公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)は10月13日、地球環境の現状を報告する「生きている地球レポート2022」を発表した。生物多様性の豊かさを測る数値が1970~2018年の過去約50年間で69%減少している最新の報告をふまえ、気候と生物多様性の両方の危機を同時解決する変革の重要性と、ビジネスや政治のリーダーによる喫緊の対策の必要性を訴えている。
レポートでは、自然と生物多様性の健全性を測る指標「生きている地球指数(LPI)」が用いられている。地球全体の脊椎動物(哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類)の個体群で構成される指標で、近年は継続的な減少が続く。最新報告では、1970 年から2018 年の間に平均69% 減少。今回のLPIは5230種、約3万2000個体群という過去最大のデータを基に、ZSL(ロンドン動物園協会)と共に調査。その結果、最も深刻な打撃を受けているのは世界の淡水域の野生生物個体群で、LPI は平均83% 減少していた。
地域別では、最も減少率が大きかったのは中南米(94%)で、次いでアフリカ(66%)、アジア・太平洋(55%)、北米(20%)、ヨーロッパ・中央アジア(18%)と続く。
世界中で野生動物の個体数が減少している主な要因として、WWFは「生息地の劣化と損失、乱獲、外来種の持ち込み、汚染、気候変動、疾病」を挙げる。その上で、生物多様性の損失は「農林産品の供給を維持して温室効果ガスを吸収する生態系の能力をさらに低下させる。気候と生物多様性の危機は相互に影響し合って悪化するため、同時解決が重要」と気候変動と生物多様性の解決を併行させる手法を説く。具体的には、特定の地域の貴重な陸上・淡水・海洋生態系を守ったり、森林破壊を防いだりするような地域ベースでの保全活動と、生産や消費のあり方を「根本から変革するような」対策を組み合わせていく手法だ。
現在、地球の「バイオキャパシティ」に対して「エコロジカル・フットプリント」は75% も超過しており、WWFは「人類は地球1.75個分に相当する自然資源を過剰に消費。人類は生態系に過剰に依存し、地球環境を維持する生態系サービスを乱用」と警鐘を鳴らす。
この解消には、2030年までに生物多様性の損失を反転させ、ネイチャー・ポジティブな世界を確立することが不可欠とする。これまでの生産・消費、政策決定、金融における仕組みを根本から戦略的に変革していくことが求められる。このため、政府、企業、社会の指針となる共通の生物多様性の回復を目指す世界目標の国際合意が必要だとレポートは結んでいる。
WWFジャパン自然保護室生物多様性グループ長の松田英美子氏は「11月、国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)がエジプトで開催される。気候変動は、生物多様性損失の5大要因のひとつで、近年、国際的な気候関連議論においても生物多様性への配慮が大きく取り上げられている。気候変動と生物多様性の損失は表裏一体。統合的なアプローチによる両課題への解決策が強く求められいる」とコメント。2030年の生物多様性枠組みの合意を目指す姿勢を示した。
企業活動と生物多様性の分野で知られる株式会社レスポンスアビリティ代表取締役の足立直樹氏はレポートについて「不運な生きものたちや地球の現状を案じるのではなく、このままでは私たちの生活が立ち行かなくなるという警告」と説明。「解決にはこれまでのような自然保護だけでは不十分で、経済の仕組みを変える必要がある。経済や金融システムを変える動きはもう始まっており、それに乗り遅れれば企業は競争上不利になる」と経営者としての視点でメッセージしている。
【参照レポート】生きている地球レポート2022(英語版フルレポート全訳)
【関連サイト】WWFジャパン「生きている地球レポート2022」ウェブサイト

HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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