シュローダー・インベストメント・マネジメント(シュローダーIM)株式会社が7月15日に公開したレポートで、グローバル株式ファンドマネジャーのキャサリン・デヴィッドソン氏は金融市場では「ESG(環境・社会・企業統治)の価値評価がいまだ非効率」と指摘、投資家がESG情報を生かすための姿勢を示唆している。
シュローダーIMは「ステークホルダーを軽視する企業は投資家にとって大きなリスクとなる」という見解を持っており、これに関する実証研究の数は少ないが、バージニア大学の最新の発表では、環境への悪影響、差別、就業環境における安全・衛生に関する問題、地域社会との対立的関係性、反競争的行為など、よりマイナーなESG事件(インシデント)を検証することでデータセットを広げている。米国の上場企業では2007~2017年の10年間に8万件ものインシデントが確認されており、論文は、過去のインシデントと将来の業績や株価の推移には明確な相関関係があるとしている。
インシデント発生率が高い株式ポートフォリオはリターンが低く、セクターエクスポージャーやその他のリスクファクターを加味した場合でも、幅広い市場と比較してリターンは年間でおよそ3.5%下回った。同社は「これは欧州市場でも成立し、同様のポートフォリオが年間2.5%、市場平均を下回る計算になる」としている。「比較的小さなインシデントでもそれは内部統制の弱さや企業文化の問題の兆候かもしれず、将来、同じ企業でこうした事象がさらに起きる可能性を否定できない。だからこそアナリストは『インシデントを起こしやすい』企業の持続的な収益力を過大評価しがち。その結果、その後の業績の下方修正、リターンの低下に直面することになる。また、アナリストは小さなインシデントを調査する傾向にあるため、大きなインシデントに不意を突かれやすくなる」と」と警鐘を鳴らす。
レポートは続けて、サステナブル投資への関心が急速に高まる一方で「金融市場はいまだ、短期的収益に明確な影響がない場合は特に、ESG情報の価格設定が不十分」と指摘する。正しい姿勢として「過去のデータやインシデントがその企業の文化や統制について何を物語っているのか、入念にひも解く必要がある」と念を押す。短期的視点の投資家の割合が高い銘柄はインシデントが起きた場合の負の反応が最も大きくなる。原因として、このような投資家は企業の長期的収益力に対するESG実績の影響を軽視する傾向にある。長期投資家は将来の論争を予測し、リスクの高い銘柄を適切に売却している」と、中長期的な視点を持つことの大切さを改めて説いている。
それでは、投資家がESG情報を活かすにはどうするべきだろうか。「論争を見定める時には近因ではなく根本的な原因に目を向けるべき」とレポートは示唆する。例えば、リコール問題が起きた場合は、その細かな内容よりも、それがビジネスの拡大を優先し、品質管理を犠牲にした文化を示唆していないかの方が重要となる。論争の後は、インシデントの再発防止のために行った改善を実証するよう企業に求め、説明責任を果たすよう要求しなくてはならない。そして、ポートフォリオを構築する際、他のすべての条件が同じであれば「改善中」に分類される企業は、リスクの高さと長期的収益力の不確実性を反映させ、保有ウェイトを下げる必要がある」としている。
同社は、ステークホルダーを軽視する企業は投資家にとって大きなリスクとなるという「企業の因果応報」と、企業の因果応報がなぜ投資リターンに大きく影響するのかを強調してきた。ステークホルダーに配慮する企業は、顧客によるボイコット、ストライキや職場放棄、訴訟、規制、環境災害、労働災害などの論争に陥る可能性が低くなり、すなわち、ポートフォリオのリスクが低下するというロジックだ。
【関連サイト】シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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