ノンアルコールビールが支持される理由は?ヒット商品の勝因を分かりやすく解説

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ノンアルコールビールはアルコール度数が0.00%ですが、ビールに近い味や香りが楽しめる飲み物です。車の運転時や休肝日などに愛飲している方も多いのではないでしょうか。

ノンアルコールビール市場が拡大したのは2009年頃からです。今回は大ヒットを記録したキリンフリーとアサヒのドライゼロの成功要因について解説します。

※2023年12月26日時点の情報をもとに執筆しています。最新の情報は、ご自身でもご確認をお願い致します。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定のサービス・金融商品への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。


目次

  1. ノンアルコールビールの種類や代表的な商品
    1-1.アルコール度数0.00%の炭酸飲料のこと
    1-2.Z世代の「ソバーキュリアス」と相性がいい
    1-3.20歳以上が飲むのに適している
  2. 2009年に「キリン フリー」が大ヒット
    2-1.アルコール0.00%の美味しい飲料を目指して開発
    2-2.キリン独自の技術で課題を克服
    2-3.競合も商品をリリースして市場が活性化
  3. アサヒ「ドライゼロ」の大ヒット
    3-1.マーケティングリサーチで空白地帯を発見
    3-2.データ分析能力の強化
  4. まとめ

1.ノンアルコールビールの種類や代表的な商品

そもそもノンアルコールビールとは何か、どのような商品があるかについて解説します。

1-1.アルコール度数0.00%の炭酸飲料のこと

ノンアルコールビールは、ビアテイスト飲料などとも呼ばれ、アルコール度数が0.00%の飲料です。運転前などアルコールを摂取できないときにもお酒を飲んだ気分を味わえて、お酒を休む日に活用する方もいます。

代表的な商品・ブランドを下記で紹介します。

メーカー 代表的なノンアルコールビール
アサヒビール
  • アサヒ ドライゼロ
  • アサヒドライゼロ フリー
  • アサヒヘルシースタイル
  • アサヒゼロ
  • アサヒスタイルバランス
キリンビール
  • キリン グリーンズフリー
  • キリン 零ICHI(ゼロイチ)
  • キリン カラダFREE
  • パーフェクトフリー
  • 氷零カロリミット
  • モクバル
サントリー
  • オールフリー
  • のんある晩酌
  • のんある気分
サッポロビール
  • サッポロ プレミアム アルコールフリー
  • LEMON’s FREE

※表は筆者作成

ノンアルコール市場はビールテイスト飲料が中心ですが、カクテルテイスト飲料も徐々に浸透しつつあります。

1-2.Z世代の「ソバーキュリアス」と相性がいい

1995年~2010年頃に生まれた若者はZ世代と呼ばれていますが、彼らは「ソバーキュリアス」というライフスタイルになじんでいるといわれています。お酒は飲もうと思えば飲めるけれども、あえて飲まないライフスタイルのことです。

お酒を飲まない理由として、二日酔いなどに嫌悪感があること、自尊心や平常心を保っていたいこと、節約志向があることなどが挙げられます。ソバーキュリアスの嗜好を持つ若者にとってお酒を飲むことはクールではなく、健康への悪影響も心配に感じています。

Z世代は多様性を重視するため、お酒に関する選択肢も多様であるべきと考えます。よってアルコールを飲まない自由も認められるべきだということになります。

ソバーキュリアスを実践する方も、お酒を飲んだ気分は味わいたいため、ノンアルコール飲料を好みます。欧米から始まったライフスタイルですが、日本でも多種多様なノンアルコール飲料が発売され、ノンアルコールバーが増え、次第に浸透しています。

1-3.20歳以上が飲むのに適している

ノンアルコール飲料はアルコールが含まれていないため、20歳未満が飲んでも法律違反にはなりません。しかし、メーカーは満20歳以上の飲用を推奨しています。その理由は、20歳以上が飲むのを想定して商品開発を行っているためです。

20歳未満の方がノンアルコール飲料を飲むと、次はアルコールに興味を持って手を出す可能性が高くなります。未成年の飲酒を防ぐため、ノンアルコール飲料も20歳以上の飲用が望ましいとされています。

2.2009年に「キリン フリー」が大ヒット

2000年代以前にもビールテイスト飲料の商品は存在していましたが、市場が本格的に活性化するのは2009年以降のことです。この年にキリンビールが「キリン フリー」を発売し、大ヒットとなりました。

2-1.アルコール0.00%の美味しい飲料を目指して開発

キリンは2007年から「美味しいノンアルコールビール」の本格開発に着手しました。当時は評判の高い他社の商品もありましたが、アルコール度数が0.5%程とノンアルコールにはやや不十分でした。キリンとしてはアルコール0.00%で、かつ美味しいビールテイスト飲料を開発したいという要望があり、2008年にプロジェクトを起こしました。

