太陽光パネル大手の米ファースト・ソーラー(ティッカーシンボル:FSLR)は7月27日、米国で5ヵ所目の新工場を建設するために、最大11億ドル(約1,600億円)を投じる計画を発表した(*1)。米史上最大規模の気候変動対策となるインフレ抑制法(IRA)を活用し、国内で生産能力の拡大を目指す。
この投資により、ファースト・ソーラーの米国製太陽光パネルの生産能力は、新工場(年産3.5ギガワット(GW))が稼働する予定の2026年までに年間14GWへ拡大する見込みだ。同社は既に28億ドルの資金を投じ、オハイオ州の既存工場の増強やアラバマ州の工場新設などを通じて生産能力の拡大を図ってきている。
それでも膨れ上がる需要に対応しきれず、23年4月には、太陽光モジュールの受注残が71.6GWに達し、26年までに完売する見通しであることを明らかにしていた。
ファースト・ソーラーが米国での工場建設を推し進める背景には、米バイデン政権のIRA成立がある。IRAの下で4,370億ドルを歳出する。エネルギー安全保障と気候変動の分野が最大の投資分野であり、3,690億ドルを割り当てる。
太陽光パネル、風力タービン、蓄電池、重要鉱物処理の生産税控除に10年間で306億ドル投じる(*2)。さらに、生活者が住宅に再生可能エネルギーを導入する際にも10年間で220億ドルの税控除を実施する計画であり、再エネ電力の普及拡大を含め、太陽光パネルの需要が大幅に高まる見込みだ。
米クリーン電力協会は、IRAは米国でのクリーンエネルギー工場の建設を誘致し、法案が成立した1年ほど前から1,500億ドル超の資金を呼び込んだと試算している(*3)。ゼネラル・モーターズ(GM)やフォードなども、電気自動車(EV)用電池製造工場を建設する計画である。
ファースト・ソーラーは、カドミウムテルル(CdTe)型化合物系太陽電池を生産し、薄膜パネルを製造・販売する米最大手だ。同社は22年の世界のメーカー別太陽光パネル出荷量において世界10位と、唯一、上位10社に食い込んだ米国企業である(*4)。ただし、1~9位は中国企業であり、太陽光パネル市場は中国が席捲している。
ファースト・ソーラーとしては、製造業の国内回帰を目指すバイデン政権の政策と歩調を合わせ、IRAの恩恵を受けながら生産能力および業績の拡大を図る狙いだ。
【参照記事】*1 ファースト・ソーラー「American Solar: First Solar to Invest up to $1.1 Billion in Fifth US Manufacturing Facility, Adding 3.5 GW of Nameplate Capacity in 2026」
【参照記事】*2 電力中央研究所「米国「インフレ抑制法」における気候変動関連投資」
【参照記事】*3 米クリーンエネルギー協会「NEW REPORT: Five Years’ Worth of Clean Energy Investments Announced in Less Than Nine Months」
【参照記事】*4 米エネルギー省「Quarterly Solar Industry Update」
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