環境保全と雇用創出を結ぶグリーンジョブとは何か?

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一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12))に解説していただきました。

目次

  1. グリーンジョブとは
    1-1.グリーンジョブの概要
    1-2.グリーンジョブの歴史
    1-3.グリーンジョブが注目される背景
  2. グリーンジョブの特徴
    2-1.多様な職業
    2-2.グリーンスキルとの関係
  3. 日本のグリーンジョブの動向
    3-1.カーボンニュートラルについての理解および影響
    3-2.カーボンニュートラルへの取り組み
    3-3.カーボンニュートラルに向けた体制・予算・情報
  4. グリーンジョブの課題
    4-1.人材の不足
    4-2.企業規模での差
  5. まとめ

人々の環境への意識がますます高まっていること、また新型コロナウイルス感染症のパンデミックなどを受けて、エコフレンドリーな職種を意味する「グリーンジョブ」にも大きな関心が集まっています。

実際、近年は「SDGs(持続可能な開発目標)」などが我々の生活にも広く浸透していることから、若い世代を中心としてグリーンジョブを選ぶ人が増えているということです。

そこで今回は、今話題のグリーンジョブについて、その概要や特徴、また日本におけるグリーンジョブの動向などを詳しく解説していきます。

①グリーンジョブとは

1-1.グリーンジョブの概要

グリーンジョブとは「環境に対する影響を持続可能な水準まで減じる経済的に存立可能な雇用」と定義されています。この概念は2007年に「国際労働機関(ILO)」によって提唱されたもので、環境に有益な商品やサービスの提供、また企業において環境に配慮したサスティナブルな生産プロセスに貢献できる仕事をあらわすワードとなっています。

「国際労働機関(ILO)」とは労働条件の改善を通して、社会正義を基礎とする世界の恒久平和の確立に寄与すること、また完全雇用、社会対話、社会保障等の推進を目的とする国際機関となっています。また、国際機関として唯一の政、労、使の三者構成機関としても知られています。

ILOはグリーンジョブについて、下記の項目に貢献する仕事であるということを明記しています。

  • エネルギー効率と材料効率の改善
  • 温室効果ガス排出の制限
  • 廃棄物や汚染の最小限化
  • 生態系の保護および復元
  • 気候変動の影響へ適応するための支援

このように、グリーンジョブは「環境」の視点から、既存事業の転換を行ったり、新規事業を創出したりすることによって、環境保全と雇用創出の両面において効果があると期待されています。

1-2.グリーンジョブの歴史

前述した通り、グリーンジョブは2007年にILOによって提唱されたのが最初で、その後は2020年に新型コロナウイルス感染症が蔓延し、大きなダメージを負ったことを受けて、「国際連合環境計画(UNEP)」が世界の立て直しにはグリーンジョブの創出が有効であると発表し、サスティナブルな社会の実現に当たって世界的にますます重要なテーマとなっています。

グリーンジョブは元々、公害対策などをはじめとする環境産業が主となっており、気候変動対策に具体的に取り組む適応および緩和ビジネス(再生可能エネルギー、省エネルギー、自然災害対策)などが広く展開されていました。しかし、ここ数年では企業のサステナビリティ経営を推進する社内専門職あるいは外部支援者としてのコンサルティング職などもグリーンジョブの一つとして注目を集めるなど、その職種も多様化しています。また、金融や不動産などのセクターにおいても新たな仕事が次々と生まれているほか、これまでの常識を覆すような、グリーンジョブに関わるテクノロジーも開発されており、年々発展を続けています。

1-3.グリーンジョブが注目される背景

前述した通り、グリーンジョブは2007年から提唱されているため決して新しい概念ではありませんが、近年特に大きな関心を集めています。その理由としては、先ほども少し挙げた新型コロナウイルス感染症の蔓延によって雇用の確保が難しくなったこと、また環境に対する人々の意識が高まったことなどが考えられます。新型コロナウイルス感染症が勃発したことによって、多くの企業が新卒採用を取りやめたり、飲食店の営業が難しいことからアルバイトの勤務を減らしたりといった事態が多く報告されていました。

厚生労働省によると、2019年~2020年の労働力の概況から、2020年4月に感染拡大防止のために緊急事態宣言が発出され、経済活動が制限されたことなどの影響によって、就業者数、雇用者数が108万人減少したということです。このように、予期せぬ新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、日本だけでなく世界中でも深刻な雇用問題が発生することとなり、この問題を解決するための糸口として、グリーンジョブが特に注目を集めているのです。またこのほか、「SDGs(持続可能な開発目標)」や「パリ協定」などによって人々の環境に対する意識が大幅に高まったことも、グリーンジョブが注目される理由の一つだと考えられます。

近年、世界では地球温暖化を原因とする干ばつや食料不足、水資源不足、水産および農業生産減少、生態系への影響などの環境問題が多発しており、一刻も早い解決が求められています。そんな中、日本においても政府が「2050年カーボンニュートラル」を宣言するなど、脱炭素に向けた取り組みが積極的に進められているほか、「ESG投資」の広がりによって、企業の環境に配慮した経営にも関心が寄せられています。

