ESG投資は結果重視へ。GPIFと世銀、債券投資のESGに関する共同報告書を公表

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年金積立金管理運用独立行政法人GPIFと世界銀行グループ(WBG)は11月7日、債券投資におけるESGの考慮に関する共同研究の報告書を発表した。

世界銀行、WBG の民間部門に特化した国際金融公社(IFC)、GPIF が協力、様々な資産クラスへの投資の意思決定に環境 ・社会・ガバナンス (ESG)の基準を組み込む戦略を促す内容。持続可能な投資へ向けてさらに多くの資本を振り向け、民間部門を活用して国連の持続可能な開発目標 (SDGs) の達成に必要な規模の投資を実現することを最終目標とする。

報告書は「債券投資への環境・社会・ガバナンス(ESG)要素の統合」のタイトルで、「現状認識と調査研究の背景」「債券投資におけるESG分析とは?」「ESGと財務パフォーマンスー主な先行研究の結果」「債権ESG投資のためのツール」「債券投資家はどのようにESGを実践しているのか?」「主なトレンドと課題」「結論:プロセスからインパクトへ」の7章で構成している。

報告書では、「ESGの要素が債券投資家にとって重要な信用リスクであることを多くの研究が示している」と指摘。「その実証結果は、ESGの統合が財務的な利益の犠牲につながるとの見解を否定し、むしろより安定した財務的な利益を得るために、包括的な信用リスク分析の一部として債券投資にESGを統合すべきことを示唆している」と解説し、ESG要素の統合をアジェンダとして示唆。さらに「ESG 投資はグリーンボンドに限定された特別 ・ 特殊な活動ではなく、債券投資家にとっての一般的な投資プロセスとなりつつある」と、ESG投資が浸透しつつあるという見解に立つ。

債券投資へのESG の統合は「特有の課題もあるが、 株式投資での例に急速に追いつきつつあり、特に社債と国際機関債において著しい」。一方で国債、資産担保証券、プライベート・デット(融資ファンド)においては「まだ課題が多い」と指摘する。

また、一部の投資家では、 ESGをリスクとリターンの側面としてみるだけでなく、社会的事業を行う企業や組織、ファンドへ投資することで社会的成果と財務的リターンの両立を目指すインパクト投資を統合させるという動きを例示。その方法として、 ポートフォリオが環境や社会における特定の事象に与えるインパクトを測定、さらに進んで国際連合の 「持続可能な開発目標」(SDGs)と関連づける手法などを挙げている。

機関投資家が ESGを実践する際の方法としては「レーベルド」(グリーンボンド、 ソーシャルボンド、サステナブル)ボンド(訳注 :発行体がグリーンボンド等として発行し、調達資金が環境等の関連資産/プロジェクトに充てられる債券)の購入、ESGや社会的責任投資(SRI)のファンド設定、またはそれらのファンドへの投資、ESG指数に追随する投資、 ESGのアクティブ運用マネジャーの採用、 投資プロセス全体へのESGの統合などが挙げられる。

課題として「依然として 多くの投資家にとってESGの実践にはまだ課題があり、特に債券投資ではなおさらである」と提起。「ESGについてはまだ標準的な定義が確立されておらず、特に「社会」(S)の分野に関しては様々な見解がある。データについては、精度が高まりつつあり、 情報源も多様になっているものの、新興国市場を中心にまだ十分とはいえない」という認識を示す。

特に債券については「発行体(特に国債の発行体である政府) とのエンゲージメント(建設的な対話)の推進が難しい、信用格付や債券指数においてESG が果たす役割が不明瞭、株式と比べて乏しい債券指数の選択肢、 特定のESGに焦点を絞った投資商品の不足」といった要因がリスクとなっている。またグリーンボンド市場に関しては、 供給に対する需要過多を指摘。こうした点から「ESGと債券に関する概念的な分析は信用リスクにとどまらず、流動性リスクやその他の市場リスクとESG との関連にまで展開することが望まれる」とする。

ESG投資の潮流について「過程を重視するものから、 その結果を重視するものへと発展しつつある」と捉えている。今後に向けては「ESGデータをより幅広くかつ深堀りする努力を継続すべきであり、ESG 要素が債券投資に与える影響についてのより一層の研究が求められる。 また、 投資家が自身の取り組みをカスタマイズするためには、ESG の適用とインパクト投資における原則や基準についてさらに検討する余地がある」と展望する。「債券による持続可能な投資に対する需要の高まりに見合う、 より革新的な投資商品」の必要性にも言及している。

【参考記事】GPIF「債券投資におけるESGの考慮に関する共同研究の報告書(日本語)」(PDF)

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HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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