低アルコール度数や美味しさに加え、チームメンバーが意識していたのがCSR(企業の社会的責任)です。商品開発を進めて0.00%に近づくにつれ、会社としてCSRも具体化したいという方針になり、「飲酒運転をなくす」もコンセプトになりました。

2-2.キリン独自の技術で課題を克服

商品開発の上で、課題となったのが匂いと酸味でした。アルコールを生成しないために麦汁を発酵させないと嫌な匂いや甘みが残り、酸味も強くなってしまいます。

そこでキリンが用いたのが、同社の香味の調合技術や酸味をコントロールする技術です。香りに関しては別部署の開発チームのサポートを得ながら、酵母の作る独特の香りを再現しました。また、酸味に関してはグループ会社のキリンビバレッジの協力により、清涼飲料で使う酸味の制御技術を応用しました。

このように開発した麦芽感のコントロール、酸味の制御、香味の調整の3件について、特許出願しました。開発から発売まで2年間で70~80種の試作品を作り、モニターの嗜好調査も利用して最終候補を絞り込みました。

2-3.年間計画販売数を1カ月半で突破

キリンフリーの発売当初の年間販売予定数は63万ケースでしたが、発売からたった1カ月半でその数字を超え、最終的に400万ケースの売上を記録しました。当初の計画の6倍以上を販売したことになります。2009年のノンアルコールビールの市場規模は500万ンケースであったため、およそ8割のシェアを獲得しました。

参照:独立行政法人中小企業基盤整備機構「「キリンフリー」単なるアルコールゼロではない、社会に貢献する商品をつくる

3.アサヒ「ドライゼロ」の大ヒット

2009年にキリンフリーが大ヒットしたことで、ノンアルコール市場が活性化し、競合他社もこぞってノンアルコール商品の開発を推進しました。2012年にアサヒビールが出した大ヒット商品が「ドライゼロ」です。2023年12月現在、ノンアルコールビール市場で売上No.1を獲得しています。

参照:アサヒビール「ドライゼロ

3-1.ドライゼロの失敗からの雪辱

キリンフリーが大ヒットしていた頃、アサヒビールも「ダブルゼロ」という商品を販売していました。しかりキリンフリーやサントリーのオールフリーにはかなわず、シェアは2%と低迷しました。

ドライゼロはダブルゼロの雪辱を果たすために開発・販売され、発売1年目でシェア20%以上を獲得する成功を収めました。

参照:ITmedia「「ドライゼロ」のヒットを導いた王道マーケティングリサーチ

3-2.マーケティングリサーチで空白地帯を発見

ドライゼロの開発にあたり、アサヒビールはオーソドックスなマーケティングリサーチを行いました。ノンアルコールビールを飲む頻度・量・飲用時の状況などの実態を把握するため、1,000人を対象にヒアリングをしました。

それまで、ノンアルコールビールは妊婦の方や運転前など、アルコールを飲みたくても飲めないシーンが想定されていました。しかし、ビール愛飲者があえて「飲まない」選択をすることもあることが判明しました。

またブランドのイメージも調査したところ、他社ブランドは「女性的」「健康的」というイメージを強く持たれていました。「男性的」「本格的」のイメージのブランドがなく、空白地帯となっていたのです。

そこでアサヒビールでは「ビールの代替品」というコンセプトを打ち出し、ビールの代わりになる味や香りの製品を開発することを決定しました。またドライゼロはパッケージがシルバーで、ネーミングなどから「スーパードライ」を連想させる製品であったことも、コンセプトどおりといえます。

3-3.データ分析能力の強化

アサヒビールでは2007年頃からマーケターを対象に、データ分析能力の強化を図っています。IBMの統計解析ツールであるSPSS Staticsを導入し、担当者が自分でデータと向き合う業務体制を構築しました。

ドライゼロの開発においても、調査データの分析が功を奏しました。マーケティングリサーチでは、調査会社にすべてを任せるのではなく、自分たちが主体的に取り組む姿勢が重要です。

4.まとめ

本稿では、ノンアルコールビールで大ヒットした2つの商品について解説しました。キリンフリーの成功要因は香味の調合や酸味の制御などの技術、アサヒのドライゼロの場合はマーケティングリサーチやデータ分析能力の強化などが成功要因でした。

いずれの場合も、自社の強みを徹底的に磨き上げた結果が大ヒットに繋がったといえます。すぐには成果の出ない取り組みもありますが、中長期の視点で継続していくことがヒットに繋がるのでしょう。

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安藤 真一郎

マーケティング会社に勤務した後、ライター・コラムニストに転身。 さまざまなジャンルの執筆を行う途中でマネーリテラシーの重要性に気づき、現在はマネー・金融分野を中心に執筆活動を行う。投資、資産形成、年金、税制度、ローン、節約、キャッシュレス決済など多数の執筆実績あり。投資に関しては中長期での利益獲得を目指し、米国株式や先進国株式を中心とする投資スタイル。ファイナンシャルプランナー資格保有。