GPIFとはGovernment Pension Investment Fundの略で、日本の年金積立金管理運用独立行政法人のことです。ESG投資に力を入れており、ESG関連の国際的な調査・研究へのサポートも行っています。
今回の記事では、GPIFのESG投資の手法、運用機関のESG重要課題や見通しについて解説していきます。
※この記事は2022年11月11日時点の情報に基づき執筆しています。最新情報はご自身にてご確認頂きますようお願い致します。
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目次
- GPIFとは?
- 日本の年金制度
2-1.「公的年金」と「私的年金」
2-2.GPIFと日本年金機構の違い - GPIFの投資方針と特徴は?
3-1.GPIFの運用目標
3-2.GPIFのポートフォリオ - 運用の課題は?
4-1.情報開示の内容や姿勢
4-2.パッシブ運用機関とアクティブ運用機関の課題
4-3.外国株式
4-4.国内債券
4-5.内外株式パッシブ運用機関に共通の課題 - GPIFの最近の傾向は?
- まとめ
1 GPIFとは?
GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、日本の公的年金のうち、厚生年金と国民年金の積立金の管理・運用を行う機関です。運用方法は運用受託機関との投資一任契約もしくは一部の自家運用によります。
GPIFが運用する年金マネーは世界最大規模のため、株式市場への資金流入が株価に与える影響は大きく、市場関係者が注目しています。
2 日本の年金制度
まずは日本の年金制度を整理してみましょう。
2-1 「公的年金」と「私的年金」
日本の年金制度は、「公的年金」と「私的年金」の2種類に分けることが出来ます。
公的年金とは国民年金(国民全員)、厚生年金(会社員・公務員など)のことで、私的年金は国民年金基金、iDeCo などになります。この中で、GPIFが管理・運用しているのは公的年金の中の「年金積立金」となります。
年金積立金とは、現役世代が納めた年金保険料のうち、年金の支払いに充てられた残りの部分で、積立金として積み立てられた資金のことです。年金積立金を運用することで、将来的に減ってしまう年金保険料を補う財源とすることを目指しています。
2-2 GPIFと日本年金機構の違い
GPIFと日本年金機構の違いを見ていきましょう。
GPIFは「公的年金」を管理・運用している組織です。そして、公的年金は「世代間扶養」という考えのもと成り立っております。現役世代の納める保険料をもとに、高齢世代の年金を支給する「世代間の支え合い」を行っているとも言えます。
一方で、日本年金機構は年金の給付や納付に関する業務を行う組織となります。
GPIFは「年金」と聞いてイメージする日本年金機構とは異なる組織なので注意が必要です。
3 GPIFの投資方針と特徴は?
GPIFのように投資額が大きく、世界の資本市場全体に幅広く分散して運用する投資家は「ユニバーサル・オーナー」と呼ばれます。また、GPIFが運用する年金積立金は、将来の現役世代の保険料負担を軽減するために使われるものです。
このように「ユニバーサル・オーナー」かつ「世代をまたぐ投資家」という特性を持つGPIFが、長期にわたって安定した収益を獲得するためには、投資先の個々の企業が「長期的」に価値が高まり、ひいては資本市場全体が「持続的・安定的」に成長することが重要です。
GPIFは主にESG投資を推進しています。そして、長期で見ると環境問題や社会問題の影響から切り離すことはできず、投資リターンを持続的に追求するうえではESG投資は不可欠なのです。
GPIFはESG投資を通じて、環境、社会、コーポレート・ガバナンスの視点を投資判断に組み込むことにより、より長期的なリターンを追求することを目指しています。
では、GPIFはESG投資でどのような運用をしているのでしょうか。具体的に特徴を見ていきましょう。
- GPIFの運用目標
- GPIFのポートフォリオ
3-1 GPIFの運用目標
GPIFは長期的な運用目標を「賃金上昇率+1.7%」と設定しています。公的年金の保険料収入と年金給付は賃金水準に応じて変動し、国庫負担は給付額に応じて変動します。そのため、年金積立金の運用益が賃金上昇率を超える事が出来れば、年金財政を安定化させることができるのです。
どのようにして「賃金上昇率+1.7%」という目標を達成するのでしょうか。
GPIFは基本的に「長期」かつ「分散」での投資を行っています。長期的に資産を保有して、安定的な収益を狙う「長期投資」と、資産を分散して保有することでリスクを抑える「分散投資」を組み合わせてパフォーマンスを維持しています。
3-2 GPIFのポートフォリオ
GPIFの資産ポートフォリオは、公的年金という性質上、長期的に安全かつ効率的な観点が重視されますが、当初は運用改善の流れから、リスク運用の比率が高まり、国内債券35%、国内株式25%、外国債券15%、外国株式25%という基本ポートフォリオが組まれていました。
2020年4月から5年間の第4期中期目標期間においては、各25%ずつに変更されています。
4 各運用機関の重要なESG課題は?
