五常・アンド・カンパニー株式会社は8月23日、「2021年度版インパクトレポート」を発行した。同社はインド・カンボジア・スリランカ・ミャンマー・タジキスタン5ヶ国で中小零細事業向け小口金融サービス(マイクロファイナンス)を展開しており、22年3月末時点で融資・送金顧客数は120万世帯、融資残高は800億円を突破。顧客のうち95%が女性、82%が農村部に暮らす。「顧客へのインパクトは私たちの意思決定の中心」という定義はそのままに、今回のレポートでは、同時に「ステークホルダーである社員、環境、コミュニティ、投資家に対してもポジティブなインパクトをもたらすことができているか」を測定、改善を続けるための最初の試みとしている。
今年度は、緊急時のお金のやりくりの難易度、貯蓄サービスが顧客の生活に与える影響、顧客満足度調査など、昨年度よりさらに豊富なデータを報告。同時に、五常グループがインパクトをうみだすプロセスを確立できていることは、インパクトの結果そのものと同じく重要と考え、ソーシャル・パフォーマンス・マネジメント(Social Performance Management, SPM)、顧客の状況をより深く理解するためのインパクト調査、そして従業員満足度調査のプロセスと結果、改善点を開示した。
五常グループは、インパクト領域におけるリーディングカンパニーを目指して、全てのステークホルダーに対して、責任ある経営を行うという方針を掲げる。「五常グループのセオリー・オブ・チェンジ(Theory of Change, ToC)」は、ステークホルダーとの責任ある関わりを通じて、「金融包摂を世界中に届ける」というミッションをどのように実現しようとしているかを示す。同時に、五常グループの事業が環境に悪影響を与えないように、環境指標を設定しモニタリングを開始した。また、事業を営む地域社会の繁栄が顧客のウェルビーイングに欠かせないと考え、チャリティーやプロボノ活動を通じてコミュニティの支援にも取り組む。
日々業務を行い、持続的に金融サービスを提供するために、グループ全体で重視すべき重要課題(マテリアリティ)を策定。五常グループが直面する可能性のある課題を洗い出し、優先順位をつけることから始め、次に、様々なステークホルダーから集めたそれぞれの課題の重要性に関するインプットを元に、取締役や経営陣との議論を重ね、優先順位を五常グループのマテリアリティ・マップとして可視化した。
また、今年度は、金融サービスが顧客の生活ニーズに適合していたかを測定し、金融機関のインパクト測定のあり方に一石を投じる「Fit Factor」についてのディスカッション・ペーパーも公表。通常、融資が人生にもたらすインパクトを測定しようとすると、融資を受けた後の状況、例えば、収入が増えたか、教育にお金を使えるようになったか、資産を得ることができたかなどに注目しがちだが、レポートでは融資や貯蓄がどのように顧客の生活にフィットし、日々のやりくりを助けたかを知るため、金融サービスとキャッシュフローの関係を分析する新しいインパクト指標を提案する。
同社のビジョンは、金融サービスから排除されている人々が障壁を乗り越え、誰もが自分の未来を決めることができる世界をつくること。ビジョンの実現のため、SDGs(持続可能な開発目標)が掲げる目標1「貧困をなくそう」、目標8「働きがいも経済成長も」、目標10「人や国の不平等をなくそう」に取り組む。
さらに、女性の顧客割合が95%であることから、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」、目標6「安全な水とトイレを世界中に」、目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」、目標16「平和と公正をすべての人に」の実現も目指す。
「世界中の人々にとって困難な状況が続くが、だからこそ、私たちには質の高い金融サービスを提供し続ける責任がある。これからも顧客とコミュニティが必要とするサポートを継続しながら、全てのステークホルダーに対する責任をもって金融包摂の取り組みを継続していく」としている。
五常社は金融包摂を世界中に届けることをミッションとして、14年7月に設立。低価格で良質な金融サービスを30年までに50カ国1億人以上に届けることを目標とする。22年6月末時点でインド・カンボジア・スリランカ・ミャンマー・タジキスタンに8000名を超えるグループ従業員を擁し、融資顧客数は120万人、融資残高は800億円を突破した。21年11月に「J-Startup」選出、22年6月に「日本スタートアップ大賞2022 経済産業大臣賞(ダイバーシティ賞)」を受賞。
【関連サイト】五常・アンド・カンパニー「2021年度版インパクトレポート」
【関連サイト】五常・アンド・カンパニー

HEDGE GUIDE編集部 ESG投資チーム

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