米製薬大手イーライ・リリー(ティッカーシンボル:LLY)は7月27日、肥満症治療薬「チルゼパチド」の第3相試験(後期臨床試験)で患者の体重が平均で26%減少したと発表した(*1)。肥満症治療の市場が急成長する中、同市場をリードするデンマークのノボ・ノルディクス(NOVO-B)は29日、競合薬の「ウゴービ(一般名:セマグルチド)」をドイツで販売を開始した。
リリーによると、第3フェーズで最も体重減少効果が高かったという。今回の臨床結果を受け、各国当局より承認を得られれば、既に欧米で実用化され、爆発的に需要が拡大するウゴービよりも選好される可能性がある。
今回リリーは2つの治験(SURMOUNT-3、-4)を行った。SURMOUNT3は、12週間の低カロリーの食事、運動、週次のカウンセリング後、72週にわたりチルゼパチドを皮下投与した。SURMOUNT4は88週間チルゼパチドを投与した。いずれも平均で26%の体重減少が確認された。また、両治験に共通した副作用として、軽度から中等度の胃腸障害が現れた。
チルゼパチドは、週1回皮下投与するGIP/GLP-1受容体作動薬だ。GIPとGLP-1は、食事を摂ると小腸から分泌されるホルモン(インクレチン)で、食事によって血糖値が上昇した時のみ働く。GLP-1受容体は膵臓のほか、胃、脳にも存在しており、チルゼパチドを投与することで、血糖値を下げるだけでなく、体重管理にも有効となる。
リリーは肥満の治療が関連疾患の費用抑制に繋げるべく、心臓疾患や睡眠時無呼吸症候群、慢性腎臓病などについて、チルゼパチドなど自社治療薬の研究を行っている。
2022年5月には、米食品医薬品局(FDA)がマンジャロ(一般名:チルゼパチド)を、2型糖尿病を有する成人の食事療法および運動の補助療法としての血糖改善の適応で承認した。リリーは2型糖尿病治療薬として開発したチルゼパチドを肥満症治療薬として応用する。ちなみに、日本ではリリーの提携先である田辺三菱製薬がマンジャロを販売している。
米国立衛生研究所(NIH)によると、成人の5人に2以上が肥満(BMIが30以上)だという(*2)。肥満症治療薬の世界市場は、2022年の25億ドルから28年は111億ドル超と4倍強拡大する見込みで(*3)、21年から28年の年平均成長率(CAGR)は30%を超える見通しだ。
臨床試験で減量効果が確認され、億万長者のイーロン・マスク氏やハリウッドのセレブなどがウゴービを使用していることもあり、肥満治療薬は世界的に注目を浴びている。
ウゴービの販売が開始されたドイツは、欧州最大級の医薬品市場で欧州ではデンマーク、ノルウェーに次ぐ一大市場だ。ただし、公的医療保険の適用除外のため、殆どが自費となる見込み。CNBCによると、ドイツでは1ヵ月当たりのウゴービのコストは170~300ユーロ(約2万7,000円~4万7,000円)になるという(*4)。
ただし、チルゼパチド、ウゴービ(セマグルチド)共に副作用があり、美容やダイエット目的のやせ薬ではないことに留意したい。ウゴービの場合、2型糖尿病を有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、さらにBMIなどで一定の条件に該当する場合に使用が限られる。
世界保健機関(WHO)も、体重減少効果の薬は肥満症対策となる特効薬として見なすべきではなく、食事療法・運動療法と組み合わせて取り組む必要があると指摘する。
【参照記事】*1 イーライ・リリー「Tirzepatide demonstrated significant and superior weight loss compared to placebo in two pivotal studies」
【参照記事】*2 米国立衛生研究所「Overweight & Obesity Statistics」
【参照記事】*3 エバリュート「WORLD PREVIEW 2022 Outlook to 2028:Patents and Pricing」
【参照記事】*4 CNBC「Weight loss drug Wegovy has launched in Germany — but users across Europe face a long and costly wait」
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