GPIFは、スチュワードシップ活動原則により、機関投資家に重要なESG課題についての積極的なエンゲージメントを求めています。これを踏まえて、株式および債券の運用を委託している運用機関に、毎年、運用機関が考える重要なESG課題を確認しています。
様々な課題が挙げられていますが、以下は運用機関が挙げた重要なESG課題です。
- 情報開示の内容や姿勢
- パッシブ運用機関とアクティブ運用機関の課題
- 外国株式
- 国内債券
- 内外株式パッシブ運用機関に共通の課題
4-1 情報開示の内容や姿勢
パッシブ運用機関とアクティブ運用機関を問わず、全ての運用機関が共通して「情報開示」を重要な課題と挙げています。具体的には以下のようなものを指します。
- 統合報告書の作成や充実
- GHG(温室効果ガス)排出量の開示
- 情報開示方針の明示
- 投資家とのコミュニケーション
- 英語での情報開示
開示内容だけでなく情報開示のあり方まで含めて、運用機関が重要視しています。
4-2 パッシブ運用機関とアクティブ運用機関
「情報開示」以外の部分は、パッシブ運用機関とアクティブ運用機関で重要と考える課題が異なっています。
運用機関 | 重要課題 |
---|---|
アクティブ運用機関 | 「取締役会構成・評価」、「少数株主保護(政策保有等)」といったG(ガバナンス)の課題 |
パッシブ運用機関 | 「気候変動」、「ダイバーシティ」、「サプライチェーン」、「不祥事」といったE(環境)やS(社会) |
比較すると、パッシブ運用機関はE(環境)やS(社会)を含め幅広く、長期的な課題を重要なESG課題と考えています。
4-3 外国株式
運用機関 | 重要課題 |
---|---|
外国株式運用機関 | 「気候変動」、「ダイバーシティ」、「サプライチェーン」 |
外国株式運用機関全社が挙げた課題と、パッシブ運用機関全社が挙げた課題は重複しており、「情報開示」は国内株式パッシブ機関の課題とも共通しています。
特に、「サプライチェーン」は新型コロナ感染症の影響を契機として、内外パッシブ機関とも重要な課題として認識されています。
4-4 国内債券
運用機関 | 重要課題 |
---|---|
国内債券運用機関 | 「情報開示」 |
国内債券運用機関は全社が「情報開示」を重要な課題として挙げています。「情報開示」については、国内株式運用機関の全社が重要な課題として挙げており、資産を問わず、運用機関が日本企業にとって重要な課題と捉えています。
4-5 生物多様性
「生物多様性」を重要なESG課題として捉えている機関の増加です。
2021年6月に自然資本及び生物多様性に関するリスクや機会を適切に評価、開示するための枠組みを構築するために、TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:自然関連財務情報開示タスクフォース)が発足したことも影響しています。
4-6 人権課題
パッシブ、アクティブとも「人権と地域社会」の比率が上がっており、「サプライチェーン」とともに、現代奴隷法への対応、EUの人権デューデリジェンスなどのサプライチェーン上での人権課題への対応等も具体的な項目として挙げられ、様々な課題が相互に絡み合っていることが窺えます。
5 GPIFの最近の傾向は?
GPIFは運用受託機関のスチュワードシップ活動に関する評価と、「目的を持った建設的な対話」(エンゲージメント)の変化の把握を目的として、上場企業向けアンケートを実施しています。
2022年のアンケート結果では、企業理念や長期ビジョンなどをテーマとした対話の進展が見られたほか、ここ1年で、TCFDへの賛同や、TCFDを含む非財務情報を開示した企業が大きく増加しています。
具体的には、以下のような変化が見られます。
- 初めて5割以上の企業が機関投資家に好ましい変化がみられると回答
- 長期ビジョンの想定期間がさらに延伸
- 任意開示を行う企業が大きく増加
- ESGテーマに対する意識の高まり
GPIFにとって、長期的な投資収益拡大の観点から、投資先及び市場全体の長期志向と持続的成長は欠かせません。このため運用受託機関に対しては、長期的な企業価値向上のために、長期的な視野に立った対話の実践を働きかけています。
6 まとめ
現状、GPIFのESG投資の手法はまだまだ完成されたものでなく、今後も改善を続けていくでしょう。
企業が社会や環境の改善に向けて、ESG投資手法の改善が進められていくと、個人投資家にとってもESG投資ができる環境が広がってくるのではないでしょうか。
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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