アマゾンは、米国に本社を置く世界的なオンライン取引およびクラウドコンピューティング企業でありながら、ESGやサステナビリティの取り組みを積極的に進めています。2040年までに温室効果ガスの排出量実質ゼロを目指すなど独自のESG活動を展開しており、企業の持続可能性やESG経営が常に意識されるようになった昨今において、先進的な役割を果たしています。
そこで、この記事ではアマゾンのESGやサステナビリティの取り組みと将来性についてご紹介します。アマゾンの特徴や株価推移、配当情報も併せて解説するので、外国株取引やESG投資に興味のある方は、参考してみてください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※本記事は2023年6月10日時点の情報をもとに執筆されています。最新の情報については、ご自身でもよくお調べの上、ご利用ください。
目次
- アマゾン(AMZN)の特徴
- アマゾンのESG・サステナビリティの取り組み内容と将来性
2-1 環境の取り組み例
2-2 社会の取り組み例
2-3 ガバナンスの取り組み例 - アマゾンの業績・株価推移
- アマゾンの配当情報
- まとめ
1 アマゾン(AMZN)の特徴
アマゾン(AMZN)は、米国ワシントン州西部のシアトルを本拠地とする世界的に知名度の高いIT企業であり、グーグル(Google)、アップル(Apple)、Meta(旧Facebook)と併せてGAFAと呼ばれることもあります。
アマゾンは、米国のハイテク企業やインターネット関連企業が中心となっている株式市場NASDAQ(ナスダック)に上場しており、米国を代表する株価指数「NASDAQ100」の構成銘柄にも採用されています。日本では東京都にアマゾンジャパン合同会社を構えて事業を推進しており、日本の株式市場での上場はありません。
超巨大企業として名を馳せるアマゾンですが、創業者のジェフ・ベゾス氏が事業を開始したのは比較的最近で、1995年7月から開始したオンライン書店がアマゾンの事業の始まりです。
その後、「地球上で最もお客様を大切にする企業になること」という理念の下で驚異的な成長を遂げ、グローバルに事業展開を行う巨大企業となりました。
アマゾンの主力事業は、日本でも高い知名度のあるECサイト「Amazon」をはじめとするEC事業です。米国やドイツ、英国などの欧米ではEC市場でトップシェアとなっており、2022年12月期の決算ではマーケットプレイスとして「Amazon」を利用しているサードパーティを含めた売上高が337,720百万ドルと総売上高の約65.7%を占めています。
また、定額で動画や音楽などの配信を行うサブスクリプションサービス事業も手掛けており、映画や音楽などが定額で見放題・聴き放題の「Amazon Prime」が総売上高の約6.9%を占めています。
さらに、クラウドコンピューティングを使用して100以上のサービスを提供するAWS(Amazon Web Services)事業は急成長を遂げており、2022年12月期までの2年間で売上高は約77%増と、アマゾンの売上全体に占める割合も15.6%まで成長しています。
この他にも広告事業や実店舗での事業も行っており、2021年12月期~2022年12月期にかけては直販のEC事業が僅かに減収となったものの、その他の事業は全て増収と堅調に事業を展開しています。
※出典:Amazon「Amazon 2022 ANNUAL REPORT」
2 アマゾンのESG・サステナビリティの取り組み内容と将来性
アマゾンは、世界的な大企業として持続可能な未来を実現するため様々な取り組みを進めています。2019年9月には気候変動と持続可能性に関する世界的な行動を促進し、パリ協定の目標達成を推進するグローバルオプティミズム(Global Optimism)との共同で「The Climate Pledge(気候変動対策に関する誓約)」を立ち上げ、アマゾンは最初に署名した企業となりました。
「The Climate Pledge」は、パリ協定に基づいた2050年の脱炭素化が世界の潮流となる中、10年前倒しした2040年までに温室効果ガスの排出量実質ゼロを目指します。2023年2月時点で署名企業は世界35か国の400社に達するなど、アマゾンが主導した世界的なサステナビリティに対する取り組みとして注目を集めています。
また、アマゾンは20億ドル規模の「Climate Pledge Fund」を通じて温室効果ガスの実質排出量ゼロの達成につながる技術やサービスの開発支援も行っています。2022年7月時点で運輸、航空、テクノロジーを含めた合計18社に投資するなど、持続可能な未来へ向けたアマゾンの積極的な取り組みの一つとなっています。
この他にも、欧米での電気配送車の導入、フードロス問題に対応するため食品在庫管理システムの最適化を実施するなど、世界的な規模でアマゾンのサステナビリティに対する取り組みが進められています。
