 3大コングロマリットの一角
  2. ケリングのサステナブルな取り組み
    2-1.独自の環境損益計算書
    2-2.多様性への配慮とサステナブルファッション
  3. ケリングのESG評価
  4. ケリングの業績と株価動向
  5. ケリング株が組み込まれたファンドは?
  6. まとめ

1.3大コングロマリットの一角

1963年に創業したケリングは、数々の有力ブランドを買収して傘下に収めたのち、2018年にはラグジュアリー事業に専念する経営判断を下しました。2023年現在、欧州を代表する高級ブランド企業に成長しました。

売上高は176億ユーロ(約2兆5,000億円)で、従業員を4万2,800名抱えます。ファッション業界において、LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン(MC)、フィナンシエール・リシュモン(CFR)と並ぶ「3大コングロマリット(複合企業)」として位置づけられています。複数の有力ブランドを擁することで、原材料の購買、ブランドの流通面で規模の経済を得られるほか、グループ全体で収益の安定化を図ることもできるでしょう。

世界最大のブランディング専門会社インターブランドが公表したグローバル・ブランド価値評価ランキングトップ100(ベスト・グローバル・ブランド2022)において、ラグジュアリーブランドとしては、ルイヴィトン、シャネル、エルメスなどと共にランキング入りしました。世界トップクラスのブランド価値を有するグループと言えます。

2.ケリングのサステナブルな取り組み

ケリングはサステナビリティ領域でも先進的な取り組みを実践して業界をリードします。

自然資本(#1)分野における世界共通基準の策定を進める「自然資本連合(NCC)」に参画し、自然資本会計や自然資本プロトコルの導入を推進しています。50年カーボンゼロ達成などを目指すファッションおよび繊維業界の多国籍企業連合「ファッション協定」も主導し、世界各国の200ブランド超が賛同・署名しています(ファッション業界は流通高ベースで30%の企業が賛同・署名)。2015年には世界で初めて環境負荷を貨幣換算した「環境損益計算書(EP&L)」を公表しました。

(#1)自然資本…生物多様性に加え、水、土壌、大気など、国民の生活や企業経営を支える重要な資本。

それでは、以下にてケリングのサステナブルな取り組みを見ていきましょう。

2-1.独自の環境損益計算書

まず、ケリングは2017年から2025年までのサステナビリティ・ロードマップを公表しています。同ロードマップでは、ケア(配慮)、コラボレート(協業)、クリエイト(創造)という3つの柱で構成されてり、よりサステナブルで責任あるラグジュアリーを追求しています。3つの柱それぞれの具体的な目標や取り組み(一部抜粋)は以下の通りです。

ケア(配慮) 環境負荷の低減、地球環境および天然資源の保全

  1. GHG(温室効果ガス)プロトコル(#2)のスコープ1から3(#3)までにおいて、2025年までに炭素排出量を50%削減
  2. 2025年までに、ケリングの全サプライヤーが環境スチュワードシップ、トレーサビリティ、アニマルウェルフェア(動物福祉)、化学製品の使用、および労働条件の項目においてグループが設定した基準を達成
  3. 生物多様性の保全、再生

(#2)GHGプロトコル…企業のGHG排出量の算定や報告の方法を示す。

(#3)スコープ1…事業者みずからによるGHGの直接排出。スコープ2…他社から供給された電気や熱などを使用して発生する間接排出。スコープ3…事業者の活動に関連する取引先の排出。

ケリングが公表した独自の「環境損益計算書(EP&L)」は、サプライチェーン全体にわたる「二酸化炭素(CO2)排出量」、「水使用量」、「大気汚染」、「水質汚染」、「土地利用」、「廃棄物量」という6つの項目の環境負荷を測定して貨幣価値化したものです。サステナビリティ戦略の柱の1つ、ケアの環境負荷の低減に向けた取り組みの一環として、2025年までに売上高に占める環境負荷の割合を40%削減する目標を掲げています。以下が、2021年のティア(階層)別の環境損益計算書になります。

