水素は脱炭素の最有力手段か、バブルか。シュローダーが市場の成長性を解説

再生可能エネルギーとしての水素(Hydrogen)が世界的に注目を集めている。SDGs(持続可能な開発目標)や二酸化炭素ゼロ排出の達成のため、風力や太陽光などの代替可能エネルギーの次に来るクリーンエネルギー源として先進国の政府や企業が関心を寄せる。将来は化石燃料に代わる電力、燃料といった主要エネルギー源になることが期待され、EU(欧州連合)は現在、産業、輸送、暖房の脱炭素化を支えるに足る強じんな水素産業を構築するため、20年7月には域内の水素戦略を発表し、2030年までに少なくとも40GWの再生可能水素電解槽を設置、1000万トンの再生可能水素を製造するという目標を掲げている。日本でもトヨタ自動車株式会社が新型の燃料電池車「ミライ」を2020年12月に発売、14年に発売した初代から水素の搭載量を約20%増加して自動車燃料の水素利用で先べんをつけた。資産運用大手のシュローダーは2月8日付のレポート「シュローダー・インサイト」で、市場の成長性に関する考察している。

2020年、水素と、関連銘柄の株価は軒並み好調を博した。熱狂の背景には何があるのか?「誰もが水素について話している理由とは」のタイトルで、グローバル株式リード・ファンドマネジャーのサイモン・ウェバー氏は提起する。現状、水素をめぐっては「再生可能エネルギーは発電の脱炭素化を、再生可能エネルギーと燃料電池は自動車セクターの脱炭素化を可能にし、将来的にその実現を後押しする。これらの技術は航空、輸送、商用車、製鉄、肥料分野ではそれほど有望視されていないが、水素は、これらの重要産業において脱炭素化に向けて必要不可欠であり、少なくとも最有力手段の一つになる様相を呈している」と指摘。

水素は燃焼機関やボイラーで燃焼させて輸送機関や暖房設備に用いられるほか、燃料電池に充電して輸送機関や暖房設備に、さらに鉄鉱石を製鉄する際の還元剤としても使用される。なんといっても「夏季のあり余る太陽エネルギーから水素を生成し、冬季まで貯蔵して必要時に電力に戻す蓄電媒体としても機能する。いずれの方法も、既存のエネルギー源と比較して二酸化炭素排出量の大幅な低減または実質ゼロに寄与する」というから、期待値が高まるのは当然といえるだろう。

水素は、石油精製時のアンモニア生成や窒素肥料の生産といったいくつかの大規模な工業プロセスですでに活用されているが、暖房や工業、輸送、エネルギー貯蔵などでその潜在能力を最大限発揮しようとするなら、現在の水準の7~10倍規模の生産・消費量が必要になると試算される。各種企業とエネルギー事業者で構成されたコンソーシアム、Hydrogen Council(水素協議会)の想定では、これらの利用法が実用化された場合、エネルギー会社や産業技術会社にはグリーン水素製造施設の建設と運営についてビジネスチャンスが期待できるほか、水素電解槽に供給するために新たに数百ギガワットの再生可能エネルギー発電能力を構築する必要もある。

「おそらく最もシンプルに予測できるビジネスチャンスあるいは投資機会」は、電解槽の増設によって装置市場のシェアを伸ばせる企業の成長だ。水素電解装置の現在の売上規模は極めて小さく、2020年時点ではおよそ2億5000万ドル程度にとどまっている。「すべての関連産業を世界的に脱炭素化するために必要なレベルまでグリーン水素の供給能力を高めるには、建設ピーク時には水電解装置の年間売上規模を250億ドル程度まで拡大する必要がある」とウェバー氏は示す。

仮題は製造コストだ。現時点で再生可能水素は化石燃料水素に比べてかなりのコスト高だが、この状況は2030年までには再生可能水素が最も安価な製造法に転じると同社は予測する。電気自動車(EV)、あるいは再生可能エネルギー自体の5~10年前の状況とよく似た現象が起こった。

では、グリーン水素市場の成長性はどうだろうか。「炭素回収・貯留技術が実現可能な解決策の一つであるという天然ガス業界の主張に、政策立案者が納得するか次第」と同氏は明言する。天然ガスから水素を製造し、その過程で生じる二酸化炭素を地中貯留する方法が再生可能エネルギーを使った水素と比較してコスト優位性を維持する可能性はあるが、現時点でこの製造法を大規模に行っている事業者はなく、数百億トン規模の二酸化炭素の地中貯留にはさまざまな法的、環境的問題が伴う。再生可能エネルギー由来水素の製造は、スケールメリットと再生可能エネルギーコストの低下傾向を追い風に劇的な低コスト化が見込まれ、そのため今後10年内にグリーン水素が化石燃料由来水素を凌駕する可能性はかなり高いと考えられる。

規模としては「現在の水素市場におけるグリーン水素の割合がわずか1%であることを踏まえると、その潜在能力は極めて大きい。2050年に現在の8倍に拡大した水素市場のシェア100%を獲得するというベストシナリオの場合、グリーン水素の製造量は現在の800倍にも及ぶ」という。

EU(欧州連合)は現在、ゼロエミッション経済へのシフトに向けた域内の水素戦略として、2030年までに少なくとも40GWの再生可能水素電解槽を設置、1000万トンの再生可能水素を製造するという目標を掲げている。試算によると電解槽の設置・増強のために2030年までに240~420億ユーロの資本投資が必要だ。

同氏は「すべての関連産業を世界的に脱炭素化するために必要なレベルまでグリーン水素の供給能力を高めるには、建設ピーク時には水電解装置の年間売上規模を250億ドル程度まで拡大する必要がある。大手水電解装置メーカーは世界にほんの数社しかなく、ある程度の新規参入は予想されるが、それほど単純な技術ではなく、すでに実績のあるメーカーが開発者やエネルギー事業者との提携を急速に進め、顧客との関係を構築している。結果、スケールメリットが生まれ、さらなるコストダウンが期待される」とコスト面の改善を考察し、レポートをしめくくっている。

【関連サイト】シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社

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HEDGE GUIDE編集部 ESG投資チーム

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