自然由来の炭素除去クレジット開発を手掛けるChestnut Carbonは7月22日、米国のボランタリー炭素市場における植林プロジェクトを対象とした、最大2億1,000万ドルのノンリコース・プロジェクトファイナンスによるクレジットファシリティを組成したと発表した。これは、米国の植林による炭素除去プロジェクトとしては初となる銀行融資であり、ボランタリー炭素市場の拡大に向けた画期的な一歩となる。
本ファイナンスは、J.P. Morganが主導し、CoBank、モントリオール銀行(BMO)、およびEast West Bankが参加するシンジケート団によって組成された。この取引の根幹をなすのは、Chestnut Carbonが2025年初頭にマイクロソフトと締結した、米国最大級の炭素除去クレジットに関する長期購入契約(オフテイク契約)だ。
今回の資金調達は、特定のプロジェクトが生み出す将来のキャッシュフローのみを返済原資とし、事業主本体の信用力に遡及しない「ノンリコース」型のプロジェクトファイナンスだ。この手法は、再生可能エネルギー発電事業など確立されたインフラ分野では一般的だが、これまでボランタリー炭素市場、特に自然由来のプロジェクトで適用されることは稀だった。マイクロソフトとの長期契約が安定した収益見通しを担保することで、金融機関による厳格な与信審査と融資実行を可能にした。この成功は、自然由来の炭素除去という新しい資産クラスが、投資可能かつ銀行融資が可能な対象として構築できることを証明するものだ。
この取引は、ボランタリー炭素市場におけるプロジェクトファイナンスの新たな基準を打ち立て、金融機関の信頼を高めるとともに、より広範な機関投資家層をプロジェクト開発者に引き合わせる可能性を秘めている。Chestnut Carbonにとっては、植林事業の拡大と炭素除去能力の増強に必要な資金を確保し、気候変動対策と生物多様性の目標達成を加速させる。同時に、マイクロソフトは自社のカーボンネガティブ目標達成に向け、耐久性と信頼性の高い炭素クレジットを安定的に確保できる。
Chestnut Carbonは、エネルギー分野に特化したオルタナティブ資産運用会社Kimmeridgeの支援を受け2022年に設立された。米国内の家族経営の林地や、生産性の低い農地・牧
草地を活用した独自の森林炭素オフセットプロジェクト開発を専門としている。
Chestnut Carbonの最高財務責任者(CFO)であるグレッグ・アダムス氏は、「この画期的な取引の完了を喜ばしく思う。本ファシリティは、当社の植林と炭素除去の取り組みを加速させる資金を確保するだけでなく、ボランタリー炭素市場における持続可能なファイナンスの複製可能なモデルを確立するものだ。これは当社と業界全体にとって、大きな変革をもたらすと確信している」と述べた。
J.P. MorganでCenter for Carbon Transitionのグローバル責任者を務めるヴィジュナン・バチュ氏は、「この種のファイナンスは、開発者が魅力的な資本コストで事業を推進するために必要な資金的基盤を提供する。これにより、開発者は大規模な炭素プロジェクトの実行と契約履行に専念できる。J.P. Morganは、この重要な取引に参加し、炭素市場全体の成長に貢献できることを光栄に思う」とコメントした。
マイクロソフトのエネルギー・炭素除去担当シニアディレクターであるブライアン・マーズ氏は、「本件は、自然由来の炭素除去が、体系的で信頼性の高いファイナンスを通じていかに規模を拡大できるかを示す上で、意義深い一歩となる。耐久性のある炭素除去の供給拡大を支える新たな資金調達モデルの登場を歓迎する。マイクロソフトは、投資とイノベーションを促進する長期的な購入契約を通じて、ボランタリー炭素市場の発展に引き続き貢献していく」と語った。

HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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