こちらが、ケリングの環境損益計算書(2021年)です。
環境損益計算書
※画像は「ENVIRONMENTALPROFIT & LOSS (EP&L)」を基に筆者作成

このEP&Lから、ケリングのサプライチェーン全体の環境費用は5億6,200万ユーロになります。その内、ティア1(1次サプライヤーの組立)からティア4(4次サプライヤーとして原材料の生産)のサプライチェーン上で約80%の環境負荷が生じしていることが分かります。そのため、ケリングが環境負荷の低減を進めるうえで、サプライチェーン上での取り組みが求められていると言えます。

この結果を踏まえ、ケリングはグループのブランドとサプライヤーを対象に、環境および社会性に関する先進的な必須要件を規定した「ケリング・スタンダード」を策定しました。さらに、責任ある原材料の調達、製造現場のプロセス改善、グリーン電力の活用などサステナブルな取り組みを推進し、2015年から2021年の間に売上高に占める環境負荷の割合を41%削減し、4年前倒しで目標を達成しています。

また、ケリングは消費者やデザイナー向けに環境負荷計測アプリ「My Ep&L」を独自開発しました。このアプリを利用することで、シューズ、コート、リング、ハンドバッグという4つの代表的なラグジュアリー製品の環境負荷を容易に知ることができます。

ケリングの環境負荷計測アプリ「My Ep&L」は日本語にも対応しています。
ケリングの環境負荷計測アプリケリングの環境負荷計測アプリ
ケリングの環境負荷計測アプリ
※画像はGoogleプレイ「My EP&L – Apps on Google Play」より引用

生物多様性の分野では、REDD+プロジェクト(#4)を通じて、先駆的なオフセットプログラムを実施しています。2019年には、民間企業初となる、生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)との提携および寄付を発表しました。

最近の取り組みとしては、2022年12月、女性のエンパワーメントに焦点を当てた自然の保護・回復を図るファンド「Climate Fund for Nature」を設立すると発表しています。仏化粧品大手ロクシタン・インターナショナル(銘柄コード:000793)が最初のパートナー企業となります。

(#4)REDD+プロジェクト…森林減少・劣化の抑制に加え、森林保全、持続可能な森林経営および森林炭素蓄積の増加に関する取り組み。

2-2.多様性への配慮とサステナブルファッション

ここからは、2025年までのサステナビリティ・ロードマップの柱の残り2つ、コラボレートとクリエイトの取り組みを見ていきます。

コラボレート(協業) ステークホルダー・エンゲージメントの強化

  1. 多様性、平等、女性の活躍支援の推進
  2. ケリングの豊かな遺産(伝統)を守る
  3. 選ばれる企業を目指す

たとえば、「リーダーシップ・ジェンダー・ダイバーシティ」プログラムを通じて、女性が重要な管理職に就く機会を促進し、平等であることが当たり前になることを目指しています。ケリングでは、全従業の63%、管理職の56%、エグゼクティブ・コミッティーの33%、取締役会(従業員代表取締役を除く)の45%を女性が占めています。これは、フランスの代表的な株価指数であるCAC 40構成企業の中で最も高い水準になります。

ケリングは唯一、ラグジュアリー企業の中からブルームバーグが開発した「男女平等指数(GEI)」に選出されました。リフィニティブのダイバーシティ・インクルージョン指数では、国際展開する企業11,000社中9位にランクキングされました。これは、フランス企業として最高順位になります。

また、ケリングは永続的に伝統ノウハウを受け継いでいくべく、職人技や伝統を学ぶプログラムを提供しています。グッチの「アルタ・スクオーラ・ディ・ペレッテリア」などが好例です。ベストプラクティスを共有するサプライヤー向けトレーニング・プラットフォームも開設したほか、フランスの権威あるデザイナー賞として知られる「アンダム・ファッション・アワード」の公式パートナーも務めています。

さらに、友人紹介制度、子どもが生まれた全社員に14週間のベビー・ケア休暇制度、社内公募制度などを通じ、ラグジュアリー業界における模範的企業になることを目指しています。

