JPモルガンが仮想通貨の技術、実用性、課題をまとめた71ページにも及ぶレポートを発表した。その内容は膨大だが、なかでも同社が仮想通貨の未来について分析した箇所は注目に値する。
同レポートでは、中核技術であるブロックチェーンを活用した支払いシステムには期待を寄せているものの、仮想通貨が合法的な取引において中央銀行の発行する法定通貨と競合する未来はないと見ている。したがって、仮想通貨は支払い手段としてメインストリームになる可能性は低いという見解だ。
世界金融危機で中央銀行が大量の紙幣を発行したことへの不信感から黎明期の仮想通貨マーケットに参入した投資家は、仮想通貨が法定通貨に取って代わると考えていた。しかし、実際には先進国や新興国においても目立ったインフレは起こっておらず、法定通貨は貨幣としての役割(価値尺度機能、決済手段機能、価値保存機能)を果たし続けている。同レポートでは、こうした事実から「マーケットの法定通貨への懸念は確実に薄れてきている」と述べている。
また、法定通貨には自然独占性があるという理由、通貨を発行することによって政府が得る多額の利益(シニョレッジ)を手放しはしないだろうという理由が挙げられている。仮想通貨がより強い影響力を持つようになれば、権益を守りたい政府はその力を抑えにかかるかもしれない。
「いくつかの中央銀行は独自の仮想通貨を発行することも検討しているが、支払い手段としての効率性がそこまで明白でないため、実際に導入されるまでの道のりはまだまだ長い」と同レポートでは述べられている。中央銀行が仮想通貨に対して否定的な理由には、仮想通貨が経済的かつ社会的に重要な役割を果たしてきた銀行による金融仲介機能を脅かすという理由も少なからずあるだろう。
仮想通貨は政府や銀行といった中央機関の仲介を必要とすることなく、ピアツーピアでの決済を可能にすることを目指し誕生したデジタル通貨だ。長く経済の発展に貢献してきた部分準備銀行制度を脅かし、民間の銀行業務を奪うと言われている仮想通貨の存在を、中央銀行は問題視しないわけにはいかないだろう。
同レポートでは、「数年に渡って収益性が高く他のメジャーなアセットとの相関性が低い仮想通貨は、グローバル債や株式投資と並んで投資先のひとつとして存続していく可能性もある」としており、より可能性が高いのは「今の投機色が強いフェーズを抜け出し一般的な投資対象として落ち着く場合、仮想通貨は平均的なボラティリティ・相関性に落ち着いていくだろう」と推測している。
【参照サイト】JPMorgan Publishes The “Bitcoin Bible”
木村つぐみ
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