こうした状況を受けて、現在は環境問題をより身近に、自分ごととして考える人や企業が増えてきており、それに伴ってグリーンジョブにもますます注目が集まっているというわけです。

2.グリーンジョブの特徴

2-1.多様な職業

いわゆるグリーンジョブと言われる職業にはさまざまなものがあり、下記のような分野が一例として挙げられます。

  • 気候変動対策の推進
  • 企業のサステナビリティ経営
  • 環境・社会課題に関連する情報発信
  • 環境・社会課題に関連する教育
  • 環境汚染の防止
  • サスティナブルな金融
  • 廃棄物ゼロ
  • サスティナブルな地域社会の実現
  • 循環型社会の実現
  • 生物多様性の保全

また、具体的な職業としては、下記のようなものが挙げられます。

  • コンサルタント(ESG / サステナビリティ)
  • コンサルタント(建設・環境)
  • エンジニア(機械・電気)
  • エンジニア(建築・土木)
  • エンジニア(環境・化学)
  • 再生可能エネルギー専門職
  • 社内サステナビリティ推進専門職
  • サプライチェーン担当者
  • ロジスティクスコーディネーター

2-2.グリーンスキルとの関係

グリーンスキルとは、環境戦略やカーボンニュートラル実現戦略などを実行するために必要な個々人のスキルのことで、温室効果ガス排出量の算定スキルや、排出量削減のための設計スキルなどを指します。つまり、グリーンジョブに必要とされる能力こそが、このグリーンスキルであるというわけです。

最近は前述したようなサステナビリティコンサルタント、ロジスティクスコーディネーターなど、数年前にはなかったような職種の求人がとても多くなっており、これらには一定のグリーンスキルが必要とされています。なお、「O*NET(米国の職業情報データベース)」および「NBER(全米経済研究所)」によると、下記にあげる4グループのスキルが、これからのサスティナブルな社会の実現において特に重要になると言われています。

エンジニアリングおよび技術スキル

エンジニアや技術者が通常習得するような、設計・建築・技術評価に関する能力を含む。エコな建築や再生可能エネルギーの設計、省エネ研究開発プロジェクトに必要。

科学スキル

物理学や生物学のような、応用範囲が広く、イノベーションに不可欠な知識群に基づく能力。バリューチェーンの各ステージと、水道・下水道・電気などの基本的な設備を提供するユーティリティ部門で特に高い需要を持つ。

オペレーション管理スキル

ライフサイクル管理、リーン生産、外部アクター(顧客など)との協業を通して行われる、グリーン活動を支えるために必要な組織構造の変化と企業の統合マネジメントに関するスキル。具体的には、セールスエンジニア、気候変動アナリスト、サステナビリティスペシャリスト、チーフサステナビリティオフィサー、輸送プランナーなどにとって重要なスキル。

モニタリングスキル

技術や科学のスキルとは根本的に異なり、ビジネス活動の技術的および法的側面を支える。技術基準と法的基準のコンプライアンスを評価するために必要なスキル。例としては、環境コンプライアンス検査官、原子力監視技術者、緊急管理責任者、法律補佐官など。

2-3.グリーンウォッシュに注意

グリーンウォッシュとは、エコや環境に優しいイメージとして使用される「グリーン」と、「うわべだけ」や「取り繕う」という意味を持つ「ホワイトウォッシュ」を組み合わせた言葉です。つまり、実際は環境に配慮していないにもかかわらず、あたかも環境やサステナビリティに取り組んでいるように見せかけて商品やサービスを提供し、その広告効果を得たり、投資や税制面での優遇措置を受けたりするなど、自社が得する面だけをかすめ取っていくような行動のことを指します。近年はESG投資なども広がりを見せているため、誇張したアピールによって投資家たちを騙すといった事例もますます増えています。

そのため、グリーンジョブを謳っている企業であってもグリーンウォッシュを行っている可能性はゼロではないため、しっかりと見極めることが必要であるとともに、企業側も自社の取り組みを誇張せず、グリーンウォッシュを徹底的に避けることが大切です。

3.日本のグリーンジョブの動向

ここでは、総合人材サービスを提供する「PERSOL(パーソル)グループ」が公開している資料をもとに、グリーンジョブの中でも特にカーボンニュートラル関連の分野にフォーカスし、その動向を解説していきます。

3-1.カーボンニュートラルについての理解および影響

資料によると、カーボンニュートラルについて「認知」をしている企業は全体で90.4%を占めており、中小企業でも88.3%と全体的に高い結果となっています。ただし、具体的な内容の理解度については企業規模における差が生じており、 「知っているが、あまり内容を理解できていない」が、中小企業では22.5%、大手・中堅企業は 18.0%、超大手企業は11.7%となりました。つまり、大手になればなるほど理解度が高いという状況となっています。

