うま味調味料の「味の素」は、100年以上前に製品化され、広く親しまれてきました。その後も味の素社は調味料をコア事業としながら、参入市場を広げて成長し続けています。
さらに同社は「アミノサイエンス」というコンセプトを掲げ、今後は食品以外の領域での成長も見込んでいます。
この記事では「味の素」誕生のきっかけや、会社の成長、事業の重要コンセプトである「アミノサイエンス」について解説していきます。歴史ある大手企業の事例から、会社の成長について学んでみましょう。
※本記事は2023年10月26日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- 味の素の概要
- 「味の素」誕生のきっかけや成長の歴史
2-1.グルタミン酸の発見と「味の素」の製品化
2-2.成長と停滞からの復活と事業拡大
2-3.風評被害の払拭
2-4.近年のヒット商品 - 「アミノサイエンス」で人や環境へ貢献
3-1.アミノ酸のはたらきを生かしたアプローチ
3-2.医療など食品事業以外の領域へ - 味の素の将来の展望
- まとめ
1.味の素の概要
味の素は1909年創業と、114年に及ぶ歴史のある大手食品メーカーです。生産工場数はグローバルで117工場に及び、売上高は1兆3,591億円です(2023年3月期)。事業別の売り上げは、調味料・食品が7,750億円、冷凍食品が2,672億円、ヘルスケア等が2,996億円となっています。
参照:味の素「数字で見る味の素グループ」
味の素が展開している食品のブランド・商品の例は下記のとおりです。
カテゴリー | ブランドや商品 |
---|---|
うまみ調味料 | 味の素 |
和風だしの素 | ほんだし |
洋風スープの素 | 味の素コンソメ |
鶏がらスープの素 | 丸鶏がらスープ |
マヨネーズ | ピュアセレクト サラリア |
合わせ調味料 | Cook Do |
鍋つゆの素 | 鍋キューブ |
スープ | クノール |
甘味料 | パルスイート |
アミノ酸含有食品 | アミノバイタル、グリナ |
冷凍食品 | ギョーザ やわらか若鶏からあげ |
調味料を中心に、広範囲に商品を展開していることが分かります。スーパーやドラッグストアでよく見かける商品が多く、普段から料理に使っている方も多いのではないでしょうか。
2.「味の素」誕生のきっかけや成長の歴史
味の素の原点はうま味調味料の「味の素」で、現在も多くの一般生活者に使われています。「味の素」の製品化や成長の歴史を紹介します。
2-1.グルタミン酸の発見と「味の素」の製品化
昆布だしのうま味成分がグルタミン酸であることを発見したのが、池田菊苗博士です。きっかけは1907年に、博士の妻が持ち帰った昆布でした。池田博士は昆布を煮出して結晶化を試みる研究に没頭します。
池田博士はついに昆布だしから有機酸を結晶化させることに成功し、アミノ酸の一種であるグルタミン酸・うま味を発見しました。特許を持ってうま味を世に広めるため、池田博士が相談したのが、味の素創業者の2代鈴木三郎助です。
池田博士の「日本人の栄養状態を改善したい」という想いに共感した鈴木三郎助が、1909年にうま味調味料「味の素」を製品化したことで、味の素の歴史がスタートしました。
2-2.成長と停滞からの復活と事業拡大
1931年から、更なる量産と製造費の削減を目指し、味の素の原料を安価な大豆へ転換しました。製油会社や酒造会社も立ち上げ多角化を推進し、売上が大きく伸びていきました。しかし太平洋戦争によって輸入原料が途絶え、生産は縮小します。工場は被災し、本社ビルはGHQに接収されてしまいました。
終戦後に社名を改称し、社長も交代して新たな会社へと生まれ変わります。食糧不足で経営危機は続きましたが、アメリカからの原料配給による加工輸出から「味の素」の生産が再開しました。
1981年~1996年には、新規事業に積極的に進出するようになります。具体的には低カロリー甘味料アスパルテームで、医薬品事業へも進出しました。海外ではインスタントラーメンや飲料などの拡張を勧め、アメリカ・タイなどでも生産を開始しました。
2-3.風評被害の払拭
味の素はかつて「化学調味料」と呼ばれていたことから、風評被害に遭うこともありました。しかし、味の素社は国連関連機関などの見解も引用し、科学的エビデンスがないことを表明しました。
味の素は天然のさとうきびであり、絞って糖蜜をつくって発酵させます。発酵菌が糖分をグルタミン酸へ変化させ、使いやすくなるよう粉状にしたものが「味の素」です。
2019年からは料理研究家のリュウジさんにも協力してもらい、「味の素」を使った時短料理を多数紹介してもらう取り組みを行いました。YouTubeなどで大きな注目を集め、若年層の方にも知名度アップにつながっています。
2-4.近年のヒット商品