※出典:Amazon「The Climate Pledge(気候変動対策に関する誓約)」
2-1 環境の取り組み例
次に、アマゾンの環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)に対する具体的な取り組み例をご紹介します。
アマゾンは、環境問題に力を入れて取り組んでいる企業です。具体的な目標として、2025年までに自社の事業で使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを掲げており、太陽光エネルギーの導入推進などを進めています。
米国の太陽光エネルギー産業協会(SEIA)が発表した2022年の「Solar Means Business」では、アマゾンの太陽光発電の累積設備容量は1113.43MWに達しており、最近導入を加速させているメタ(META)に続き全米の主要企業の中でも第2位の実績です。
また、世界中でEC事業を営むアマゾンは商品を発送する際の梱包でも環境に配慮した取り組みを進めています。
購入者の廃棄物を最小限に抑えながらも配送途上の物損などがないよう使用量の削減だけでなく梱包材や包装技術の改良なども進めており、2015年以降で梱包重量の38%削減に成功するなど、将来の輸送コスト削減などにもつながる取り組みです。(※参照:Amazon「梱包資材の削減とより良いお買い物体験のために―アマゾンジャパンの梱包簡素化の取り組み」)
2-2 社会の取り組み例
アマゾンは、社会課題の解決に向けて欧米の事業で2030年までに50%のフードロス削減を目標に掲げており、食品を極力廃棄しないようシステムの最適化などが進められています。
その結果、2021年には米国内で7,000万食以上に相当する食品がNPOを通じて寄付できることとなり、欧州でも1,000万食に相当する食品を寄付するなど社会課題の解決と併せて地域社会に貢献する取り組みへと発展しています。
また、アマゾンは全従業員に対して競争力のある賃金や福利厚生の充実によってサポートできる体制を整え、企業活動による人権リスクを抑える取り組み(=人権デューデリジェンス)なども進めている点が特徴です。
人権デューデリジェンスでは、専門機関と連携しながら自社の活動による強制労働やハラスメントなどの人権リスクが発生していないかを調査し、そのリスクの分析と適切な対策を講じることで社内に人権尊重の意識を浸透させています。
※出典:Amzon「着実に前進するAmazonのサステナビリティの取り組み」
2-3 ガバナンスの取り組み例
アマゾンは米国内の連邦法や各州法だけでなく、国際法や事業を行う地域の法令なども遵守することを企業行動・倫理規範で定めています。その中には、利益相反の回避義務やインサイダー取引の禁止、差別・ハラスメントを容認しないことも明記されており、これらを役員や従業員に示すことでコーポレートガバナンスの強化に取り組んでいます。
取締役会においては、日本の上場企業と同様に多様な意見を取り入れるため取締役に女性を選任するケースが増えています。(※参照:Amazon「Officers and directors」)
また、アマゾンの株主は、「Guidelines on Significant Corporate Governance Issues」(Ⅷ.Shareowner Communications)に記載されているメールアドレスにメールするか、記載されている住所に手紙を送ることで、取締役会に対して問題提起や質問を行えるのも特徴です。
3 アマゾンの業績・株価推移
アマゾンは飛躍的な成長を続けている企業です。2022年12月までの過去5期の売上高と営業利益、当期利益は下表の通りです。
(単位:百万ドル)
決算期 | 2018年12月 | 2019年12月 | 2020年12月 | 2021年12月 | 2022年12月 |
---|---|---|---|---|---|
売上高 | 232,887 | 280,522 | 386,064 | 469,822 | 513,983 |
営業利益 | 12,421 | 14,541 | 22,899 | 24,879 | 12,248 |
当期利益 | 10,073 | 11,588 | 21,331 | 33,364 | ▲2,722 |
アマゾンの売上高は2018年12月期の232,887百万ドルから2022年12月期に513,983百万ドルまで増加するなど、4年間で約2.2倍と大幅な増収になっています。一方、営業利益はコロナによる景気減速から個人消費が回復したことなどを理由に、2021年12月期は24,879百万ドルまで増加しましたが、2022年12月期は半減の12,248百万ドルと大幅な減益で、最終利益も2,722百万ドルの赤字に転落しました。