また、カーボンニュートラルによるメリットがあるかどうかについては、中小企業では25.8%、大手・中堅 企業では34.8%、超大手企業では43.7%と、企業規模が大きければ大きいほどメリットを感じているということが分かりました。さらに、 中小企業においては「メリットもデメリットもない」が25.2%とややパーセンテージが高く、カーボンニュートラルに対する関心の差が見て取れます。

3-2.カーボンニュートラルへの取り組み

カーボンニュートラルに「取り組みたい」と回答した企業は全体で75.7%となりました。具体的には、超大手企業は「積極的に取り組みたい」が41.6%、「できれば取り組みたい」が24.0%と、取り組みへの意識が高いことが分かりました。また、大手・中堅企業ではそれぞれの回答が20%前後と、回答が割れる形となりました。しかし一方で、中小企業では「積極的に取り組みたい」が7.8%と比較的低い結果となり、「要望等があれば取り組みたい」が38.1%を占めていることから、主体的な取り組み意識はあまり高くないことが伺えます。

このほか、カーボンニュートラルに「取り組めている」は48.1%、「取り組めていない」は51.9%とほぼ半数ずつとなりました。なお、中小企業においては「全く取り組めていない」が36.0%と高くなっているほか、 大手・中堅企業、超大手企業ともに「十分に取り組めている」のパーセンテージは低く、取り組みについてはまだまだ改善の余地があることが伺えます。

実際、「クールビズの導入」や「節電時の省エネ対策」、「3R」など、身近で簡単に取り組めるものについては企業規模を問わず実施率が高くなっていますが、その一方で「製造過程での二酸化炭素排出削減」や「不要な設備の見直し」といった事業投資も必要な取り組みについては、中小企業などではほとんど進んでいないという現状です。また、大手・中堅企業においてもそのパーセンテージが20%台にとどまる項目が多く、特にグリーンスキルが必要とされるような取り組みについては、なかなか進んでいないことが分かりました。

なお、今後取り組む予定のものとしては、「再生可能エネルギーの導入」、「環境に配慮した設備への投資」、「社用のハイブリット車・電気自動車の導入」など、より効果を意識した取り組みが挙げられました。

3-3.カーボンニュートラルに向けた体制・予算・情報

中小企業では「社内に推進のための組織やプロジェクトは無い」が78.1%。大手・中堅企業では53.5%と体制無しが半数を占めました。一方で、超大手企業では「社内に推進のためのプロジェクトがある」が38.3%、「社内に推進のための部門がある」が41.3%と、体制を整えているパーセンテージが高いことが分かりました。

また、カーボンニュートラルの取り組みのための予算は、全体平均ではおよそ3000万円という結果となり、中小企業では 「500,000円以下」が15.9%と最も高く、超大手企業では「100,000,001円以上」が12.9%と最も高くなっています。

このように、企業規模によって予算がかなり異なっており、取り組みの内容や姿勢にも大きな違いがあることが見て取れます。

4.グリーンジョブの課題

4-1.人材の不足

ここ数年、職名に「サステナビリティ」がつく求人数がますます増加しており、グリーンジョブが急増している一方で、そうしたニーズを満たす十分なスキルを持つ人材が不足していることが大きな課題となっています。実際、前述したようなグリーンスキルは専門的なものが多く、日本においては関連する人材育成の具体的なノウハウや手法はまだ確立されていない状況です。そのため、急増するニーズに対応できるような、あらゆる業界で持続可能性を第一に考えられるような人材の育成環境を整備することが求められているというわけです。

4-2.企業規模での差

前述した通り、グリーンジョブは中小企業、大手・中堅企業、超大手企業という企業規模の違いによって、その取り組みに大きな差が生まれていることが明らかになりました。特に、設備投資などを必要とする本格的なプロジェクトに関しては、中小企業および大手・中堅企業では体制無しが半数を占めるなど、その差は明らかとなっています。

これには、グリーンジョブにかけられる予算の違いも大きく影響していると言えます。中小企業と超大手企業では予算にかなりの差があり、あまり多くの予算をかけられない中小企業は、グリーンスキルを備えた人材の育成やエコフレンドリーな設備の導入も難しくなっています。

そのため、中小企業の環境への取り組みをどうサポートしていくかも、今後の大きな課題となりそうです。

5.まとめ

ここ数年、人々の環境への意識が急速に高まっていることを受けて、グリーンジョブにも大きな注目が集まっています。一言でグリーンジョブと言っても、実際の職業は時代とともに変化しており、最近ではこれまでの常識を覆すようなグリーンジョブに関わるテクノロジーも開発されるなど、年々発展を続けています。グリーンジョブには専門的なグリーンスキルを必要とする業種も多くあるため、仕事を通して脱炭素に貢献したいという方は、興味のあるグリーンジョブを見つけ、その職業に必要とされるグリーンスキルを身につけることが今後のキャリアアップに繋がることになるかもしれません。

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中島 翔

一般社団法人カーボンニュートラル機構理事。学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。また一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う。証券アナリスト資格保有 。Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12