多様性を推進するケリング
※画像はケリング「A place for every talent」より引用

クリエイト(創造) 革新的な代替ソリューションの創出、知見のオープンソース化

  1. 破壊的イノベーションの模索
  2. 次世代の育成

クリエイトの分野では、サステナブルファッション(#5)に向けた取り組みの一環として、2013年にマテリアル・イノベーション・ラボ(MIL)を設立しました。MILは原材料および生地において持続可能な代替素材の研究、提案を行います。

(#5)サステナブルファッション…各商品の生産から着用、廃棄に至るプロセスにおいて将来にわたり持続可能であることを目指し、生態系を含む地球環境や関わる人・社会に配慮した取り組み。

2020年にはキノコの菌由来の素材「マイロ」を活用した牛革の代替素材の商用化に向けて、アディダスやルルレモンなどとコンソーシアムを形成しました。また、2022年秋のコレクションから全ブランドの商品で動物の毛皮の使用をやめることも発表しています。

環境やアニマルウェルフェアに関連したこれらの取り組みは、環境意識の高いY世代(80~90年代半ば生まれ)へ「エシカル消費」を訴求していくことができると考えられます。

さらに、2018年にはロンドン・カレッジ・オブ・ファッションと共同で、ファッションとサステナビリティを推進するためのオンラインコース「MOOC」を開設しました。

3.ケリングのESG評価

ここからはケリングのESG(環境・社会・ガバナンス)評価を見ていきます。サステナビリティの分野で先進的な取り組みを推進する同社は、様々な外部機関より高いESG評価を獲得しています。

まず、投資家に最も多く利用されているESGスコアのひとつ「MSCI ESG Rating」では、2021年8月より最上位のAAAを獲得しています。これはMSCI ACWIインデックスのテキスタイル・アパレル・ラグジュアリーグッズ業界に属する27社のなかで上位19%に入るリーダー企業として位置づけられます。原材料の調達、化学物質の安全性、製品カーボンフットプリントで高い評価を得ています。

また、環境分野で世界的に権威のある英NGOのCDPより、2022年に「気候変動」部門で最高評価のAリスト入りしました。同部門でAスコアを獲得したのは、CDPがスコアリングした約15,000社のうち283社です。また、2年連続でのリスト入りはラグジュアリー業界でケリングのみとなります。

その他にも、世界的に著名なESG投資指数である「ダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・インデックス(DJSI)」の「ワールド&ヨーロッパ」に10年連続で選出され、「テキスタイル・アパレル・ラグジュアリーグッズ」部門の業界リーダーとして認識されています。自然への取り組みについても、「自然ベンチマーク」でトップスコアを獲得しました。同ベンチマークは8産業の約400社を採点しました。

このように、サステナビリティ分野で高い評価を得るケリングは、中長期的にESGマネーの獲得を期待できるでしょう。

4.ケリングの業績と株価動向

ここからはケリングの業績や株価動向を見ています。

過去10年間(2012年と2021年)の業績を比較すると、売上高は97億ユーロから176億ユーロへと81%増加しています。1株あたり利益(EPS)は8.32ユーロから25.49ユーロへ3倍の大幅な伸びを示しました。

5年平均の粗利率、営業利益率、株主資本利益率(ROE)はそれぞれ72%、26%、25%と高い収益性を誇ります。配当と自社株買いを合わせた総還元利回り(5年平均)は2.1%、配当性向は43%になります。

業績
※画像はケリング「KERING_DF_2021_PRODUCTION_US、Résultats financiers 2010」を基に筆者作成

ケリングの株価動向に目を転じると、1月23日までの直近10年間で株価は3.6倍に上昇しています。フランスの代表的な株価指数であるCAC40は同期間に86%高と、ケリングが大きくアウトパフォームしています。

また、ケリングの株価収益率(PER)は17.97倍と、CAC40の構成銘柄平均と大差ありません。なお、ケリングは欧州を代表する株価指数である「ユーロ・ストックス50」を構成する優良銘柄のひとつでもあります。

5.ケリングを組み入れるファンドは?

