機関投資家がビットコインを取引する場合に、現物を持たない「先物取引」を利用することがあります。先物取引は、ある商品(原資産)を将来の特定日(期日)に、現時点で取り決めた価格で売買する事を約束する取引です。
機関投資家は主に、ビットコインの先物をCME(シカゴマーカンタイル取引所)で取引しています。CMEは伝統的な金融商品取引所であり、21年1月にはビットコイン先物の建玉(未決済のポジション数)の総数110億米ドル(約1.14兆円)に対して21億ドル(19%)をCMEが占めました(Skew調べ)。
この記事では、機関投資家が先物取引を取引する場合において、どのような行動をとり、価格形成にどのように影響を与えるのか解説します。
①ビットコインの先物取引とは
最初にビットコインの先物取引について簡単に説明します。
上記は2022年6月24日時点でのCMEのビットコイン先物価格です。上から先物の期日が近いところから表示されています。
例として「JUL 2022」と記載がある場合は7月に期日が到来する先物価格で、7月のSQと呼ばれる先物決済日が到来した場合に売り買いをするレートが「直近値」として記載されている価格になります。「JUN 2022」には「21,040ドル」の直近値は、「DEC 2022」には「21,160ドル」となっています。現在取引されている価格が21,040ドルとした場合に今年の12月は120ドル高い水準で取引されているということがわかります。
この差は「限月間スプレッド」と呼ばれており、このスプレッドの幅に意味があります。スプレッドは投資家が将来においてビットコインの価格が値上がりする可能性を期待していることが価格に反映されているということです。基本的には先の日付の方が先物価格は高いという傾向がありますが、トレンドが下落トレンドの場合は先物価格の方が低いという状況にもなります。
そのため先物価格で現在の投資家がどのような目線を持っているのか把握する一つの材料となるでしょう。
②ロールオーバーとは
次に機関投資家が行っているロールオーバーについて解説します。
ロールオーバーとはポジションの移し替えであり、もしも6月期日の先物取引を行っており、100BTCを先物でロングを保有していて、これを1ヶ月更にポジションは保有しておきたいとします。もしも何も行わずにロングポジションを保有した場合、6月の先物決済日で自動的に清算されポジションがなくなってしまいます。
まだビットコインの価格が上昇すると考えていて、ロングポジションを保有しておきたいという場合は、6月期日の先物ポジションを100BTC売って決済を行い、7月期日のビットコインの先物をロングすることによって7月までロングポジションを保有することができるようになります。
この6月の先物ポジションを決済して7月の先物ポジションを保有する取引をロールオーバーと呼ばれています。
ではもしも上記の価格となっているときに6月の先物ポジションを決済して、7月の先物ポジションを保有した場合どうなるでしょうか?
6月の先物価格が21,075ドルで売却することができ、すぐに7月の21,045ドルでポジションを持ち直すということになり、30ドルの利益が出ることがわかるでしょう。
先物は限月によって、価格が異なっており、ここの歪みを利用して利益を得ることも可能な市場となっています。当然先の限月の価格が、手前の限月の価格よりも下回っている場合は、ロングポジションをロールオーバーした場合プラスとなりますが、価格が上回っている場合が多く、ロールオーバーのコストが発生するケースが多いものです。
機関投資家はこの価格のズレをみながら取引を行いつつロールオーバーをいつ行うか等タイミングを考えています。
③先物取引を利用する方法
次にどのように先物が利用されているのか具体的な方法を説明します。
3-1.限月間スプレッド取引
次にこのような先物市場で限月間スプレッド取引という取引方法があります。これはビットコインだけではなく個人投資家でも先物市場が用意されていれば誰でも行うことができます。限月間スプレッド取引とは先ほど説明したスプレッドの部分を利用してトレードを行う方法です。
例として期近の限月と期先の限月のスプレッドが拡大したり縮小したりしており、このスプレッドから期近が割高だったり、期先が割高だったりします。つまりスプレッドの拡大、縮小を利用して取引を行うということです。
先ほどの画像から2022年6月と2022年10月のスプレッドが45ドルしかありませんが、もしもこのスプレッドが500ドルまで拡大し、2022年10月の先物価格が割高と判断するなら下記のような取引を行います。
前提として「2022年6月の先物価格が20,000ドルで、2022年10月の先物価格が20,500ドル」と考えた場合
・2022年6月ロング+2022年10月ショート
この取引を行うとビットコインの価格自体は上下に変動しますが、ビットコイン自体の価格の変動の影響はリスクではなく、上記の2つの先物ポジションの値動きのズレが利益の源泉となります。
もしもビットコインが上昇して、2022年6月の価格が21,000ドルとなり、2022年10月の価格が21,300ドルという動きになった場合、損益はどのように変化するでしょうか。
答えは
2022年6月のポジション 21,000ドル-20,000ドル=1,000ドル
2022年10月のポジション 20,500ドル-21,300ドル=▲800ドル
のため結果的に200ドルのプラスが発生します。
これが先物の限月間スプレッドを利用した取引方法の一つです。
上記のスプレッド取引は、どちらか一方をロングにしながら片方はショートにするため、大きな価格変動リスクが発生することはありません。当然価格がオーバーシュートしたりするとイレギュラーなケースも発生しますが、これは相場なのでいつでも起こり得ることでしょう。
取引としては行いやすいため、機関投資家も常にスプレッドの平均値や、どのくらいの確率でどの間に収まりやすいのかというものをデータで分析して行っています。
3-2.現物のヘッジ
次に利用する方法はビットコインを現物で保有している場合、ここから売りたくはないが、短期的な価格の下落の可能性を懸念している投資家がいるとします。
そのような投資家は短期的に価格の下落をヘッジしたいというニーズが発生し、そのような時に先物は簡単にショートでエントリーすることができるため、利用しやすい方法です。もしも現物で10BTC保有している場合、10BTC分の先物をショートすることによって、その間は価格下落は先物ポジションでカバーできるということになります。
デメリットとしては、予想に反して、価格が上昇した場合、上昇した分はショートでリスクをヘッジしてしまっているため、ヘッジしている間は利益が出ないということになります。そのためどの程度のリスク量をヘッジするのか等は投資家によって異なるため、現物の30%だけとか、50%だけとか時々でヘッジ量を調整することもあります。
④まとめ
ビットコインの先物市場で機関投資家が何を行っていて、どのような取引があるのか解説しました。個人投資家でもビットコインを先物市場で取引できるところがあります。是非上記のような取引を行ってみて、ビットコインの上下だけではなくスプレッド取引や、現物のヘッジのために先物を利用する等、戦略を広げてみてください。
- 高機能取引ツールが利用できる仮想通貨取引所・販売所
- 取引手数料が安価な仮想通貨取引所5選
- 少額投資に適した仮想通貨取引所・販売所5選
- 投資初心者がビットコインをかんたんに購入できる仮想通貨取引所・販売所6選
中島 翔
最新記事 by 中島 翔 (全て見る)
- 脱炭素に向けた補助金制度ー東京都・大阪府・千葉県の事例 - 2024年10月22日
- 韓国のカーボンニュートラル政策を解説 2050年に向けた取り組みとは? - 2024年10月7日
- NCCXの特徴と利用方法|ジャスミーが手掛けるカーボンクレジット取引所とは? - 2024年10月4日
- Xpansiv(エクスパンシブ)とは?世界最大の環境価値取引所の特徴と最新動向 - 2024年9月27日
- VCMIが発表したScope 3 Flexibility Claimとは?柔軟なカーボンクレジット活用法を解説 - 2024年9月27日