【COP26閉幕】パリ協定ルールブックは完成するも、『1.5度目標』で日本に大きな課題。WWFジャパンが総括

※ このページには広告・PRが含まれています

COP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議、会期10月31日~11月13日)の閉幕を受け、公益財団法人世界自然保護基金(WWF)ジャパンは開催地のイギリス・グラスゴーからの速報報告を発表。COP26の議論を総括している。

今回の会議では大きく分けて2つの成果が求められていた。1つ目は、「パリ協定」が目指す世界の平均気温の上昇を「2度より充分低く保ち、1.5度に抑える努力を追求する」ため、明らかに足りていない各国の取組み強化を打ち出せるかどうか。2つ目は、パリ協定の「ルールブック」議論の中で、最後まで積み残された、「市場メカニズムのルール」などの議論について結論を得ることだった。

会議直前に発表された国連報告書では、各国が掲げる2030年削減目標を達成したとしても、世界全体の排出量は30年に10年比で13.7%も排出量は増加、このままでは、世界の平均気温は2.7度上昇してしまうという警鐘が鳴らされた。危機感の中で開催されたCOP26では、会期中に各種の研究機関が、もし各国が長期で掲げているネットゼロ目標に真剣に取り組めば、気温上昇を1.8~1.9度に抑えることが可能になるという試算を出す一方、現状の政策や30年目標は全くそれに合致していないことも示した。今回のCOP26でが、温室効果ガス排出削減強化に向けて明確なメッセージを出せるかが焦点となっていた。

COP26で採択された諸決定のうち、議題全体に関わる重要な「カバー決定」は、削減目標の強化にかかわり、大きく2つのメッセージを出している。1つは、世界の目標としての「1.5度」の強調。15年に採択されたパリ協定はその第2条で、世界全体の目標を「平均気温を2度より充分低く保ち、1.5度に抑える努力を追求する」と定めている。しかし、その後の科学的知見の積み重ねで、気候危機の被害を最小限に抑えるためには、1.5度に抑えることが「より重要」という認識に移りつつある。WWFジャパンは「今回は、世界的潮流を反映し、カバー決定もこの1.5度に抑えることの重要性を『認識』した決定となった。世界の気候変動対策の基準が、事実上『1.5度』にシフトしたことを示す」と指摘する。

もう1つは、継続的な「2030年目標の見直し」。COP26に合わせ、多くの国が、既存の2030年目標の見直しを行い、強化してきた。日本もそのうちの1つだ。しかし、まだできていない国もあることに加え、強化された目標を反映したとしても、「1.5度」に抑えるという目標には届かないことが分かっている。このため、カバー決定は、22年末までに、2030年目標を「再度見直し、強化すること」を各国に要請する内容となった。次回のCOPの場では、そのための閣僚級会合を開催することも同時に決め、世界のリーダーたちに、今一度、削減目標の強化を求めていく流れとなる。

「今回のカバー決定で、もう一つ特筆すべき、異例の措置となった」とWWFジャパンが挙げるのは「対策のされていない石炭火力を減らし、非効率な化石燃料補助金の廃止」を呼びかけたこと。両者とも、これまでのG7やG20の際の文言を踏襲しつつ、途上国の事情を考慮したものだが、各国の個別の政策に関わる事項は避けたがる国連の場で、こうした特定の燃料の廃止を呼びかけることは異例であり、「これらの廃止が気候変動対策にとって必須の条件であることの認識が世界的に広がった」と評価する。

一方、「少し残念な結果」としているのが、約束期間の長さについての決定。25年に各国が提出する目標が、2035年目標になるのか、2040年目標になるのかを決めることが予定されていたが、仮に低い目標になってしまった場合、40年までそれが固定されてしまうこと避ける意味では、2035年目標でそろえていくことが望ましいと環境NGOは考えていたが、実際は「奨励する」という表現にとどまった。

「削減目標の強化」は、気候危機への対応として必須だが、すでに顕在化している気候危機の影響へどう「適応」していくのか、そして、削減対策(「緩和」対策)や適応対策に必要な資金を、特に途上国に対してどう支援していくのかという課題がある。

もう一つ、今回、気候変動の影響に特に脆弱な島嶼国や後発開発途上国がこだわった問題がある。それが「損失と被害(loss and damage)」と呼ばれる争点で、これは、気候危機の影響の中で、すでに適応しきれず、被害が発生してしまった事象への支援をどのように行っていくのかという論点だ。

パリ協定採択の時から、この課題の重要性は認識されていたが、気候変動の被害に関する「補償」を問う問題となることを恐れる先進国が強く反発、これまでは議論を行うこと自体に忌避感があったとWWFジャパンは指摘する。しかし、今回は、気候危機がすでにそこにある危機である認識が広まったためか、少なくとも議論をすることについてはこれまでほどはタブー視されず、会議冒頭でも、スコットランド政府が初めて「損失と被害」向けの自主的な支援を発表するなどの動きが注目される。

パリ協定が採択されてから、本来は実施のために必要なすべての詳細なルールブック(実施指針)は18年に合意されるはずだった。しかしいくつかのルールが紛糾して持ち越され、6年が経過。中でも最も主要なものはパリ協定6条市場メカニズムだ。CO2の排出枠を「クレジット」として市場で取引する仕組みが主で、2国間で取引するもの(6条2項)と、国連主導型で取引するもの(6条4項)の2つがある。日本が途上国との間で進めている2国間クレジット制度(日本と対象国の2国間で削減プロジェクトを実施し、CO2削減量を2国間で分け合う制度)はこの6条2項に含まれることになるため、日本としても合意にこぎ着けたいところだった。今回は議長国イギリスの強いリーダーシップもあり、残ったルールもすべて合意され、パリ協定は完成した。

WWFジャパンの小西雅子専門ディレクター(環境・エネルギー)は「COP26で、2度未満の長期目標から1.5度をメインにすることが鮮明になり、2030年に45%削減(2010年比)、2050年にゼロにすることも明記された。これは協定が最新の科学にしたがって新しい進化を遂げたことを意味しており、今後の世界経済が2050年脱炭素社会に向かうことが規定されたと言っても過言ではない」と前進を評価する。一方で、パリ協定は完成したが「これはまだ国内の温暖化政策の乏しい日本に大きな課題を突き付けている。まだ明示的なカーボンプライスが存在しない日本、世界共通のカーボン取引市場が立ち上がる中、遅れているカーボンプライシングの導入を早急に実施し、電力の脱炭素化を現実的なタイムラインで進める必要がある。1.5度の世界に向かって、日本は大きな宿題を抱えている」と指摘した。

【参照記事】WWFジャパン「COP26閉幕!「グラスゴー気候合意」採択とパリ協定のルールブックが完成」

The following two tabs change content below.

HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

HEDGE GUIDE 編集部 ESG・インパクト投資チームは、ESGやインパクト投資に関する最新の動向や先進的な事例、海外のニュース、より良い社会をつくる新しい投資の哲学や考え方などを発信しています。/未来がもっと楽しみになる金融メディア「HEDGE GUIDE」