ケリングが組み入れられている投資信託としては、まず、ピクテ・ジャパンの「ピクテ・プレミアム・ブランド・ファンド(3ヵ月決算型)」が挙げられます。ピクテはテーマ型の株式アクティブファンドの運用残高で世界トップクラスの実績があります。

同ファンドの特徴として、主に世界のプレミアム・ブランド企業の株式に投資します。また、3ヵ月に1回決算を行い、収益分配方針に基づき分配金を出します。

1年、3年、5年、10年のトータルリターンは何れも、モーニングスターの同一カテゴリー(国際株式・グローバル・含む日本)を上回る運用成績を上げています。2006年6月の設定来では+264%のパフォーマンスです。コスト(信託報酬率)はフィーレベル・カテゴリー(先進国株式・アクティブ)において安い水準となります。

他の組み入れ銘柄としては、米クレジットカードのアメリカン・エキスプレス(AXP)、米ホテルのマリオット・インターナショナル(MAR)、伊高級スポーツカーのフェラーリ(RACE)などが組み入れ銘柄上位に含まれています。同ファンドは、モーニングスターの「ファンド オブ ザ イヤー 2021」の国際株式(グローバル・含む日本)型部門で優秀ファンド賞を受賞しました。

販売会社はSBI証券、楽天証券、マネックス証券、三菱UFJ銀行などです。たとえば楽天証券であれば、「ピクテ・プレミアム・ブランド・ファンド(3ヵ月決算型)」は積立、100円投資、NISA(ニーサ)に対応しています。また、楽天キャッシュ決済の場合0.5%ポイント、クレカ決済の場合1%ポイントが還元され、少額・積立投資を実践できます。

また、三菱UFJ国際投信の「ベイリー・ギフォード世界長期成長株ファンド(愛称:ロイヤル・マイル)」にもケリングが組み込まれています。同ファンドを実質的に運用するベイリー・ギフォード社は、スコットランド・エディンバラで100年以上にわたり長期投資という運用哲学を貫いてきた老舗の資産運用会社です。

ベイリー・ギフォード社は、成長株投資を得意とすることでも知られています。ファンドの特色として、長期の視点で成長が期待される世界各国の株式などに投資します。他の組み入れ銘柄としては、米半導体大手エヌビディア(NVDA)、米製薬大手モデルナ(MRNA)、米手術ロボットのインテュイティブ・サージカル(ISRG)などが組入上位10銘柄に含まれています。

3年間のトータルリターンは、モーニングスターの同一カテゴリー(国際株式・グローバル・除く日本)をやや下回っています。1年間ではカテゴリー平均を大きく下回り、足元では苦戦を強いられているものの、長期投資を貫いてきたベイリー・ギフォード社による企業の選別眼に期待できるでしょう。

2019年1月の設定来のパフォーマンスは+53.4%になります。コスト(信託報酬率)はフィーレベル・カテゴリー(先進国株式・アクティブ)において平均より安い水準です。同ファンドは、モーニングスターの「ファンド オブ ザ イヤー 2020」の国際株式型(グローバル)部門で最優秀ファンド賞を受賞しました。販売会社はSBI証券、楽天証券、auカブコム証券、PayPay銀行、イオン銀行などです。

6.まとめ

ケリングは環境負荷の低減やダイバーシティ・インクルージョンの推進、次世代人材の育成などを通じてサステナブルな取り組みを強化しています。また、過去10年間で業績を拡大すると共に株主価値も向上させています。同社がサステナブルな企業価値を創造し続けていくことに今後も期待できるでしょう。

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フォルトゥナ

日系・外資系証券会社に15年ほど勤務。リサーチ部門で国内外の投資家様向けに株式レポートを執筆。株式の専門家としてテレビ出演歴あり。現在はフリーランスとして独立し、金融経済やESG・サステナビリティ分野などの記事執筆、翻訳、および資産運用コンサルに従事。企業型DC導入およびiDeco加入者向けプレゼンテーション経験もあり。
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