この厳しい決算状況は、コロナ禍でEC事業の売上が大きく伸びた際に人員や物流拠点を急拡大したことが大きく影響しており、その後の人件費高騰やエネルギー価格をはじめとする物価の上昇によってEC事業の採算を悪化させることとなりました。
アマゾンは人員削減など大幅なコスト削減の対策を打ち出しているものの、物価高騰が続く現時点では大きく改善していません。当面の間は、物価高やエネルギー高などの影響を受けることが予想されており、EC事業の回復状況や急成長を遂げているAWS事業の業績推移などは注視が必要です。
次はアマゾンの株価推移についても確認しておきましょう。以下は、アマゾンの2019年以降の四半期末日の終値をまとめた表です。なお、アマゾンは2022年6月3日に1株を20株にする株式分割を実施したため、以下の株価は比較検証がしやすいように分割後の株価に換算したものを記載しています。
(単位:ドル)
3月末 | 6月末 | 9月末 | 12月末(期末) | |
---|---|---|---|---|
2019年 | 89.04 | 94.68 | 86.80 | 92.39 |
2020年 | 97.49 | 137.94 | 157.44 | 162.85 |
2021年 | 154.70 | 172.01 | 164.25 | 166.72 |
2022年 | 163.00 | 106.21 | 113.00 | 84.00 |
2023年 | 103.29 | - | - | - |
2019年3月末時点で89.04ドルだった株価は2021年6月末に約1.9倍の172.01ドルまで上昇しています。その後、厳しい業績見通しを受けて2022年6月末には106.21ドルまで急落しており、最終利益が赤字に転落した12月末には2019年3月末を下回る84.00ドルの水準まで下落しました。
2023年に入るとアマゾン株は再び上昇する動きを見せていますが、アマゾンの第1四半期決算が市場予想を上回ったことから、業績の回復が市場想定よりも早いとの見方が広がったことが理由の一つです。
一方、同決算では今後のアマゾンの業績を牽引すると見られていたAWS事業の伸びが鈍化しており、今後もEC事業の回復やAWS事業の伸びなど業績を睨んだ展開が続く可能性があります。
4 アマゾンの配当情報
アマゾンでは、創業者のジェフ・ベゾス氏が積極的な投資による企業価値の向上を優先させていたため、2023年6月10日時点で株主への配当を実施していません。米国株は高配当も特徴の一つですが、アマゾン以外にグーグル(GOOG)やメタ(META)も無配の企業です。これらの企業は総じて損益計算書上の利益にこだわらず、巨額の先行投資を実践することで大きな成長を遂げてきました。
これら無配の企業については配当金というインカムゲインが発生しないものの、売買益によるキャピタルゲインを狙うことは可能です。その際は1株当たり利益(EPS:Earnings Per Share)などが判断指標の一つとなります。
アマゾンの過去5期分のEPSは以下の通りです。なお、希薄化EPSは転換社債など普通株式に転換される可能性がある債券などが普通株式に転換されたと仮定して計算される1株当たりの利益(Diluted Earnings Per Share)です。
(単位:ドル)
決算期 | 2018年12月 | 2019年12月 | 2020年12月 | 2021年12月 | 2022年12月 |
---|---|---|---|---|---|
EPS | 1.03 | 1.17 | 2.13 | 3.30 | ▲0.27 |
希薄化EPS | 1.01 | 1.15 | 2.09 | 3.24 | ▲0.27 |
アマゾンが発表した2023年1~3月期の第1四半期決算では、EPS・希薄化EPSともに市場予想を上回る0.31ドルとなっており、これを好感して市場では一時アマゾン株が大幅に値を上げました。
キャピタルゲインを狙う取引では、企業の収益性と成長性を推し量ることができるEPSが重要な指標の一つとなります。無配の企業の株式などを取引する際はEPSにも着目し、投資検討されていくと良いでしょう。
まとめ
アマゾンは、1995年7月の事業開始から飛躍的な成長を遂げた企業であり、米国を代表する大企業の1社となっています。ESGやサステナビリティへの取り組みにも積極的で、世界的な大企業の立場から独自のESG活動を展開している企業でもあります。
一方、直近の決算ではEC事業のコスト増などが響き、売上高は伸びているものの最終損益は赤字という苦しい状況です。アマゾンは配当も実施していないため今後も利益を睨んだ株価の値動きが想定されることから、取引の際はEC事業の回復具合やAWSの利益率などに注意しながら投資判断を行うことも大切です。
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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