近年における同社の成長のトピックとして、新商品のヒットの事例を紹介します。「鍋キューブ」は1人分から作れる鍋の素で、一人のときも家族や友人と一緒のときも鍋料理が楽しめます。小さなキューブの中に調味料やだしが凝縮されて、1個あたり8gと軽量です。
単身世帯の増加などの背景もあり「鍋キューブ」は初年度10億円以上を売り上げ、その後も順調に売り上げを伸ばしています。
参照:PR TIMES「発売初年度10億円超えの売上をその後も順調に伸ばしている「鍋キューブ®」」
キューブに成分を固めすぎると溶けにくくなり、溶けやすさを重視するとキューブが崩れやすくなるため、バランスを保つことが難しくなります。その課題を解決したのが同社の定番商品である「味の素KKコンソメ<固形タイプ>」で、この技術を応用しながら工夫することで完成しました。
「鍋キューブ」などの事例について同社は「隣地拡大」と表現しています。調味料市場と親和性の高い新たな領域へチャレンジし、新市場の参入に成功した事例といえます。
3.「アミノサイエンス」で人や環境へ貢献しながら成長を図る
味の素社の打ち出している「アミノサイエンス」とは、アミノ酸によって得られる素材や機能、サービス等の総称です。
同社は「アミノサイエンス」によって人・社会・地球のWell-beingに貢献するとしながら、同時に自社の成長ドライバーとも位置付けています。
3-1.アミノ酸のはたらきを生かしたアプローチ
アミノ酸、またはアミノ酸によって得られる素材や技術には、食べ物を美味しくするはたらきや、消耗を回復するはたらき、体調を整えるはたらきがあります。味の素社は、アミノ酸のはたらきを生かして、食生活改善や高齢化による食と健康の課題解決を目指しています。
アミノ酸には、具体的に以下のような働きがあります。
呈味機能 | 食べ物の味を決めて美味しくする |
栄養機能 | タンパク質がアミノ酸に消化され、成長・発育・疲労回復を助ける |
生理機能 | 体調の維持・回復をサポートする |
呈味機能の体表格がグルタミン酸で、そのうま味が食べ物を美味しくすることは広く知られています。グルタミン酸は、昆布・醤油・味噌・チーズ・トマトといった食品に多く含まれています。
アミノ酸の栄養機能とは、タンパク質がアミノ酸に消化され、筋肉や骨などの材料やエネルギー源になることです。アミノ酸は成長や発育はもちろんのこと、疲労回復や生命維持にも欠かせません。
健康維持でもアミノ酸は注目されています。アミノ酸の一種であるグリシンは、就寝前に飲むことで深い睡眠を促します。味の素社のサプリの「グリナ」はグリシンを配合し、睡眠の質向上をサポートします。
3-2.医療など食品事業以外の領域へ
アミノサイエンスには、アミノ酸を電子材料や医療事業に応用する取り組みも含まれます。これらの事業は急速に伸びており、2023年度は全体の利益の4割ほどがアミノサイエンス事業になる見込みです。
医療事業の例として「アミノインデックス」という健康診断サービスがあります。血液中のアミノ酸の濃度バランスを測定することで、ガン・糖尿病・脳卒中・認知機能低下などのリスク評価が可能です。
参照:日興フロッギー「「アミノサイエンス」を無限に広げる会社、味の素【前編】」
4.味の素の将来の展望
味の素社はアミノサイエンスによって、これまでの食料事業を核としながらも、新たな領域での成長を図る方針です。同社によると、2030年には食品事業とアミノサイエンス事業がほぼ同規模になる見込みです。
2023年6月に開催された事業説明会では、アミノサイエンス推進による持続的成長がトピックとして挙げられました。アミノサイエンスの領域としてヘルスケア・ICT・フード&ウェルネス・グリーンの4つの成長領域へとシフトし、高収益かつユニークで強固な事業構造にすることを目指しています。
今後の成長で特にカギを握るのが、ICTとヘルスケアです。ICT領域の製品は半導体パッケージ用の「味の素ビルドアップフィルム(ABF)」です。半導体の進化とともにABFの使用量も増加し、同社の成長ドライブとなることが期待されています。
5.まとめ
味の素の誕生のきっかけや成長、現在の味の素社の取り組みについて解説しました。調味料をコア事業として成長を続け、近年でもヒット商品を生み出しています。
同社は「アミノサイエンス」を本格推進し、今後はICTやヘルスケアといった新たな領域でも成長を図る方針です。調味料に次ぐ事業の柱となれるのか、今後に注目です。
食品メーカーでは、国内の食品市場が頭打ちということもあり、成長を求めて新領域へ進出するケースも見られます。食品事業で培った強みを他の領域でどう生かすのか、魅力的な製品・サービスをリリースできるのかが重要でしょう。
安藤 真一郎
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