超小型原子力発電所ラスト・エナジー、シリーズBで59億円調達。26年にマイクロリアクター稼働目指す

超小型原子力発電所の開発を手掛けるラスト・エナジー(Last Energy)は8月29日、シリーズB(資金調達ラウンド)で4,000万ドル(約59億円)を調達したと発表した(*1)。調達資金を元手にチームを拡大してプロジェクト開発に投資し、2026年の稼働を目指す最初のマイクロリアクターの導入を目指す。

今回の投資ラウンドには、ベンチャーキャピタル(VC)のGigafund、オートデスク財団、ファミリーオフィスが参加した。今年初めに完了したこのラウンドにより、19年の創業以来、調達総額は6,400万ドルに達している。

ラスト・エナジーは資金調達に合わせ、小型モジュール原子炉を80ユニット建設する契約を締結した。23年に34ユニットの契約を発表し、24年には50ユニットの契約を開始している。同社は非常に野心的な目標を掲げており、今後15年間で1万ユニットの建設を目指す。

ラスト・エナジーは、原子力業界が注力してきた炉物理研究ではなく、高スループットで製造する可能性を見出すことに集中することで差別化を図っている。マイクロスケールで、完全にモジュール化され、大量生産可能な20MWeプラントを建設することにより、ユニットの展開にかかる時間とコストを大幅に削減する。

PWR-20と呼ばれるラスト・エナジーの発電所は、レゴのように数十個のモジュールを組み合わせて構成する。PWR-20は、24か月以内に製造、輸送、組み立てができるように設計されており、産業用向けのサイズとなる。

同社の開発モデルでは、送電網のアップグレードに必要な10年単位の開発スケジュールを回避し、顧客の敷地内でプラグアンドプレイ式の発電所を所有・運営する。

ラスト・エナジーの契約のうち、80ユニットのうち39ユニットは、データセンター開発者向けに建設される。人工知能(AI)やクラウド・コンピューティングのようなサービスには、エネルギー集約的な需要がある。データセンターは24時間365日クリーンなベースロード電力へのアクセスを確保するため、原子力開発への投資を増やしている状況だ。

マイクロリアクターは、再生可能エネルギーよりもかなり大きなエネルギー容量を、低コスト、必要最小限の土地、貯蔵機能への投資なしに提供できる。

同社は24年4月、データセンター関連のカンファレンスdata Center Worldでモジュール式原子炉のプロトタイプを展示し、業界幹部と米国の政策立案者向けにデモンストレーション・イベントを実施した。

同イベントにおいて、マイクロリアクターの試作品がワシントンDCで初めて展示された。ラスト・エナジーは25年に新たに2ユニットのプロトタイプの公開を予定している。

同社は2023年8月以降に31名の新規雇用を行い、70名のフルタイムスタッフを擁する。過去1年間に、安全性とライセンス分野のグローバル責任者や、ポーランド・ルーマニア・英国の規制担当責任者、英国子会社であるラスト・エナジーUKの最高経営責任者(CEO)などを迎え入れた。

ラスト・エナジーのブレット・クーゲルマス創業者兼CEOは「データセンターは脱炭素化を可能にする技術を必要としている。原子力は紙の上ではすべてを満たすことができる唯一の資源であるが、実際には原子力開発がより速く、より手頃な価格になって初めて実現可能となる。弊社は原子力発電所を小型化、モジュール化、製品化することによってそれを実現しようとしている」と述べた(*1)。

【参照記事】*1 ラスト・エナジー「Last Energy Announces $40M Series B, Accelerates Deployment of First Microreactor

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フォルトゥナ

日系・外資系証券会社に15年ほど勤務。リサーチ部門で国内外の投資家様向けに株式レポートを執筆。株式の専門家としてテレビ出演歴あり。現在はフリーランスとして独立し、金融経済やESG・サステナビリティ分野などの記事執筆、翻訳、および資産運用コンサルに従事。企業型DC導入およびiDeco加入者向けプレゼンテーション経験もあり。
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