金融機関の脱炭素目標設定、化石燃料からの移行方針義務化へ。SBTi最終基準発表

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企業の脱炭素目標設定における主要な基準策定機関である科学的根拠に基づく目標イニシアチブ(SBTi)は7月22日、金融機関向けネットゼロ基準(FINZ)の最終版を公表した。この基準は、金融機関に対して化石燃料からの移行方針の採用を義務付け、ポートフォリオ排出量の計算において炭素除去の使用を禁止するなど、金融セクターの脱炭素化に向けた具体的な要件を定めている。

SBTiの義務的な化石燃料移行方針では、金融機関は石炭拡張への全ての融資を即座に停止し、石油・ガス拡張への新規プロジェクトファイナンスも即座に停止することが求められる。さらに、石油・ガス拡張を行う企業への一般目的融資については、遅くとも2030年までに段階的に廃止することが義務付けられている。この基準は、保険引受業務における化石燃料プロジェクトも対象範囲に含めており、金融セクター全体での脱炭素化を促進する内容となっている。

最終基準は、2024年10月に米国の環境保護団体シエラ・クラブおよび消費者権利擁護団体のパブリック・シチズンが提出した共同コメントを含む、複数のフィードバックを一部反映している。しかし、金融機関に移行計画の発行を義務付けることや、「対象範囲内」の金融取引に関する抜け穴の解消、排出集約的な活動・セクターのリストの拡大など、一部の推奨事項は採用されなかった。また、森林破壊に関する方針の文言が弱められ、化石燃料拡張への一般目的融資の停止まで数年の猶予期間が設けられたことで、既存の拡張計画により数十年にわたる石油・ガス依存が固定化される可能性が指摘されている。

シエラ・クラブのサステナブルファイナンスキャンペーン政策顧問のジェシー・ワックスマン氏は「SBTiの最終ガイドラインは、金融機関にとって信頼性のあるネットゼロ計画とは何かを明確にしている。この新基準が、化石燃料拡張への融資はいかなる真剣なネットゼロコミットメントとも根本的に相容れないことを明確に示していることは心強い」とコメントした。一方で、パブリック・シチズンの気候プログラムの気候・金融規制政策ディレクターであるエルネスト・アルチラ氏は、基準の重要性を認めつつも「森林破壊要件の弱体化、石油・ガスへの一般目的融資の停止を2030年まで延期すること、移行計画の要求を怠ったことなど、いくつかの側面で現在の必要性に応えられていない」と指摘している。

今回の基準策定は、金融セクターの脱炭素化において重要な一歩となる。日本の金融機関も含め、世界の金融機関がこの基準を採用し、戦略を整合させることで、パリ協定の目標達成に向けた具体的な行動が加速することが期待される。

【参照記事】Corporate Climate Group SBTi Published Final Standards for Financial Institutions to Achieve Net Zero

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HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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