国際環境NGOの世界自然保護基金(WWF)は1月16日スイス・ダボスで開幕した「世界経済フォーラム(ダボス会議)」で、企業や金融機関を対象とした「生物多様性リスクフィルター(BRF)」を発表した。企業や金融機関が、自社のビジネスやサプライチェーン、また投資先の事業などに、生物多様性に関連したリスクが無いかをチェックし、対策を講じるための新しいツール。WWFはこれを無料のオンラインツールとして公開し、必要とされる投資やビジネスモデルを提供することで、2022年12月に合意された「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」の目標達成を目指す。
22年12月に開催された国連生物多様性条約の締約国会議(CBD-COP15)で、各国政府は新たな生物多様性保全のための国際目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」に合意した。30年までに生物多様性の損失から回復に転換(ネイチャー・ポジティブ)し、世界の国々、企業、自治体などが協力するという趣旨。
大規模な概念だけに、国家や企業、行政がそれぞれ、どのように実践していくのか議論が必要だ。特に関心を集めるのが「世界経済と金融システムの貢献」というテーマ。世界経済フォーラムによれば、実際、世界のGDPの50%相当の44兆米ドルは、全ての自然環境、そして生物多様性に高く依存しており、その危機はあらゆる産業部門の企業や投資家にとって、大きなリスクとされる。昨年12月には、52ヶ国 330以上の企業と金融機関(総収入1.5兆ドル以上)が、すべての大企業および金融機関は、30年までに自社の生物多様性への影響と依存度を評価し、開示すること義務付けるよう、各国の政治リーダーに対し要請した。しかし、生物多様性リスクにどう対応すればよいのか、そもそも自分たちの行動が自然にどのような影響を与えるのか、企業も投資家も十分に理解、把握しているとはいい難い。
そこでWWFは、企業や金融機関に対し、生態系保全とビジネスの観点から、森や海、河川流域などの自然環境に対する空間的な理解を促進し、投資やビジネスモデルの検討に必要な課題や優先性を判断するツールとしてBRFを開発した。
基盤となっているのは、生物多様性に関連する50以上のデータ群であり、生物多様性に関連した世界的かつ総合的なリスクについての情報を提供している。基盤となっているのは、WWFやIUCN(国際自然保護連合)などが提供する生物多様性に関連する50以上のデータ群。種(野生生物)や生態系、保護地域、森林破壊、生息地の破壊、汚染、農業のための土地利用変化など、生物多様性損失に関与するさまざまな情報が含まれている。
これを活用することで、企業は自社のバリューチェーン上などにおいて、生物多様性に関連するリスクと機会を把握し、科学的根拠に基づくアプローチを実施することが可能になる。また、投資家に対しても、最も生物多様性リスクを軽減できる分野やビジネスに向けた優先的な投資を促す手立ての一つとなると期待されている。企業や金融機関が抱える生物多様性に関するリスクを分析する、このような多様なデータを集めたプラットフォームの提供は、世界初の試み。
また、このツールは、民間セクターによる持続可能なビジネスと投資の拡大を支援し、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)、科学的根拠に基づく目標ネットワーク(SBTN)、国連の持続可能な開発目標(SDGs)を含む、グローバルな枠組みに対する企業や金融機関のコミットメントとエンゲージメントをサポートする役割も担う。
【関連サイト】Biodiversity Risk Filterのサイト(英語)

HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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